2022/03/18 コラム

バイバイASIMO…。“ランドセル”を背負ったホンダの人間型ロボットがついに“卒業”。その功績を歴代モデルで振り返る

●その役目を終え、得られた知見は次世代へ



企業理念に「技術は人のために」を掲げたホンダのASIMOのデザインは、決して人を模したようなリアリティを目指していないのが特徴です。人のためになるテクノロジーを追求しながらも、人に親しみを持ってもらえるような存在感を大切にしたホンダデザインの力作だと感じます。ブラックアウトした顔の奥に2つのレンズが薄っすらみえるものの「目」としての存在感は薄く、それでいてどことなく可愛らしさを感じるのはASIMO誕生の前年に登場したソニーのAIBOの初期モデルのかわいらしさに通じるように感じます。「またソニーかよ」とお叱りを受けそうですがこの2つの会社、ときどきイメージが重なるのは企業風土に似たような部分があって、それがプロダクトに見え隠れするのかもしれません。

ホンダとソニーは先ごろEVの共同開発や販売、モビリティ向けサービスの提供において手を組むと発表しました。こちらの戦力的提携は両社から正式に発表されたもので、この新しいプロジェクトにもホンダやソニーらしさに満ちた夢のある何かを期待したいものです。


●2005年に登場したモデルは初代と最終型の中間的デザインで下腹部のフォルムに特徴あり。身長は120cmから130cmへとちょっぴり背が伸びました

話をASIMOに戻します。2000年に誕生したASIMOはその後、様々な技術を進化させ身体能力や作業機能を向上させます。今はバックも片足でケンケンもできるようになりました。柔らかい紙コップも持てるし、複雑な指の動きを必要とする手話もできるようになりました。複数のASIMOがネットワークを介して作業を分担し共同作業もできるようになりました。東京モーターショーをはじめホンダの様々なイベントで来場者を楽しませてきました。かつて一歩すすむのに5秒もかかったE0から進化してきたASIMO。今や9km/hで走ることができ、サッカーボールを蹴ることもできます。


●東京モーターショーでも大活躍しました(2009年)


●2011年には大幅に手先が器用になりました


今じゃサーカーボールを蹴るのも大得意。ホンダウエルカムプラザ青山では実演してくれます

2011年3月、東日本大震災に伴う福島第一原発の事故が起こった際、ホンダには「ASIMOは、原発に行けないんですか?」との声が相次いだそうです。生身の人間が近寄ることのできない危険な現場でこそロボットに何とかして欲しいという期待は自然なものだったのかもしれません。ここからASIMO開発チームがこれまで積み重ねてきた知見を生かしながら2年の歳月をかけ高所調査用ロボットが開発され、現場に投入されたとのことです。

思えばE0が登場した1986年というのは現在のウクライナに位置するチェルノブイリ原発が大事故を起こした年です。あれから36年近く経った今、ASIMOはその役目を一旦終え、培われたノウハウはアバターロボット(分身ロボット)の開発にバトンを渡しました。近い未来には危険な場所での作業もそれぞれの専門家の分身が担ってくれるかもしれません。


●ASIMOの開発から生まれたプロダクトも数多く、ホンダは2030年代の実用化を目指しアバターロボット(分身ロボット)の開発に注力していくとのこと

2011年に登場したASIMOはデザイン的にもさらに洗練された優しさを感じます。ランドセルもずいぶん小さくなりました。球形に見える頭も実は横から見るとちょっぴり下膨れに見えとても愛嬌を感じます。


●ランドセルも小さくなり、細部のデザインもかなり柔らかくなりました


●下膨れのポテッとした横顔がとてもかわいい

冒頭で記したように、ホンダウエルカムプラザ青山では3月31日まで特別展示「ASIMO開発の歩み」が開催されています。ASIMOが歌って踊ってサッカーボールも蹴るASIMOステージショーも毎日行われています。あとわずかの日程ですがクルマやバイクだけじゃないホンダの理念が形になったASIMOを見に行きませんか。もちろん入場無料です。

〈文と写真=高橋 学〉

ドライバーWeb編集部

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