2022/12/28 新車

スバル クロストレックとは何者か? ニューモデル・プロトタイプ試乗

■よりアウトドア志向へと

日本を含む一部地域ではXVだが、グローバルではクロストレックだった車名がフルモデルチェンジを機に日本でも世界共通のクロストレックに改められたのは、結構思い切った決断だったはずだ。スバルにとってXVはビジネスのコアとなる1台として、それなりにブランド力も浸透した存在だったからである。

それでも、クロスオーバーとトレッキングを掛け合わせたその車名は、ヘビーなオフロード志向ではなく気軽なアウトドアな雰囲気が出ていてワルくない。記号のネーミングより親しみやすいのも確かだろう。では、クルマの出来栄えはそれにふさわしいものになっているのだろうか?

今回はこのクロストレックのプロトタイプを伊豆サイクルスポーツセンターで試した。試乗のため用意されていたのは、クロストレックのAWDと今回初登場、日本専用のFF、そして比較用として現行モデルの3台。1台につき3周程度の試乗ではあったが、それなりに雰囲気はつかむことができた。



乗り込む前に改めて、その外観をじっくり眺めてみた。正直、パッケージングを含めた全体の印象は従来と大きく変わるものではない。しかし、より近づいて見るとその造形は現行のXVよりも躍動感があり、見た目の押し出し感は確実に強まっている。

特に、前後バンパーのクラッディングと呼ばれる樹脂部分やフェンダーアーチなどの造形は力強く頼もしい。大型化されたヘキサゴングリルも迫力十分。全体に今までよりもデコラティブな雰囲気だ。一方で基本フォルムは前傾姿勢が強まり、キャビンが後方で絞り込まれているなど、よりスポーティになった。

新型の狙いは若いユーザーへのアピールだというから、確かにこの感じはアリだろう。一方で先代や先々代の道具感や、それが転じて愛らしい雰囲気は薄まった感もあり、都会派のユーザーに対してはどうかな? とは思わないではない。デザートカーキに塗られた初代のアノ感じに引かれていた私としても、早く街の景色の中に置いて確かめてみたいと思ったところである。


●インパネの見どころは、縦型の11.6インチセンターディスプレイ(上級グレードに標準、それ以外はオプション)。レヴォーグやアウトバックと異なり基本はディスプレイオーディオで、ナビ機能を単体でメーカーオプション設定。さらにシートヒーターはタッチパネル操作ではなく、物理スイッチになったのも美点だ

インテリアは大型センターインフォメーションディスプレイを搭載することもあり、最新のスバル車に共通するテイストと言える。それでもドアトリムやセンターコンソールの意匠などはスポーティなものになっているし、新設計のシートも座った瞬間から収まり感がよく気分はいい。実際に試すことはわなかったが、インフォテインメントシステムもApple CarPlayワイヤレスの搭載など、特にスマートフォンとの連携が高められているという。



●前席シートには骨盤を安定化させて頭部の揺れを低減する、スバルとしては初の開発思想を投入。また、後席スペースは頭上空間が11mm低くなったが、ニースペースなどは同等

■XVとの比較でわかったこと

まずは現行XVを再確認したあとで、いよいよ新型クロストレックの試乗だ。最初に乗り込んだのはFFモデル。パワートレーンは2Lの水平対向4気筒エンジンにリニアトロニックCVT、それに内蔵の小型電気モーターを組み合わせた、いわゆるeボクサーだ。



クロストレックのハードウェアは基本的にはレヴォーグ以降の最新のスバル車の流れをんでいる。つまりSGP(スバルグローバルプラットフォーム)を用いるのは当然として、軽量化と高剛性化に貢献するフルインナーフレーム構造の採用、構造用接着剤の塗布範囲拡大、サスペンション取付部の剛性アップなどが図られたものである。

よって期待値は最初から高かったが、実際の走りの印象はそれをさらに超える次元にあった。サスペンションがきれいに動く一方で姿勢変化は少なく姿勢はフラット。直前に乗った現行XVも、伊豆サイクルスポーツセンターの平滑な路面では粗をあまり感じさせず、結構スムーズに走ってくれたのだが、それでもなお、しっかり進化が感じ取れた。一般道では、さらに差が出るに違いない。



●ホイールは全車アルミ製。上級グレードは18インチの切削加工(上)、標準グレードは17インチのダークメタリック塗装(下)となる

シートの出来のよさも好印象の一因だろう。座った瞬間から収まりよく感じたのは、仙骨を押さえて骨盤を立てる構造のおかげ。おのずと姿勢が正され、車体が揺さぶられたときにも頭が前後左右上下に大きく動かされずに済むというわけだが、このシートはブラケットを介さずシートレールをボディに直接固定する構造でも振動を抑えている。

何よりうならされたのは、じつは車内騒音の小ささだ。XVも取り立ててうるさいわけではなかったが、明らかに静かというか雑味が少ない。これにはボディの進化などだけでなく、まずひとつにはパワートレーンの改良の効果だろう。エンジンとCVTの結合剛性を高めたり、オイルパンの剛性を高めるなど振動や騒音への対策が源流で行われ、加速時の細かな脈動感、ゴロゴロとした感触が、きれいに丸められているのだ。


■クロストレック プロトタイプ(4WD&FF・CVT)主要諸元 【寸法mm・重量kg】全長×全幅×全高:4480×1800×1580 室内長×室内幅×室内高:1930×1505×1200 ホイールベース:2670 最低地上高:200 車両重量:1540〜1620 【エンジン・性能】種類:水平対向4DOHC 総排気量:1995cc 最小回転半径:5.4m 乗車定員:5人 【諸装置】サスペンション:前ストラット/後ダブルウイッシュボーン ブレーキ:前後Vディスク タイヤ:前後225/60R17 or 225/55R18

さらに、ルーフパネルとブレースの間に高減衰マスチックと呼ばれる弾性接着剤を採用したのも効いているのは間違いない。これはルーフの振動を抑えて騒音を低減。ボワワ……と空気が震える感じがなくなり、すっきりとした音環境を実現する。

フットワークは想像よりも軽快に感じられた。2ピニオン電動パワーステアリングとバリアブルギヤレシオの組み合わせは、操舵力がやや重めながら手応えはよく、安心してステアリングを切っていける。時折雨の降るコンディションだったがトラクションも十分だった。正直、これだけ乗っている分には、何も不満なしという出来だ。

■走りは期待値以上

続いて乗り換えたAWDモデルでも、走りの印象に大きな違いはなかった。車両重量の差はおそらく50㎏ほどあるものの、日常域で容易に体感できるほどではない。もちろん、高いスタビリティへの期待値で安心してアクセルを踏んでいけるのは、それだけでもメリットは大きい。


●12Vの補機バッテリーが左右に2個載っているのがeボクサーの特徴。向かって右はスターターや電装品へ、左はエンジン再始動用に使われる。電気モーター用のリチウムイオン電池は、荷室下に搭載されている

あるいは重量差を体感しにくいのは、まさにeボクサーの恩恵かもしれない。実際、試乗後に話を聞いたところでは、モーター出力などは変わっていないが、アクセル操作に対するリニアリティ、トルクの立ち上げ方といった制御には細かく手が入れられているということだった。低回転域のトルクにさほど余裕のない水平対向エンジンだけに、出力は小さくてもやはり電気モーターによるアシストのメリットは大きい。もちろん、これは燃費にだって少しは効いているはずである。

フットワークもやはり印象は上々。安心感が高く、ライントレース性に優れる。何より情報量多めのステアリングフィールがいい。

両方に乗ったあとにあらためて振り返ってみると、FFモデルのほうがやはり軽快ではある。それならばFFは操舵力などのチューニングで、キャラクターとしても軽やかさをより前に出してもいいかもしれない。

本当の意味での乗り心地評価はまだできたとは言えないし、新型ステレオカメラユニットと広角単眼カメラを組み合わせた新しいアイサイトや、それと電動ブレーキブースターの組み合わせによる全車速追従機能付きACCの制御などもまだ未体験である。正確な評価は、これらも試したうえで下したいが、正直な第一印象としては、やはり若干新鮮味に欠ける感は否めないところだ。


●最新世代のステレオカメラに加えて、スバル国内初となる広角単眼カメラを採用。低速走行時に二輪車や歩行者を認識しやすい、より広角なタイプだ。緊急自動ブレーキで対応できるシチュエーションが拡大するという

デザインを含めて新しい刺激はあまりない。性能的な話だけでなく、例えば燃費にしても、それほどの進化は期待できないだろう。開発中と公言されているストロングハイブリッド、やはり欲しいところだ。その場合はFFモデルだけとなる……?

走りの洗練度の高さは、目をるものだったことは間違いない。静粛性高く、滑らかで、乗り心地もいい。それこそ派手ではないが、じわじわといいクルマだなと感じられる滋味深い味わいが、そこにはある。

よってクルマ好き、目利きのユーザーには響くに違いないが、狙いの若いユーザー相手にはもうひと工夫欲しい気もする……というのが、この時点でのクロストレックの印象である。あとは市販後に、価格や装備、そして悪路や雪道の走破性といった辺りまで含めて、トータルでジャッジすることとしたい。




●リヤエンドのデザインを絞り込んだため、荷室容量は315Lと現行XVよりも25L減。ただし、ルーフにアクセスしやすくするサイドシルプレートや、リヤゲートLEDランプ(上級グレードに標準)などを採用することで、アウトドアシーンでの使い勝手に配慮している

〈文=島下泰久〉

ドライバーWeb編集部

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