2022/03/14 コラム

飲酒運転による危険運転致死傷…千葉県八街市の児童死傷事故、上限が懲役15年の理由とは

厳罰化、だけでは痛ましい事故は減らない

■上限が15年だなんて低すぎる?

千葉県の八街市で2021年6月、下校中の小学生の列にトラックが突っ込んだ。児童2人が死亡、3人が重軽傷。トラックの運転手は飲酒運転で、居眠りだった。とんでもない事件だ。大きく全国報道され、社会は震撼した。

運転手は「危険運転致死傷」で起訴された。千葉地裁での裁判は2022年3月2日に結審。これも全国報道された。どの報道にもこうあった。

≪検察は法定刑の上限となる懲役15年を求刑した。≫

上限が15年!? 低すぎない!? 多くの方が驚いたのではないか。東名高速のあのとんでもない“あおり事故”は、求刑が懲役23年、判決は懲役18年(※)だった。八街市の“飲酒突っ込み事故”も極めて悪質なのに、法定刑の上限は懲役15年、そんなバカな。誤報か? ※のちに東京高裁で破棄される。

いや、誤報じゃない。じつは、飲酒運転での「危険運転致死傷」は2種類あるのだ。以下は「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」の第2条、その柱書と、「次に掲げる行為」として第8号まであるうちの第1号のみだ。

≪第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
 一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為≫

「有期懲役」の上限は、刑法第12条第1項により20年と定められている。アルコールの影響で「正常な運転が困難な状態」、つまり要するに酔った状態で運転して人を死亡させたら、法定刑の上限は20年(※)なのである。仮に“酒酔い危険致死”と呼ぼうか。これが2種類の1つ。 ※別件と併合罪で裁かれると上限30年。

もう1つは、同法第3条だ。以下はその第1項のみ。

≪第三条 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。≫

報道によれば、本件被告人は昼食時に焼酎(アルコール20度、220cc)を飲んだ。つまり「走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」で運転。約27キロの距離を、事故を起こすことなく走行した。が、本件現場へさしかかる辺りで居眠り状態になった、アルコールの影響により「正常な運転が困難な状態に」陥った。そして下校の児童らに突っ込んだ!

よって、第2条ではなく第3条が適用された。第2条なら刑の上限は懲役20年だが、第3条なので上限は懲役15年。そういうことなのだ。ちなみに、第2条の“酒酔い危険致死”は裁判員裁判だが、第3条の“おそれあり危険致死”は通常の裁判だ。

判決は3月25日と指定されている。求刑の8掛けが相場と言われる。求刑が15年なら判決は懲役12年。どうなるのか。

私は思う。泣きたいほど思う。こんな被告人を懲役1万年に処したって、失われた命は戻らない! どうすりゃいいのか。飲酒運転、ながらスマホ運転、どんな理由であれクルマが進路をそれることはあり得る。それたクルマが突っ込まないよう、防御するしかない。本件では頑丈なガードレールで通学の児童を護るべきだった。

しかし世間は、そうは考えない。「加害者に厳罰を科せ!」と盛り上がって終わる。そうして全国各地に、進路をそれたクルマが突っ込みかねない通学路が普通にあり続け、同種の悲劇が起こり続ける。失われなくていいはずの柔らかな命が失われ続ける。私は悔しくて悔しくてたまらない!

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を好評発行中。

ドライバーWeb編集部

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