2023/12/26 コラム

横顔を眺めながら ーー爪 切男の助手席ドライブ漂流ーー 第1話「太陽の彼女」(スズキ・ジムニー ✕ 竹川由華)

スズキ・ジムニー ✕ 竹川由華

■■■ 3 ■■■

 しかし、憎たらしいぐらいにいい天気だ。中央高速を抜けてクルマはひた走る。私の「呪い」のせいで、道中で不運な事故にでも遭うんじゃないかと懸念していたが「この私に呪いなんて通用するわけないでしょ」という彼女の心強い言葉を私は信じてみることにした。

 バーで働いていたとき、女子大生バーテンダーとして活躍していた彼女。鮮やかにシェイカーを振っていたあの細くしなやかな手で、マニュアルシフトのギヤレバーを巧みに操る姿に、私はかすかな胸の高鳴りを感じていた。

null

 溢れ出る感情を抑えなければと、青いクルマにかけて、スピッツの『青い車』を口ずさんでふざける私。

「微妙にうまいから絶妙にムカつくね」

 こんなやり取りもしばらくできなくなるんだな。その刹那、彼女のことがいとおしくてたまらなくなる。運転席と助手席、手を伸ばせば簡単に触れられる距離感がとにかくもどかしい。

 居眠りをするフリをして、1枚、また1枚と服をはだけていく彼女を、服の下に隠された艶やかな裸体を思い描く。彼女がブレーキを踏むたび、自分のよこしまな気持ちを勘付かれたんじゃないかとビクッとしてしまう。



■■■ 4 ■■■

  欲望を乗せた青いクルマは有間ダムを経由して有馬渓谷へとたどり着く。ここの観光釣り場でBBQを楽しむ計画となっている。BBQと書いてバーベキューと読む。クルマと同じぐらい私の人生には縁がないと思っていたものだ。

null

「ちょっと暑いからいいよね? 別に恥ずかしがる関係でもないし」と彼女はおもむろに服を脱ぎ始める。これは幻か? それとも現実か? 都合のいい夢の途中なのか? 白昼夢のようなエロティックな時間はあっという間に過ぎていった。

null

null

null

null

 キツネにつままれたような気持ちでの帰り道。「もうちょっと付き合って」と彼女は有間ダムの近くにクルマを停め、何を言うでもないけれど何かを期待しているようなまなざしでこちらを見つめる。

「えっと……ダムの放流の仕方にもいろいろあってね、トルネード放流ってのが……」

 どうしたらいいかわからない私は、ダムに関するしょうもないうんちく話を披露してその場をやり過ごすのだった。

null

null

 私の住むマンションの近くにクルマが停まり、お別れのときが近づく。

「元気でやれよ。また連絡するわ」

 逃げ出すようにクルマを降りる私の背中に「い・く・じ・な・し」という5文字の言葉が突き刺さる。ハッと振り向いた私が自分の気持ちを口にするのを遮るように、彼女はクラクションを短く2回鳴らす。見慣れたいつものあどけない笑顔で「バイバイ」と彼女が言う。そうか、もう時間切れなんだな。

null

 走り去っていく青いクルマを見つめながら、吐き捨てるように私は言う。

「確かにいい女の運転するクルマなら……悪くないね」

null

(※)ストーリーはすべてフィクションです。

今回のデートカー
スズキ ジムニー
XC 5MT 180万4000円〜

軽自動車ながら悪路走破性は本物。堅ろうなラダーフレームに4WD、前後リジットアクスルの組み合わせでマニアもうなるパッケージング。個性が際立ったモデルだ。

null

〜竹川由華(たけかわ・ゆうか)〜
K-1 GIRLS 2023 × ミスモデルプレス オーディションで審査員特別賞を受賞し、格闘技イベント「Krush」でのラウンドガールも務める。
趣味はバイクに乗ることでCBR250RRとGPZ750Rを所有する。
ドライバーの姉妹誌『モーターサイクリスト』でも活躍中。
彼女をもっと見たい方は、こちらをご覧ください。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CQWV6YQ3

〜爪 切男(つめ・きりお)〜
作家。1979年香川県生まれ。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)でデビュー。同作はドラマ化もされ大きな話題を呼ぶ。現在集英社発のWebサイト『よみタイ』で、美容と健康に関するエッセイ『午前三時の化粧水』を連載中。

<今回の”彼女”=竹川由華 ヘアメイク=飛川貴俊 写真=ダン・アオキ 文=爪 切男>

ドライバーWeb編集部

RELATED

RANKING