2023/05/14 旧車

廃車がスポーツカーに化ける!?「ポンコツ再生グッズ」をブチ込むべし【旧車雑誌オールドタイマーより】

記憶にある方、いらっしゃるだろうか…

業界唯一の?サビ取り旧車雑誌「オールドタイマー」の過去記事からおもしろネタを厳選して再掲載!



◇◇◇下記、当時原文ママ(2004年10月号)◇◇◇
 
魅惑のポンコツ若返りグッズ 1964年編

とにかくこの時代、庶民のマイカーはボロい。エンジンボーリングだって定期整備のうち。そんなオーナーを惑わせた怪しい“馬力アップパーツ”。スポーツカーに憧れた悲しき庶民の悪あがきをとくとご覧あれ。オモロイよ。

文/錆田正一(解体部品幻想家)

1964年の用品トレンドは何か? エキゾーストブースターもそうだけど、やたらと“馬力増大系”グッズが多いんだわ。夜店のオモチャに毛が生えたようなシロモンばっかだが、そのコロシ文句はみな「あなたのクルマがスポーツカーになる」みたいなもの。とにかく日本人が「スポーツカー」に目覚めちゃったんですよ、1964年は。

じゃあ“スポーツカー熱”の感染源は何だと思う? 名神高速の開通と第2回日本グランプリの影響だけじゃないよ。アンタだけに教えるけど、そりゃ「1964年の東京オリンピック」だって。

オリンピックといえばスポーツの祭典。サラリーマンもオモライ君も、国民すべからく“スポーツ”にカブれ、カキ崩した1964年。結果、それまで不良成金バカ息子の道楽ぐらいにしか思われてなかったスポーツカーまでが「スポーツと名が付くのだから明るくマジメで健康的に違いない」と再評価されたんです、ハイ。

ウソだと思うなら、この年の第11回東京モーターショーを覗いてみてよ。前年に“バンケルエンジン”を展示したマツダは、いよいよコスモスポーツのプロトタイプを舞台に上げたね。「シルビア」の名で発売されるダットサンクーペ1500も姿を現わした。それまで日本人のイメージするスポーツカーってのは“太陽族が乗り回す退廃的無蓋自動車”だったけど、ようやく2ドアクーペもスポーツカーと認められるに至ったんだな。

のちのトヨタスポーツ800たるパブリカスポーツもこのショーで登場(前年はキャノピー型ドアのプロト)。フロンテ800も量産試作車を持ち込んで市販の前宣伝。コンパーノスパイダーやコンテッサクーペもこのショーで本格デビューしとります。そういやグロリアスーパー6の6気筒をブチ込んだプリンススカイラインGT(のちにウエーバーキャブ装着車をGT-Bと呼称)も1964年生まれ。3シーターだったフェアレディ1500が完全な2シーターになったのも1964年。スポーツカー花盛りでありました。

そのフィーバーぶりをもっと端的に表したのが、ベレット、ブルーバードに加わった“2ドアセダン”なるボディバリエーション。つまりはコレ、4ドアの後ろ2枚を目張りして2ドアにしたもの。4ドア車をクーペに改造するのは大変だから、ドアの数だけ減らして“スポーツ風”にしたわけ。素直に破綻年金払い続ける国民ですから、このくらいの子供ダマシでも充分通じたんです。

つまり1964年てのは外国の純粋スポーツカーの意訳(レベルダウン)と、大衆車のレベルアップで生まれた「戦後民主主義型スポーツカー」の時代ですな。「みんなで乗ろうスポーツカー」なんて横断幕があってしかるべき第11回モーターショー。同じ敗戦国でもイタリアにゃアバルトやモレッティなんてチューニング屋があり、フィアットの大衆車を親のカタキみたいにブッた切ってエキセントリックな「スポーツカー」を作ったのとはいかにも対象的じゃないですか。マア、料理でもファッションでも輸入文化を徹底してこれ食い散らかし大衆化する貪欲さは、日本人唯一無二の特技ですがね。

でも、現実の1964年はまだみんな貧乏だから、「大衆スポーツカー」はおろか、大衆車だって買えるもんじゃなかった。1964年のモーターマガジン誌をめくってたら『中古車購入ガイド』なんて特集があって、その一文にこうある……「中古車とひとくちに言っても下は1938年式ダットサンフェートンから上は1963年式の新古車まである。だが最近はダットサンフェートンも希少価値が出てきて10万円以下ではなかなか見つからない……」。

ダットサンフェートンもまだまだマイカー候補だったんだぜ、1964年。GTだスポーツカーだなんてそりゃ夢物語。大卒初任給2万円の時代でローン制度もない。倹約してして、やっと買えたクルマはせいぜいガタピシのタクシー上がり。そんな庶民オーナーをハチ女のごとく誘惑したのが、ここに紹介する怪しくも魅力的なチューニング……もとい「ポンコツ再生グッズ」の数々ですわ。これさえブチ込めば廃車もスポーツカーに変身。近ごろ、廃人もヤク打ちゃスポーツマンになるらしいが、同じことを1964年の中古車業界は先んじて実践していたわけです。


●この時代の点火系パーツのトレンドはダブル点火(俗称)+ネオン管。ダブル点火とは「プラグキャップを緩めに保持すると、そこに放電が起こってエンジンの掛かりが良くなる気がするんだよねえ」というメカニックのオマジナイを商品化したもの。これにネオン管を付随させ、プラグの点火に合わせてチカチカ光らせた。「フエル・セーバー」(三愛商事精機部)はそのネオン管をインジケーター風にまとめたもの


●「TAIYOプラグチャック」(泰陽・600円)もネオン系だが、ネオン管をプラグキャップと一体化し側面に突き出ている。これがさらに進化するとネオン管をプラグキャップ内部に組み込んだ「エレキサイター」になる。エレキサイターは’70年代後半まで用品店で見かけた(小生もホンダDAXに着用)


●この広告だけでは原理・取り付け法がわからない「アイオネックス」(不二家電機)。燃料パイプかハイテンションコードをこのオッサンの胴体にブチ通すのだろうが……待てよ。IONEX? イオン化云々てことですか? ちなみに現在「アイオネックス」は東レが開発した繊維状イオン交換体の登録商標


●大手メーカーも謎めいたモノを売っていた。スタンレー電気が世に問うた「イージースタート・自動車エンジン始動促進機」。「寒いとき、湿度の高いとき」でも「いっぱつで」エンジンが掛かるという。端子があるから電装系パーツであることは間違いない。ポイント用のヒーターを連想したが、バッテリーが弱っていたら逆効果だしなあ……


●こんな誇大広告も珍しい。自ら「バッテリー界の驚異」と言い、「中古廃棄バッテリーに添加の場合、新しい生命を与え新品同様に回復します」と謳うバッテリー復活剤「VX-6」(日本ダイナミックス・1350円)。「バッテリーの寿命はVX-6ただ1回の使用で半永久的に保証されます」と言う厚顔さに呆れるが、ピノキオ風のマニアックなキャラに免じて許す


●「あなたのクルマが油冷エンジンになります」てなコピーを付けてあげたい「ラジエターオイル」(寺田石油・400円)。なんとウオーターポンプの異音止めにオイルを入れちまおうという大胆なご提案。それでも昔のクルマは壊れなかった!?

【雑誌オールドタイマーとは】
旧車に特化した隔月発行の自動車雑誌です。レストアする人たちの立場からクルマをとらえ、旧車を長く乗り続けるための方法などを紹介します。現在、定期購読者様専用の会員サイト「OT-club」で、自動車本体や部品など、早い者勝ちの売買情報配信中!

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ドライバーWeb編集部

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