2019/10/30 コラム

ミッドシップ+4WD+ハイキャス! 市販化直前と言われたコンセプトカー「日産MID4」は走るとどうだったのか?

●日産MID4



4WDに後輪操舵「ハイキャス」も組み合わせた駆動システム


●東京モーターショーではドライブトレインの構造も紹介していた。後方のエンジンから前輪へもドライブシャフトが伸びていて、全輪を駆動するマシンなのが一目で説明できる展示だった。

MID4の4WDシステムは常時前後輪に駆動力が伝わるフルタイム方式を採用する。ミッションはFFのブルーバード・マキシマ用を強化。それに前後輪を駆動するトランスファーを組み込んでいる。前後輪の駆動とトルク配分はセンターデフの役目をする遊星ギヤで、さらに遊星ギヤにビスカスカップリングを加えることで、リミテッドスリップデフの働きを持たせている。前輪への駆動力はプロペラシャフトによって、エンジンとミッションの間をくぐるようにして導かれている。実際にパートタイム式の4WD車のようなタイトコーナーブレーキング現象はほとんど感じられなかった。トルク配分は今のところ前後比で35:65だが、この値は市販までに変更される可能性があるという。

サスペンションは4輪ストラット式だ。スカイライン(*)と同様に後輪操舵機構「ハイキャス」が装着される。最大変化角は0.5度で、前輪と同位相に後輪を操舵。ただし、コンプライアンス分だけ変化する方式とは異なり、リヤにもフロントと同じようなステアリングシステムを用いている。ストラットと一体式のナックルアームに続く左右輪を結ぶ体トッドの中間に往復式の油圧シリンダーを置き、そのストロークによって操舵するメカニズムだ。スカイラインよりも繊細なハイキャス効果が得られるという。

*同じく7代目R31スカイラインのこと。量産車で世界初となるアクティブ後輪操舵機構「ハイキャス」を採用した。

4WDとはいっても、MID4はそのスタイリングどおり正真正銘のリアルスポーツである。ターンインは全くもってスムーズ。ステアリングに与えた舵角に合わせて、素直にノーズをインに向けてくれる。ステアリング系の剛性感はさほど高くないし、際立ってシャープなレスポンスを示すとも言いにくいが、クルマを自在に操れる。誰が乗っても速く走れることを目標に開発されたというだけのことはある。さらにもう一歩突っ込むと、テールアウト気味の姿勢でコーナーに進入できる。タイトコーナーなら、ブレーキング時の荷重移動を利用すればたやすくリヤををスライドさせられるし、すかさずアクセルに足を乗せればそのフォームを守ったままクリッピングポイントをパスしていける。4WDだから、FR車のようにリヤタイヤのスライドがパワーロスに大きく影響する心配もない。このあたりの扱いやすさと駆動力の高さは、ミッドシップ4WDだけに許された特性だ。しかも、素直に走らせてもマニアックに走らせても速いときている。


●「手造りの試作車」のようだったという試乗車には、外観が微妙に違うバージョンも。ボンネットのスリットや、サイドのエアインテーク、Cピラー、フューエルリッドなどの形状が白の試乗車や東京モーターショー出展版とは異なっている。

従来の4WD──特にフロントに片寄るFFベースの4WDはタイトコーナーが大の苦手だが、ミッドシップのMID4にはあてはまらない。中速以上で抜けるコーナーではほぼニュートラルに近いハンドリングが味わえた。限界に達するとリヤから少しずつスライドを始め、クルマがドライバーに危険信号を送ってくれる。ハイキャスの効果もスカイライン以上に現れ、姿勢の修正もわずかなカウンターステアを与えるだけでいい。さらにいえば、クローズドコース内の試乗だったので限界まで攻められたが、一般路でその域を超えられるのは、絶対的なスピード感に慣れたレーシングドライバーか、よほどの飛ばし屋ぐらいだろう。

MID4の開発スタッフは、限界時のリヤスライドそのものを抑え、高次元のスタビリティを確保するためサスペンションチューニングを進めていくという。高度なテクニックを必要とせずに、レーシングドライバー並みの走りがこなせる時代がすぐそこまで来ているのだ。しかし、ひとりのカーマニアとしての本音を明かせば、フェラーリのようにある意味では乗り手を選ぶクルマでもあってほしい気もした。今や時代錯誤かもしれないが、国産車にも1台ぐらいそんなクルマがあってもいいと思うのだ。


[日産MID4主要諸元]
■寸法・重量全長:4150㎜全幅:1770㎜全高:1200㎜ホイールベース:2435㎜車両重量:1230㎏
■エンジン型式:VG30DE型水冷V6 DOHCボア×ストローク:87㎜×83㎜排気量:2960cc圧縮比:10.0潤滑方式:ウエットサンプ最高出力:230馬力/6000回転最大トルク:28.5㎏m/4000回転
■諸装置クラッチ:乾式単板ダイヤフラムトランスファー:センターデフ&ビスカスカップリングステアリング:ラック&ピニオン(パワーアシスト付き)サスペンション:前後ともストラット独立(後輪HICAS付き)ブレーキ:前後ともベンチレーテッドディスクタイヤ:205/60R15・89H燃料タンク容量:65L


●フロントトランクにはバッテリーやスペアタイヤが収められる。車体先端のファンが付いている部分はラジエター。


●ボンネットフード前方にはダクトが設けられ、ラジエターグリルから吸い込んだエアを排出する。

●テスト車のタイヤはプロダクションレース仕様のポテンザRE71S(205/60R15・89H)。ブレーキは4輪ベンチレーテッドディスク。ABSの装着が予定されていた(テスト車は未装着)。

●リヤトランクは十分な収納容量を確保。ゴルフバッグ2個を収納することを目標としたという。

当時の試乗レポートは以上だ。1985年の時点でこれほどコンセプトどおりの走りを実現していたのに驚かされるが、その次のモーターショー、1987年の第27回東京モーターショーでは改良型(MID4-Ⅱなどと呼ばれる)が出展され「もはや市販化間違いなしか」というムードが高まった。しかし、残念ながらMID4はそのままの姿で市販されることはなかった。市販する場合の価格(当時1500万円~2000万円ほどになるのではないかと推測された)や、バブル崩壊による景気の後退が影響したのではないかと言われる。ただ、このMID4開発で実証された「スポーツできる4WDシステム+ハイキャス」という構成はR32 スカイラインGT-Rに生かされたほか、ツインカムのV6エンジンはZ31 フェアレディZ/F31 レパードなど量産モデルでも実現されるなど、姿を変えてMID4の「走りの魂」はさまざまな日産車に継承されていった。

当記事は1985年ドライバー誌11月20日号の記事を再構成したものです。(試乗レポーター●萩原秀輝 写真●齋藤 賢/茂垣克巳 編集●オールドタイマー編集部・上野)

ドライバーWeb編集部

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