2023/04/28 旧車

排気管に「オバケ」を付けるとブースト快調!? 市場から消えたトンデモ自動車用品 【旧車雑誌オールドタイマーより】

記憶にある方、いらっしゃるだろうか…

業界唯一の?サビ取り旧車雑誌「オールドタイマー」の過去記事からおもしろネタを厳選して再掲載!



◇◇◇下記、当時原文ママ(2004年8月号)◇◇◇

1964年編「ブースター」って知ってるかい

昭和39年製のオモロイ部品を惜しみなく紹介しちゃうこのコーナー。今回の主役は「ブースター」。そう聞いて「ああ、アレね」とわかる人、いるかな。いないよね。じゃあ、勉強してきな。オモロイよ。

文/錆田正一(解体部品幻想家)

オリンピックの開催年は、世の中すべからく浮かれるようですな。いくら日本のお菓子が優秀だからって「世界食品オリンピック」じゃあ、こうは盛り上がりません。産業界もまた、オリンピック開催の年は万国旗はためかせて “革新的商品”を生み出します。メキシコオリンピックの年には『ボンカレー』が、ミュンヘンの年には『ゴキブリホイホイ』が、モントリオールの年には『ペッパー警部』が誕生してますよ。

じゃあ東京オリンピックの1964年はというと、この年はトンデモ自動車用品の大豊作ですわ。てことで、「1964年編」スタートです。 

今回、ミナミナサマにご紹介する商品は、「ブースター」。何なのかといえば、エキゾーストパイプの後端に付ける、マフラーカッターのオバケみたいなモノ。

英語のBoosterは推進機、増幅機なんて意味。たとえばロケットの補助エンジンをブースターなんて申します。電気の昇圧装置をブースターと呼びますね。上がったバッテリーに外から電気を食わすコードはブースターケーブル。どれもBooster本来の意味にかなったものだけど、こっちの「ブースター」だって負けてません。コレを付けるだけで、おクルマはブーストしまくり。

「エンジン馬力の増大、消音効果の向上、バルブ長持ち、カーボン付着防止 、ガソリン節約」(広告文より)となるのです。

いったいどんなモンか? 傘型、カタツムリ型などいろいろあるが、とどのつまりマフラーカッターの内部に走行風を取り入れて、その圧力とベルヌーイの定理たる吸い出し作用により排ガスを迅速かつ強力に吐き出させる…というもの。

このブースター、1964年に各社モロモロの新製品が登場してブレイクしますが、その原型となった「ジェットパワー」が日本デビューしたのはなんと1959年。まだオート三輪の広告が自動車雑誌に載っていた時代ですよ。もしやコレ、四輪用後付けマフラーの第1号かもしれんね。

このジェットパワー、適応車種はオート三輪からメグロまでと幅広かった。つまり労働車用の能率向上用品ですな。ただしジャパンオリジナルではなく、英国製の「ターボバック」という商品が原型らしい。そいつを日本の町工場でコピーしたわけね、1957年くらいに。なんとか三輪トラックをブーストしてやろうと、町工場のオヤジが使命感に燃えて。

コイツを発展させて、見栄えとスポーティさを加味したブースターが1963〜64年にドッと出たのは、やっぱ日本グランプリの影響かね。でも1970年代初めにはすっかり市場から消えちゃった。みんなどこにいっちゃったんだろ。

なんて心配してたら、最近見たんです、ブースターを。大型バスのマフラーに付いてました。マフラーエンドの下にもう1本、四角い素通しのパイプを溶接しただけだったけど、アレは間違いなくブースターですよ。おそらくこの走行風導入パイプでディーゼル黒煙の速やかなる分散をもくろんだのでしょう。40余年の時を経て、トンデモ自動車用品は相変わらずトンデモない仕事をしているのでした。


●1959年に発売されたDMジェットパワー(大門堂商事)。「ジェットの原理から研究完成された画期的製品」「通産省工業技術院機械試験所実験済」と広告に謳う。ただしこれは英国品のデッドコピー。定価850円、送料50円


●ジェットパワーのマイナーチェンジ仕様(1960年)。排気口にカザリが付いた。「オート三輪、小型四輪は本機の使用により性能が一段と向上します」。定価700円


●1964年に輸入された本家本元の英国製「ターボバック=TURBO VAC」。右が取り付け側、左が排出口。このラッパ状のダクトで走行風を導入。「さっそく60年型ヒルマンに取り付けてみると、加速の良さ、燃費の減少が表れ気をよくしております。スタンドでも珍重がられこの面でも気を良くしております」(広告文より)


●英国生まれのブースターを日本の匠が作るとこうなる。「GTラインWマフラー」と「GTジェットブースター」(1964年、東海工業)。「GTライン」は排ガスチャンバーと外気導入パイプを独立させたうえ、その導入パイプを“2本出し”にしたグッとデザイン。一方、「GTジェット」は手軽なマフラーカッターにブーストメカを内蔵。「あなたの愛車をあなたの手で見事なGTカーに」というキャッチコピーがシビレる


●1967年、ついにブースターの最終完成形「ツインブースター・コメット」が登場(高間商店、1800円)。外気導入ダクトはタイコ側面にあり、一見してブースターとはわからない。さらにメガフォン型のテールピースは2本突き出し、その内部には思わず指を突っ込みたくなるブーストメカが覗く。好きだな、この暴力的デザイン。再販したら売れますよ

【雑誌オールドタイマーとは】
旧車に特化した隔月発行の自動車雑誌。レストアする人たちの立場からクルマをとらえ、旧車を長く乗り続けるための方法などを紹介。現在、定期購読者様専用の会員サイト「OT-club」で、自動車本体や部品など、早い者勝ちの売買情報配信中!

ドライバーWeb編集部

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