1万2000トン新造プレス機を導入!
鍛造ホイールの製造工程を探るべく工場へ潜入
群雄割拠のホイール市場。手間のかかる「鍛造」にこだわり、軽く強靱でしなやかなアルミホイールに挑み続けている「BBS」。なぜBBSは、世界を代表する鍛造アルミホイールメーカーになり得たのか? 富山県高岡市の工場を取材すると、鍛造技術にかけるプライドが見えてきた。
|BBSのPRIDE その1| 鍛造一筋40年、
挑戦と進化をつづける独創の技術
強大な加圧力で素材を強靱化し、複雑な意匠面を生み出す鍛造。1本のシリンダーに高圧で油を送り込み、そのシリンダーをゆっくりとした速度で下げていく。金型にセットしたアルミの塊は、3回の鍛造で1/4にまで押しつぶされ、美しい鍛流線を成形。鍛造を重ねるごとに内部組織は緻密になっていく。大径化ニーズに対応するべく、BBS史上最大の1万2000トンのプレス機が2020年春から稼働開始した。地上からの高さは12m、地下に掘られたピットの深さは8mにもなる。ほかにも5000〜9000トンのプレス機を使い分ける。
●ホイールの基となる円柱状のアルミ材
●丸棒からホイールサイズに合わせてカットされたビレット。これをプレスすると……
●プレス後。意匠面が成型されている
アルミの塊に超高圧をかけると……●鍛造工程では金型もビレットも高温に加熱する「熱間鍛造」で圧力をかける。1次鍛造でホイールのおおよその形が作られ、2次→3次と金型を取り替えながら細かい意匠面を成型していく
|BBSのPRIDE その2|
素材の吟味から精密加工まで、
真面目すぎる職人魂
円柱状の素材をホイールのサイズに合わせてカットし、3回の鍛造で形成しても、まだまだ道半ば。そこから、スピニングや熱処理、切削加工、塗装前の下準備などなど、さまざまな工程が待っている。それらは機械によって非常に正確に遂行されていくが、工程ごとに熟練の職人による検査が入り、その手間の数は鋳造よりも明らかに多い。安全や運動性能に大きく関わるホイールを、鍛造で量産するのは非常に困難だった。しかしBBSは、設計から生産まで、真面目すぎるクラフトマンシップによってそれを実現し、今なおその進化は続いている。
●鍛造後のもの。ここからインナーリムを延ばすスピニング加工を施す
●スピニング(ローラーによる圧延加工)後のもの
機械と職人によるコラボ上が鍛造後のホイール。リム部分は平らで幅も狭い。これをローラーの圧延加工で成形するのが「スピニング」で、強度も上がる。また、半日もかかる2種類の熱処理、塗装の乗りをよくする脱膜など、完成までの工程は非常に多い
●ディスク面の加工前
●ディスク面の加工後
正確無比の加工技術ここまできても、じつはスポークなどは抜けていない。余計な部分を削り取り、形状を整える加工は、マシンが寸分の狂いもなく実施。その後、職人が微細なバリやキズを修正する
|BBSのPRIDE その3| 高品質を維持する新塗装工場が稼働
機械加工を終えたホイールは、不純物の付着リスクを大幅に低減するためにクリーンルーム化した塗装工場に運ばれ、バレル研磨工程に入る。セラミックチップの研磨材で表面を磨いて塗装前の下地を整え、洗浄→手作業での修正・加工→強度を高めるショットピーニング→ブラスト処理を経て、完全オートメーションの塗装ラインに流される。ラインは粉体と溶剤がある。ロボットで塗料を吹き付ける。最終検査ではスタッフが外観やバランスの確認を行なう。効率化と「ヒトの感覚」を組み合わせた新工場で、高品質な製品を安定供給する。
新工場は非常にクリーン2020年に完成したのが、高岡市四日市の塗装工場。ここで、微細な調整、塗装前の下地造り、塗装、検品、梱包まで行われる。BBSの品質を確保する重要拠点だ
●塗装前のもの
●塗装後
職人が目と感触でチェック鍛造や機械加工を施されたホイールは、新塗装工場に運ばれ、職人が一本一本、手と目で検査していく。鍛造は、プレスして終わりではない。多くの工程で金属を鍛え続け、人の手で磨かれ、最高品質のホイールになっていくのだ
BBSジャパン 技術部 部長
村上貴志さん
鍛造を知り尽くした男鍛造ホイールについて教えてくれた村上さんは、その特性を知り尽くしたプロフェッショナル。軽さとしなやかな走りの絶妙な調和を日々追求する
鍛造にこだわる理由とは?
アルミホイールの製造法には、大きく分けて鍛造と鋳造がある。鋳造は、溶かしたアルミを鋳型に流し込んで成型する。その過程で結晶同士の結びつきが大きくなる=空洞が生じる。鍛造は、アルミの塊を強大な圧力で金型に押し込んで成型。こちらは、結晶同士の結びつきが密接になる。つまり材料強度が上がる。
これは餅つきに例えるとわかりやすい。鋳造は餅をつく前の蒸かした状態で、コメ同士のつながりは緩い=隙間が大きい。しかし、臼と杵で米粒が潰れるまでつくと、隙間なく結びつく。つまり、餅つきが鍛造というわけ。鍛造も鋳造も密度と比重は変わらない。結晶同士の「結びつき方」を変え、組織を細分化(=材料を改質)するのが鍛造なのだ。
鍛造工程を経て材料強度の増したアルミは負荷に強く、同じ比重の鋳造に比べて、より薄く、軽く作れる。素材的には「粘り」が出て、これがサーキット走行など限界領域で走らせた際に「しなり」となって表れる。鍛造は、路面からの入力がダイレクトに伝わるリム部を硬く、厚くしなくても強度を出せるので、入力を優しくいなすような、BBS独特の「しなやか」な乗り味が得られる。
高岡工場で見たBBSの執念
ホイール作りは、丸棒の状態で納品されたアルミを、ホイールサイズに合わせてカットすることから始まる。これを大型の油圧プレス機で約1/4の高さになるまで押し潰すのが「鍛造」だ。この工程は、しわが入らないようにていねいに3回に分けて行なう(3次鍛造)。時間と手間をかけて、ホイールの基礎から意匠面までをカタチにしていくのだ。
金属の塊を巨大なプレス機で圧縮するにあたり、アルミは高温に加熱される。高圧と高温を制御するノウハウは、まさにBBSだけが持つ技術の神髄。世界に誇れるメイドインジャパンのものづくりだ。
ホイール成型に欠かせない金型は、上型、ホイールの裏になる中子、下型で1セット。設計指示に基づき工作機械で切削後、削り傷を熟練の職人が手作業で研磨。金型は、すべて社内で設計・製造・管理されている。
「製品設計と金型設計は対の関係で、どちらが欠けても成立しません」と語る、技術部部長の村上貴志氏。強度と軽さのバランスを取りながら、意匠性も意識する。さらに、鍛造する際に細かい模様型の先端までしっかりアルミ素材が行き渡るように考慮しなければならない。「鍛造の特性を理解していなければ、BBSのエンジニアは務まりません」と村上氏。
意匠面を成型したら、インナーリムを延ばすスピニング、強度を高める熱処理などを経て、クリーンな塗装工場で、高品質の仕上げ作業が施される。BBSの工場では、最新のマシンと職人の技が融合し、恐ろしいほど丁寧に、一本一本のホイールが生み出していた。これを見てしまうと、あの価格も納得である。
伝統の鍛造技術を磨きながら、大径化のニーズに応える1万2000トンプレス機の導入や塗装工場の新設など、未来を見据えて進化するBBS。その唯一無二のホイールは、モータースポーツの世界はだけでなく、スポーツカーや特別な限定車にも、ご指名で純正採用される。もちろん、リプレイスのホイールも多数用意。BBSの熱意と技術が凝縮されたホイールは、愛車をさらに魅力あふれる1台にしてしまうだろう。
BBSの「鍛造」は、ここがスゴイ
・鍛造工程で素材が改質される! ・薄く作っても、強度が保持できる ・結果、非常に軽量なホイールになる ・さらに、粘りやしなりで走りが変わる!
走りの違いが体感できる
BBSの鍛造ホイール
RE-L2(15〜17インチ)
小型車やライトウエイトスポーツにも対応する、15〜17インチのアルミ鍛造1ピースホイール。細くシャープな造形は、軽さと強靱さを証明している。15インチ:3万7000円〜
BBS製品のウェブカタログはこちら
https://bbs-japan.co.jp/products/〈文=湯目由明 写真=澤田和久〉
BBSジャパン
https://bbs-japan.co.jp