2023/09/03 新車

BYDのドルフィンに乗った! その出来に日本のコンパクト市場がざわめく予感

BYDの日本導入第2弾はコンパクトBEVのドルフィン

日本の乗用車市場に参入したBYDのバッテリー電気自動車(BEV)第2弾、「ドルフィン」がいよいよ街を走り出す。国内でニーズが高く、BEVのエントリーモデルにも位置づけられるコンパクトハッチバックだ。第1弾として導入されたのはクロスオーバーSUVのアット3だが、中国ではドルフィンのほうが半年ほど早い2021年8月に発売されている。
 
BYD_DOLPHIN
●ドルフィンの標準仕様はモノトーンのボディカラー

■日本にジャストの専用設計
 
ボディサイズは少し独特だ。4290mmの全長は、いわゆるBセグメントとCセグメントの中間。全幅は1770mmとグローバル基準のワイドさだ。全高も一般的なハッチバックより背高の1550mm。この3サイズはマツダ CX-3と同等で、実際もBセグクロスオーバーなみのボリューム感がある。
 
BYD_DOLPHIN

2700mmのロングホイールベースも特徴で、後席には身長175cmの乗員を基準にしても握り拳が縦に2つ分以上のニールームがある。足元のフロアは完全にフラットだ。この後席の広さはCX-3を明らかに上まわる。このロングホイールベースはアット3と同じ最新のBEV専用骨格「eプラットフォーム3.0」を採用したためでもある。

BYD_DOLPHIN
●ドルフィン ロングレンジは2トーンのボディカラー

BYDはドルフィンのターゲットについて、地方部ユーザーの2台目需要とともに、マンションなどに住む都市部のユーザーも想定している。じつは、ドルフィンの全高は元々1570mm(シャークフィンアンテナ部)。だが、それでは日本の機械式駐車場で一般的な高さ制限(1550mm)に適応しないため、日本専用に20mm低いアンテナを採用しているのだ。また、約10km/h以下での踏み間違い事故を防ぐ誤発進抑制システムも、日本向けに開発。右ウインカーやCHAdeMOへの対応はアット3同様で、日本市場への並々ならぬ意欲を感じさせるのだ。幼児置き去り検知も注目のアイテム。

BYD_DOLPHIN
 

BYD_DOLPHIN
■標準仕様とロングレンジで多様なニーズに応える
 
パワーユニットには2タイプを用意する。ともに前輪駆動だ。主力と思われるのは、総電力量44.9kWhのバッテリーに95馬力・18.4kgmの駆動モーターを組み合わせた標準仕様。カタログ上の一充電航続距離は400kmだ。もう一つはアット3と同じで、バッテリーが58.56kWh、モーターは204馬力・31.6kgmと高出力な仕様。ドルフィンではこちらを「ロングレンジ」としている。ただし、一充電航続距離は476kmで、標準仕様との違いは動力性能のほうが大きい。ロングレンジというより“ハイパフォーマンス”か!?
 
BYD_DOLPHIN

今回の試乗車は量産前の日本仕様。実際の走りは標準仕様でも余裕にあふれている。最大トルクは1.8Lガソリン並みだが、それを発進と同時に発揮する力強さは合流車線が短い首都高速道路でもじつに頼もしい。一方、ロングレンジは3Lガソリン並みの大トルクと、伸びのあるパワーが魅力。出力特性はアット3と同じくスポーツモードでも比較的穏やかな設定だが、アクセルを踏み続ければスポーツカーを追い回せる速さを内に秘める。

BYD_DOLPHIN
●右端のシフトセレクターはノブを下げるとD、上げてR、少しだけ上げるとN、横にPボタン。セレクターの隣にドライブモード、横滑り防止装置、回生強さの操作スイッチ(上下回転式)が並ぶ

BYD_DOLPHIN
●ドライブモードはエコ/ノーマル/スポーツの3モード。回生の強さはスタンダード/ハイの2段階。いずれもアット3と同じだ


■リヤサスに違いあり!どちらも乗り味に特徴がある
 
そして、シャシーも明確に違うのだ。標準仕様はリヤサスペンションが固定式のトーションビーム。かたやロングレンジには車重増と出力アップに対応すべく、アット3同様に独立式のマルチリンクをおごっている。フィーリングにしても、ソフトな乗り心地重視は両車に共通するが、標準仕様は旋回中のアクセルのオン/オフで、タックインのような挙動変化が今どきのクルマにしては大きく出る。ロングレンジは初期からロールの発生を若干抑え、安定感が向上。ステアリングレスポンスも標準仕様より高く、アット3と比べてもスポーティに仕上がっている。ブレーキフィールはペダルの剛性感、制動力のリニアリティともにいまひとつ。
 
BYD_DOLPHIN
●インテリアデザインは個性的だが、アット3のようなアクの強さはなく、日本でも幅広いユーザーに受け入れられそう

乗り心地は全体的にソフトで強い突き上げ感はないが、舗装路面の凹凸から細かい振動が伝わってくる。その傾向は標準仕様のほうが強い。BEVの低重心感はあるものの、路面や風の外乱によってボディがつねに前後左右へ微妙に揺れているような印象についても同様だ。
 
BYD_DOLPHIN

室内の静粛性については、パワーユニットはアット3同様、ささいな電気系ノイズも感じさせない出来栄えだ。そのせいもあってか、ロードノイズや車外音はエンジン車より目立つように感じられる。この点はクラスなりといったところだろう。
 
BYD_DOLPHIN
●走りのフィーリングはアット3と同じく、普段使いの運転しやすさや快適性、質感の高さといった実用性能を重視した味付けだ

音でもっとも気になったのは、約30km/h以下で歩行者に注意を促す車両接近通報装置だ。この音が車内スピーカーから鳴っているのかと思えるほど透過してくる。試乗車の一台は、ほかにもウインカーの作動音、速度超過や車線逸脱や車線変更衝突予測の警告音など、何らかのすべて異なる音が走行中ほとんどつねに鳴っており、それはにぎやかで正直落ち着かなかった。ウインカー音などは好みに設定可能とのことなので、発売後の量産車であらためて確認したい。
 
■実用性と充実装備で攻める。価格も大いに期待できる!?
 
日本車や欧州車ほどのシャシーレベルや内装のカッチリした仕上がりは求められないものの、タウンユースからロングドライブまで実用性能は文句なし。各種装備はクラスを超えた充実ぶりだ。これで低価格なら日本市場のコンパクトカーにとって脅威となる可能性はおおいにある。低価格BEVの日産サクラ/三菱eKクロスEVの好調ぶりを見れば、市場への影響力はアット3を大きく上まわるかもしれない。税込み車両価格は300万円台確実で、標準仕様は国の補助金を考慮して実質200万円台を実現か!?
 
大注目の価格発表と販売開始は、来る9月20日だ。
 


■ドルフィン(FF・ー) 主要諸元[ ]内はドルフィン ロングレンジ
【寸法・重量】
全長:4290mm
全幅:1770mm
全高:1550mm
ホイールベース:2700mm
トレッド:前後1530mm
最低地上高:―
乗車定員:5人
車両重量:1520[1680]kg
 
【パワートレーン・性能】
モーター型式・種類:TZ180XSF[TZ200XSQ]・交流同期電動機
定格出力:35kW[65kW]
最高出力:70kW(95ps)/3714〜14000rpm[150kW(204ps)/5000〜9000rpm]
最大トルク:180Nm(18.4kgm)/0〜3714rpm[310Nm(31.6kgm)/0〜4433rpm]
駆動用主電池種類:リン酸鉄リチウムイオン電池
総電圧:332.8[390.4]V
総電力量:44.9[58.56]kWh
交流電力量消費率(WLTCモード、BYD調べ):129[138]Wh/km
一充電走行距離(WLTCモード、BYD調べ):400[476]km
最小回転半径:5.2m
 
【諸装置】
サスペンション:前ストラット/後トーションビーム[マルチリンク]
ブレーキ:前Vディスク/後ディスク
タイヤ:205/55R16
 
〈文=戸田治宏 写真=佐藤正巳〉

ドライバーWeb編集部

RELATED

RANKING