2022/12/17 モータースポーツ

STI、2.4L直噴ターボを積む新型WRXで2023年ニュル24時間レースのクラス優勝を狙う|STI NBR CHALLENGE2023マシン シェイクダウン|

狙うはSP4Tクラス優勝。VBH型にスイッチしたニュル24h参戦車が公開走行

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2022年のモータースポーツはシーズンオフだが、すでに来季に向けて動き出している。例年12月に富士スピードウェイで関係者や報道陣を迎えて催されるのが、STI NBRチャレンジのシェイクダウン。
 
スバルテクニカインターナショナル(以下STI)は2008年から世界一過酷と言われる「ニュルブルクリンク24時間レース」に参戦し、直近では18年、19年と2年連続でクラス優勝。コロナ禍の影響を受けて3年ぶりに22年のニュル24時間に参戦したが、左フロントのハブとサスペンションアームを繋ぐボールジョイントが疲労破断したことによるホイールバーストで惜しくもリタイア。マシンの各部に想像を超える負荷がかかる世界屈指の過酷なコースならではのアクシデントだが、こうした経験が次のステップに飛躍するための「糧」となるのも事実。22年車の経験を踏まえて改修された2023年仕様のニューマシンが12月15日に公開された。
 
22年車はVAB型WRXベースながら、パワーステアリングが油圧式から電動式に変更され、タイヤ幅も従来の260mmから280mmに拡げるなど、レース車よりもひと足早く21年11月25日にフルモデルチェンジしたVBH型WRX S4を連想させる内容だった。
 
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現行型ベースのマシンに刷新
 
シェイクダウンを前に富士スピードウェイの30番ピットで待機する23年仕様のマシンは、慣れ親しんだVAB型から待望のVBH型にモデルチェンジ。パワーユニットも排気量2000ccのEJ20ターボから市販車と同じ排気量2400ccのFA24型に。これにともない、参戦クラスは従来の「SP3T」から「SP4T」に。ライバルはポルシェ・ケイマンなど。
 
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ベース車を変更した理由について、NBRチャレンジのプロジェクトリーダーを務める、STI車体技術部 モータースポーツ担当 主査の渋谷直樹氏は「すでにEJ20型エンジンは生産を終え、我々STIとしても新しいエンジンでステップアップしていかなければならいからです」と力を込める。どんなにレースでの実績が豊富で「名基」と称賛されていても、スバル/STIにとってそのエンジンを積んでいる市販車が存在しなければ「モータースポーツで培ったノウハウをお客様にフィードバックする」という大義名分が成り立たなくなるのだ。
 
STI NBRチャレンジ2023の参戦目的は以下の3点
 
1:スバル/STIファンのために、「勝つ」ことで走りの確かさをお届けする

2:人材育成&技術開発の推進、確認

3:ファンコミュニケーション強化


2023年5月18~21日に開催されるニュルブルクリンク24時間レースでの目標はSP4Tクラスでの優勝。予選ラップタイムの目標は8分51秒でポールポジションを獲得、決勝ではクラス優勝に加えて上位ターボ車クラスのSP8Tを含めてトップでのフィニッシュを狙っている。
 
この高い目標を達成するために参戦車両に設けた開発コンセプトは、レースで「勝つ」ために信頼性を底上げし、操縦安定性と旋回スピードの向上を狙うというもの。
 
以下の3つの内容が新型WRX NBR車両に盛り込まれた
 
1:SGP(スバルグローバルプラットフォーム)走りの検証として、SGPベースのボディとサスペンションを新規開発
 
2:新型2.4L直噴ターボエンジンはレース用高回転、高出力を実現する
 
3:スバルAWDの普遍的走り熟成…さらに「深化」させたAWD基本パッケージとの組み合わせ
 
これらのNBR車両に盛り込まれた技術的要素を耐久レースという「過酷な実験場」で検証、熟成し、信頼性を確立させることでエンドユーザーの「運転が上手くなる」クルマづくりに生かしていく。
 
それぞれの具体的な開発内容についての担当者のコメントは以下のとおり
 
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「ボディについて」
 
23年車についてはSGPと呼ばれるプラットフォームをベースにボディの補剛を行った。また、ボディの補剛についてはSGPの走りの検証を狙いとして設定している。
 
ベース構造のSGPはフロントからリヤまで荷重を効率的に伝達できるボディを実現している。それを踏まえて今年度の改修として、フロントアッパーフレーム、Aピラー、トルクボックス、サイドフレーム、リヤフレームまでの前後のつながりを中心にボディ補剛を行うことで、先述したSGP構造の優位性を最大限に生かしつつ、車体の上下曲げ剛性、横曲げ剛性を積極的に上げている。また、これまでの参戦車両と同じ思想で、ねじり剛性については、あえて「上げ過ぎない」ことで相対的に「曲げ剛性の向上」を狙っている。
 

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「外装について」
 
これまでの参戦のなかで行ってきたフロントバンパーの「サメ肌」やマット塗装など、空力効果を狙った表面処理を23年車にも継続採用。エアロパーツについてはフロントフェンダールーバーやフロントバンパーカナードなどを、22年車の形状から改善し、さらなるダウンフォースの向上とCd(空気抵抗係数)の低減に向けて積極的な取り組みを行っている。
 
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「エンジンについて」
 
ベースエンジンのFA24型の技術を活用し、新たにレース用2.4L直噴ターボエンジンを開発。レース用新規部品を開発することで、従来型のEJ20ターボに比べて性能と信頼性の向上を行った。出力は22年までの340馬力に対し、新エンジンは380馬力以上を達成。
 
・クランクシャフト、動弁系、高圧燃料システム、点火プラグは実績のある量産技術を流用。
・エキゾーストマニホールドについては新規開発を行い、管長と形状の最適化によって出力と信頼性向上を行った。
・吸気ダクトも新規に開発。形状の最適化により出力を向上させている。また、フルカーボン化により軽量化も実現した。
・フライホイールとクラッチについては、新規に軽量化フライホイールを開発。レース用の強化クラッチを採用することで信頼性を確保した。
・レース用の高粘度エンジンオイルと冷却剤を採用することで、24時間耐久レースという極めて高負荷な条件下での信頼性を確保。
 
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「車両パッケージの設計について」
 
23年車は22年車まで培ってきたAWD技術や専用アルミ鍛造ホイール、タイヤ、サスペンションなど、レースに勝つためのパッケージに加えて、SGPボディ、直噴ターボエンジンなど、スバルの最新技術を組み合わせることでさらに進化している。なかでも以下の3点に注力した。
 
1:部品の信頼性向上
 
22年車のリタイヤの原因になった、フロントロアアームのボールジョイントの折損という事象を踏まえて、23年車ではボールジョイントのサイズを大型化し、耐久性を向上させている。また、部品交換においては走行距離数を見直し、ハード、運営の両面で信頼性の確保と改善を図った。
 
2:マフラーの開発
 
エンジンの排気量アップとSGPボディに合わせてマフラーのサイズとレイアウトを見直すことで、レースのレギュレーションへの対応を行った。さらに、床下への突き出し量を改善することで空力性能の向上も狙っている。
 
3:フレキシブルパーツ
 
23年車では走りの熟成という部分で、SGPボディをさらに生かすためのフレキシブルパーツの開発も継続。フレキシブルドロータワーバーはブラケットの軽量化と剛性バランスを見直し、フレキシブルドロースティフナーはSGPボディの性能を上げるための取り付け位置の検証や、軽量化のためにシャフトのカーボン化など、新しい技術にも挑戦している。これらの試みの結果が市販のフレキシブルパーツにも反映されていく。
 
「22年車には幅広タイヤを履かせたり、電動パワステを先行開発の目的で採用したりして、実戦で問題がないことを確認したうえで23年車にフィードバックしています」と、22年車が果たした意義を語る渋谷氏。まさにレースは「継続こそが力なり」なのだ。
 
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シェイクダウンは開発ドライバーの山内英輝選手と佐々木孝太選手が担当。同時に走行していたEJ20ターボを積むGT300のBRZが甲高いエキゾーストノートなのに対し、WRX NBRは低く静かなエキゾーストノートで新旧ボクサーの「聞き比べ」を楽しめた。筆者はADVANコーナーで見学していたが、コーナリング姿勢はややアンダーステアが強めの印象。この辺りは今後セッティングを積めていくのだろう。
 
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総監督の辰巳英治氏は「22年は私の采配ミスでリタイアに終わった。だから23年は自分の出番はないと思っていましたが、社長をはじめみなさんに『負け逃げは許さない』と言われて……この新型車のよさをみなさんにお見せしたいし、もう一度このクルマに日の目を見せてやりたい。レースに勝って、スバル乗りの方が愛車を誇りに思っていただけるように、是が非でもニュルで勝ってリベンジして日本に戻ってきたいと思います」と力強く抱負を語った。
 

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〈文=湯目由明 写真=山内潤也〉

ドライバーWeb編集部

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