2023/08/07 コラム

テレビ・新聞が一斉報道した「自転車の違反に青切符」…違反者の特定は現状不可。ならどうする?

ついに始まるのか”自転車違反金”

自転車に反則金! 2023年8月、テレビ・新聞が一斉に報じた。ようやく本気で動きだしたらしい。こういう方向へ動くぞ動くぞと、私は2009年から言い続けてきた。なのでたいへん感慨深い。

自転車の違反の取り締まりは、昔は多くて年間200件程度。たった10件だった年もある。ところが、2005年あたりから急にどどっと増え、2008年に1000件を突破した。

ご存知のとおり、クルマ・バイクの違反と違って自転車の違反は、青切符ではなく赤切符、反則金ではなく罰金の扱いになる。それじゃ不公平だし手間もかかるんで、自転車の違反はほぼすべて不起訴になる。現場の警察官からすれば、頑張って取り締まってもどうせ不起訴、馬鹿馬鹿しい。けど別に問題にならなかった。取り締まりがめっちゃ少なかったからだ。

ところが警察庁は、自転車違反の取り締まりを激増させた。問題をわざわざ顕在化させようとした。ははあ、自転車の違反を赤切符&罰金の扱いから外す、そっちへ動くつもりなんだなと、2008年のデータを2009年に見てから、私はずっと言い続けてきた。

その後、自転車違反の取り締まりはぐんぐん増え、2019年には2万件を突破! 2023年、酷暑の夏にようやく「自転車に反則金!」と一斉報道があったんである。感慨深いでしょ。

さて、お気づきだろうか、私は「こういう方向へ動く」「そっちへ動く」という言い方をした。自転車に青切符&反則金の制度が適用されるとは、どうも私は思えない。理由は大きく2つある。

1、違反者の特定をどうする

クルマ・バイクに対する取り締まりでは、運転者の特定を免許証で行う。不携帯なら、氏名・住所・生年月日を言わせ、運転免許センターに照会をかける。ヒットがなければ無免許運転で検挙だ。

一方、自転車は免許不要だ。写真付きの身分証明書を持たない人もいる。兄弟や友人の氏名を言う者もいるだろう。違反者がどこの誰か、しっかり特定できなければ青切符を切れない。

2、反則金不納付は刑事手続きに

反則金を払えばオシマイだが、払わなければ刑事手続きの扱い、つまり赤切符と同じ扱いになる。たとえば不納付の高校生は、少年法により家庭裁判所へ送致される。非常に面倒だ。警察、検察、成人の裁判所、少年の家庭裁判所の負担は大きい。耐えられるのか。

というわけで、自転車の違反を青切符&反則金で処理するのは、良策とは言い難い、私はそう考える。警察庁は8月中に「有識者の検討会」を設け、年内に「提言」を取りまとめるという。有識者たちは、警察庁が用意した資料に導かれ、きっとこう提言するだろう。

「この際、反則金とは異なる少額の制裁金を課すのが望ましい」

2006年6月から駐車違反限定で「放置違反金」の制度がスタートしている。放置違反金は、違反者ではなく違反車両の持ち主に課す。持ち主が納付しなければ強制執行、つまり預貯金などを差し押さえる。

同様に、自転車の購入者として登録された者に「自転車違反金」を課すのがいいと私は思う。たとえば中学生が自転車違反で取り締まりを受けた場合、自転車を買い与えた親から違反金を徴収する。親は息子または娘に「もう違反すんなよ。今度やったらお年玉を差し押さえるぞ」とか説教する。ばっちりだ。そっちへ動いていくだろうと、2009年から私は言い続けてきたわけ。

じゃあ、「自転車に反則金!」という一斉報道は何なのか。いきなり自転車違反金といっても、お茶の間の国民は首をひねってしまう。かつ、新しく大がかりなことは、有識者の提言を受けた形にするのが望ましい。そこで、自転車の違反について大がかりなことをやりますよ、これから有識者に検討してもらいますよと、まずは旗を振った、とまあそういうことかと。

もちろん、自転車違反金にも難しい問題はある。新規の自転車販売の際は、7月1日以降の電動キックボードのような“小さなナンバープレート”を義務付けるとして、2019年時点で約6870万台(国土交通省)の自転車の中には、防犯登録のないものも多数含まれるはず。

当面は反則金の対象とし、「悪質な自転車違反をやっつけろ!」の世論を醸成しつつ全自転車にナンバーを義務付ける手もあるだろう。どう転がっていくか、わくわく見張っていきたい。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通違反以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。

ドライバーWeb編集部

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