2022/04/15 コラム

「首都高値上げ」で給料が減る…現役トラック運転手たちが悲鳴! どう立ち向かう?

物流を支えるトラック運転手たちの給料に打撃

■運送業界に吹く、新たな不景気風

4月1日から、首都高利用料金の上限額の見直しが始まった。首都高都心部の混雑緩和を狙い、ここを通過する長距離利用車を対象に利用料金を見直したのだという。“見直し”と、道路公団側はあえて言葉を選んでいるが、利用者からすれば“値上げ”以外の何物でもない。

無論、4トントラックに乗務し、首都圏内をベースに物を運ぶドライバーの筆者にとっても他人事ではない。ちなみに時折利用するルートで考えてみると、戸田南〜大黒ふ頭(最短距離で54.6km)は従来の1410円→2230円で、820円の値上げ(中型車の場合)。また、例えば、大黒ふ頭で受け取った荷物を千葉や埼玉方面へ配送し、さらに高速を使えばまた同等の値上げを被るはず。1便の仕事で実質1500円以上のコストが増すわけだから、痛くない訳はない。

なお、この上限料金の値上げ、冒頭でも書いたように“長距離利用車”が対象。料金距離(首都高が定める入口から出口までの距離)が35.7km超ならば値上げ、それ未満ならば従来料金から変更なしというわけだが、トラックドライバーにとって、利用したいのは時間短縮のため。ならば、なるべく長い距離の場合こそ首都高を利用したいのだが、そこが値上げ。全くイケズな改定なんである。例えば前述したように、戸田南付近から大黒ふ頭までの所要時間は、早朝ならば首都高利用の場合で1時間25分程度、下道ならば2時間50分前後と、実質倍近い時間差。これは結構影響が大きいし、他人事ではない。

■荷主が設定する運賃のほとんどは有料道路代が「込み」

先ほど「ドライバーにとっては痛い」と書いたが、それはなぜか? 多くの輸送仕事があるが、大概の荷主(依頼主)が設定する運賃は、有料道路の通行料が込みの運賃(=込み運賃)だからだ。ただし、“込み運賃”とはいえ、高速道路の利用を見込んで運賃を高く払ってくれるのではない。どちらかと言えば「運賃はこれしか出さないから、高速を利用しても、下道(一般道)だけで走ってもどっちでもいい。だけど指定した時間にはちゃんと届けてね」というわけ。

例外もある。輸送運賃のほか、有料道路を使った場合は料金を別に請求していい(=別高(べつこう)運賃)という場合だ。ある意味で良心的な荷主が「そこそこ配送距離があるから、運賃とは別に高速料金も出しましょう」というケース。またもう一つの理由での“別高運賃”もある。「荷物を積んだ時間を考えると、指定された時間に着くには高速を利用するしかない」という切羽詰まった場合。高速料金を別負担にしないと、受けてくれる運送業者がないから、仕方なく荷主が高速料金を負担するケースだ。ただしこれらの「別高運賃」は輸送案件全体からするとさほど多くない。筆者の感覚だと全配送案件の内1〜2割あるかないかだろう。

話が少し逸れたが、そういう訳で別高運賃以外の場合で高速を利用すると、基本歩合制の運転手は取り分が減る(無論、会社も相応に取り分は減る)。この辺のお話、また別の機会にでも詳しく書きたいが、そういう訳で運送会社は、自社が抱える運転手に全く優しくはない。また話が脱線するが、トラックを少しでも擦ったらもちろん給料は減額するし、積んだ商品を破損させても然り。まあ、これは運転手起因の過失だから仕方ないとしても、体調を崩して休んでも有給休暇は簡単には取らせない、そのくせ不景気で仕事が取れなくなっても(コロナ禍の最盛期には多々あった)まともな休業補償はしない。それが、トラックドライバーの世界が、底辺の仕事と言われる理由かもしれない。

■現場の運転手たちはどう対応している?

愚痴はこれくらいにして話を戻そう。そんなわけで、「込み運賃」の仕事案件が多い運送業界では、首都高速の値上げは、利用すればするほど、結果的にドライバーの給料が減ることにつながる。では、4月1日を境にして「込み運賃」の仕事の場合、周囲の同僚たちはどんな高速の使い方をしているか、聞いてみることに。

・10トン大型フリー便ドライバー・A氏

起点の営業所から積み地まで行く場合、時間の余裕を見て出発し、なるべく下道(一般道)を使う。仕方なく高速を利用した場合でも、利用距離は極力少なくし、到着予定時間に余裕がある場合は目的地の手前の出口で降りたりする。また、1日に2回戦ある(当日に2件の輸送仕事を受けている)場合は、後々時間が切羽詰まった場合に備え、高速は後半の移動に使うようにする。ただし、連続走行時間(4時間に1回30分の休憩を入れなくてはいけない)に引っかかって目的地に指定時間に着けなそうな場合や、1日の労働拘束時間(14時間以内を基本)をオーバーしそうな場合も、仕方なく高速を利用する。「疲れて下道を走る気力がないって場合も、まあ乗っちゃうよね」と。

※大型10トンドライバーは、荷量が多く運べる分、4トン以下よりも運賃は高い設定だ。当然有料道路の通行料金は高いし、燃料消費も多いから当然だが、コロナ禍に入ってからの運賃は低値安定。それゆえ、今回の首都高値上げというよりも、それ以前から、上記のような高速の使い方が身に付いていたはず。どちらかと言えば、筆者もこのタイプだ。

・4トン定期便ドライバー・B氏

長年、依頼先の決まった定期便ルートを配送しているB氏の輸送案件は、最初から別高運賃で請け負う契約で乗務している。運賃は決まっており、高速利用料金は別に請求できる取り決めだから、首都高料金が値上げしても直接の影響はない。

※ただし、B氏いわく「別高だけど、運賃はそもそも高くないからねぇ」と。今後、燃料費の高騰があったり(勤務先が、運転手の取り分比率を調整して給料を減らしてくる可能性がなくはない)、次に高速料金の値上げがあったら(依頼先が、運賃の方を今までより下げてくる可能性がなくはない)、安穏とはしていられない。

・2トンフリー便ドライバー・C氏

常日頃から、極力高速は乗らないようにしている。そのために、どんなに早朝の積み時間指定でも、つねに下道移動を想定して起点の営業所から早めに出発。

※首都高の値上げに関係なく、別高運賃の案件以外の場合は、よほどのことがない限り高速(有料道路)には乗らないというタイプ。ある意味徹底していてすごいし、強い意志がないと続けられない。営業所の配送係から、「今日は(高速)乗って帰ってきましょうよ」と心配されるタイプ。筆者はここまで徹底できないから、早朝(午前6時以前の到着指定)の横浜・千葉方面の積みの場合など、気分が乗らなければ高速を使ってしまう。

■結局は、自分の流儀で走り続けるしかない

さて、同僚のコメントも含めて、4月1日以降の首都高上限料金の拡大(という名目の値上げ)への対応を紹介したが、これらに共通するのは何か? それは、値上げされたからって、対応を急に変えられないってことだ。また、それより何より、自分の取り分(給料)を確保するために、やってるドライバーはすでに考えて工夫しているということになる。自分の給料のみならず、自分の体力を守り、さらには会社が課す厳守事項(連続走行時間と連続労働時間の制限など)を守りつつ走っている。だから、首都高が値上げされたからって、簡単に変わらないし「変えられるかっ!」ってわけなのだ。

そういえば、ドライバーの中にはほかにこんな仲間もいる。1日の初っ端から高速を躊躇なく使い、時間に余裕があっても気分次第で高速を使う輩だ。じつはこういう大雑把(?)なドライバーも案外多いと思われ、どんなに安い運賃の案件の場合でも、平気で高速をフルに使ったりする。だけれど、そんな仲間の挨拶代わりの口癖は「最近、給料上がんないねぇ」だったりするから不思議。トラックドライバーも色々なんである。


●首都高の従来のETC利用時の料金体系(赤線)と、見直し後(青線)。これまで、利用が長距離になるほど1kmあたりの料金が割安になることから、都心部通過の長距離車が原因の渋滞が発生しやすかったという理由で、より公平な料金体型を実施したという。これまでは35.7km超で上限料金が1320円(普通車の場合)、新設定は55.0km超で上限料金が1950円(同)となった


●車種別の従来料金と新料金の下限額〜上限額の表。なお、同じく4月1日を機に現金支払い車の基本料金も改定された。こちらは従来どおり、距離に関係なく利用できる代わりに、最初から上限料金を支払うことになる



●写真はETCコーポレートカード。多くの運送会社も使うカードだが、これを利用した大口・多頻度利用車には割引をさらに拡充しますと首都高側はアピール。内訳は、車両単位割引分での基本割引(最大)を20→25%、中央環状線の内側を通行しない利用分の割引を5→10%とし、従来からある契約単位割引10%と合わせて、最大割引を35→45%にした。ただし、基本割引率アップの恩恵は、車両単位の利用料金合計が多い場合に限り、毎月3〜5万円ないし、それ以上を使った場合にのみ25%の後割引(請求時)となる。よって、ドライバーの給料にこの後割引が反映され、色付けするなんて丁寧な運送会社はほぼありえない。要はドライバー側に無関係の部分だ


●都心部区間の渋滞回避を推奨する割引として導入されたのが、千葉外環迂回利用割引(ETC車のみ)。首都高湾岸線、または横浜・川崎エリア発着で、常磐道などを利用するETC車の場合、外環道の三郷JCTから高谷JCTまでを迂回して利用する場合に(青線部分)、原則として直行した場合(赤線部分)と同じ通行料金となるように、外環千葉区間の通行料金を割引するという。そのほか、今回の改定で午前0〜4時までの時間帯に首都高の入り口を通過する車両(ETC利用の場合のみ)には20%の深夜割引が適用される

〈文=阪 和浩〉

ドライバーWeb編集部

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