2023/09/21 ニュース

「無」から「有」を生む、現場力とデジタルが結ぶ革新技術|トヨタ モノづくりワークショップ2023 その1|

トヨタ モノづくりワークショップ2023

トヨタは「クルマの未来を変えていこう」をテーマにした「トヨタモノづくりワークショップ2023」をメディア向けに開催した。

これは昨今話題となっているCASE(IoT化や自動運転化、カーシェアリングなどのサービス、電動化)による自動車産業の“100年に一度の大変革期”や、環境負荷低減策である“カーボンオフセット”など、さまざまな課題をトヨタが今後どのように解決していくか、という取り組みを現場で説明するものだ。

【画像】スタートアップスタジオとデジタル活用の現場〈貞宝工場〉
 
核となるのは、2023年6月の「トヨタ テクニカルワークショップ」で公開した電動化や知能化、多様化に関する技術を具現化するために行われていることについて、貞宝〈ていほう〉工場(愛知県豊田市)、明知〈みょうち〉工場(愛知県みよし市)、元町〈もとまち〉工場(愛知県豊田市)の3拠点で取り組むさまざまなモノづくり技術の紹介だ。
 
新郷和晃執行役員・チーフプロダクションオフィサー(CPO)が、今回のワークショップに掲げた「人中心のモノづくりで、工場の景色を変え、クルマの未来を変えていく」というテーマについて、「トヨタの持つ技とデジタルや革新技術で工程1/2を実現します。また、開発と生産の垣根をなくし、新しいモビリティをすばやく提供します。そして工場カーボンニュートラルや物流などモノづくりの基盤の課題解決にも取り組んでいきます」と説明。そのうえで「人とテクノロジーがうまく助け合う、現場の力で実現していきます」と力強く語った。
 
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トヨタ最大の強みは「モノづくりは人づくり」という考えのもと、現場で培ってきた知恵と工夫、高い技術力と技能、そして匠の技であるという。これらをもっといいモノづくりへ向けて、人を鍛え、匠の技を未来へ継承、進化させ続けることが重要であると考えている。その取り組みの現場のリアルを見てきた。
 


3つの工場のうち、はじめに訪れたのは貞宝工場。新製品の製造設備や型、工法など、「無」から「有」を生み出すトヨタのクルマづくりのスタートアップ拠点という位置づけ。また、Woven City(ウーブンシティ)や新モビリティなどの新事業や物流改善、モータースポーツ活動の開発などさまざまな事業を支える重要拠点である。
 
人とデジタル技術で開発を効率化
 
そんな貞宝工場の一画に2021年に設けられたのがスタートアップスタジオ。ここではさまざまなモノづくりの需要にすばやく対応するべく、メンバー同士が意見交換を行えるラウンジやアイデアをすぐにカタチにできる工房が設置される。
 
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ここでの取り組みの一例として、ハイブリッドモーターの開発プロセスにおける手作りの試作品を紹介。モーター内に組み込まれる線材を一般的な銅線の巻き付けから、より高効率な角形素材への変更による組み付け方法を、手治具を用いて検証し、無からカタチにする創造力を発揮できる土壌を整えたことで実現したという。
 
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さらにデジタル技術をうまく活用することで、設備開発も効率化。生産設備や設置空間を3次元化し、AR(拡張現実)技術を用いて可視化することで、これまでの図面(2次元)での検討から立体的に検証することができるようになったのだ。それを設計、開発、製造などに関わる技術者が早い段階からお互いの意見を出し合い煮詰めていき、試作段階で起こる問題を解消。開発時間が短縮されると同時に、デジタル化されたことで協力企業も含め、世界中の生産拠点で生産設備のデータを共有できるなど、効率化が図れるという。

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人の労力をロボット化により軽減
 
工場と言えば、過酷な労働環境というイメージを持つ人も多いだろう。実際、それは間違いではなく、ある場面においては力仕事もある。トヨタは創業以来、仕事を楽にするための取り組みをずっと行ってきたという。その取り組みの一つが“デジタルツインによる既存設備の生産性向上”である。工場従事者がアイデアを出し合い、楽にする技術を具現化するための技術開発もこの貞宝工場が担っている。

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ここで紹介されたのは、エンジンブロックの切削加工機に用いられる刃物(ドリル)の交換について。従来、この刃物は人の手により交換されていたが、ここに人が楽に作業できる治具を開発した。さらに作業自体を小型ロボットが行うことで自動化を図っている。
 
開発した治具は、刃物の取り付けもしくは取り外し作業による3つの動作を行える“からくり”機構を採用しており、1本のアームしか持たない小型ロボットでも対応が可能。小型で移動可能なので、大がかりな設備投資も必要ないという。

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人材不足解消や技の伝承方法もデジタルで進化
 
また、スタートアップスタジオでの取り組みとして、人材育成にかかる時間短縮のために編み出された技も公開。シーラー塗布技術の訓練に用いるデジタルツールだ。
 
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ドアパネルなどのプレスされた部品を組み合わせた所にシール剤を塗布する技能を新人が身につける際に、これまでは技能習得時は指導員立ち会いのもと、訓練用の型に合わせて実際にシール剤を塗布していた。これを塗布機に装着したセンサーで数値化。訓練スペースに設けたカメラで捉えた映像に、塗布時の動きやシール剤を出す量などを合成したものが装着したゴーグルで見られ、疑似体験ができるようにした。

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あらかじめ収録しておいた熟練者の手さばきを手本に練習もできるので、指導者はほかの作業を行える。また、練習に使用するシール剤が不要になるだけでなく、ふき取りにかかる時間も削減できるなど効率化も図れるという。
 
このツールを開発したのは若手。そしてゲーム感覚で楽しく熟練技を習得できるのも利点で、デジタル世代にはウケがいいという。逆に年配者はなかなかなじめず、取り扱いに苦労するという興味深い話も聞けた。
 

次世代電池普及版と全固体電池の開発ラインもここで
 
貞宝工場には次世代電池普及版(バイポーラ型リチウムイオン電池)の開発ラインと全固体電池の開発ラインも設置。次世代電池普及版は2026〜27年の実用化に向けて、製品開発や量産工法に開発に取り組んでいるところで、今回は塗工行程を公開した。
 
安価なリン酸鉄リチウム(LFP)の性能を最大限に引き出すため、ペースト状の素材を金属箔に量産時のスピードでムラなく塗り込む行程を見学した。この設備は、FC燃料電池で開発した高速塗工技術を応用したもので、かなり大きな金属箔のシートにペーストがきれいに分割して塗工されていた。
 
全固体電池の開発ラインでは、固体の中をイオンが移動するため、負極や正極、固体電解層がそれぞれ隙間なく密着している状態が理想だという。それらを量産時の高速かつ高精度のスピードで電池素材へのダメージなく積み重ねていく“からくり”構造と同期制御の技術が紹介された。

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スタートアップスタジオにはトヨタグループ創始者の豊田佐吉氏が生み出した人力織機の復刻品が置かれている。佐吉氏が「毎晩、夜なべをして機織り仕事する母親を助けたい、少しでも仕事を楽にできないか」との思いから開発された人力織機。その後、トヨタグループの礎となるG型自動織機の開発につながっていき、トヨタが躍進する。トヨタ生産方式(TPS)の原点となる、人が作業をしやすい環境づくりや人の力を最大限に生かせる「人中心のモノづくり」は、まさにこの人力織機に始まり、スタートアップ拠点のシンボルでもあるのだ。

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〈文=ドライバーWeb編集部・兒嶋〉

ドライバーWeb編集部

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