2023/08/27 新車

目に見えぬ改良に意味はあるのか…“改良版”GRカローラ試乗

●限定50台のシアンメタリック。この色は、カローラスポーツ登場時のイメージカラーでもあった

■同じものではダメだと思って

待ちに待ったGRカローラ再販売の報せが来た! 今回も550台の抽選販売ではあるが、前回惜しくも抽選に漏れた人(私もそのうちのひとりだ)、あるいは後で知って申し込んでおけばよかったと悔やんだ人にとっては、まさに待望のニュースなのだが、朗報はじつはそれだけではなかった。

このタイミングでGRカローラ、何と一部改良を実施してきたのだ。GR車両開発部チーフエンジニアの坂本尚之氏いわく、「ここまで待っていただいているので、同じものをお出しするのではダメだろうと思いまして」とのこと。GRでは車両開発に終わりはなく、つねに継続している。せっかくだから、その最新の成果を織り込もうというわけだ。


●トヨタ自動車 GR車両開発部 チーフエンジニアの坂本尚之氏

しかしながら今回の一部改良では、国内50台限定外板色のシアンメタリックに、専用のブラック×ブルーの内装色を組み合わせた仕様を用意した以外は、内外装デザイン、スペックにはまったく違いはない。変更は、きわめて地味もしくはマニアックな、目に見える部分には表れないところで行われている。



●シアンメタリックの限定50台は、内装のステッチもブルーになる。価格は525万円と改良前と変わっていない

ポイントを挙げていこう。まずはシャシーへの締結剛性向上ボルトの採用だ。フロントはサスペンションメンバーとステアリングギアボックスの締結用ボルトのフランジにリブを追加し、リアはサスペンションメンバーとボディの締結用ボルトの頭部の径(22→24mm)を拡大している。いずれも狙いは均一かつ強い締め付けを実現することで、これにより操舵応答性と直進安定性を高めたと謳う。


●左側がフロント用、右側がリヤ用。それぞれ青いテープを貼っているほうが締結剛性向上ボルト

そしてフロントバンパー左右に開いたダクトの内部形状も変更されている。前方から入った空気の流れをより内側に向けたかたちだ。結果的に、この方がタイヤ外側あたりで起きる乱流を減らしてスタビリティ向上に繋げられるという。


●フロントバンパーから取り入れた空気をインナーハウス内のダクトから抜く。この出口の形状が変更になった

資料に書いてあるのは、これだけ。ただし、ここには記されていない改良もあった。アーシングの強化、そしてアルミテープの貼り付けである。

今回の試乗では、従来のGRカローラと、一部改良版をその場で乗り比べることができた。正直、違いはこれだけであり、本当に体感できるのか?と不安に駆られたが、従来型から一部改良版に乗り換えて走り出すと、それこそ駐車場の中で転がすくらいの速度域でも、違いがはっきりと感じられて驚いた。トータルで言えば、クルマ全体の「解像度」が高くなったという印象。よりクリアで、精緻な感じとでも言えばいいだろうか。

■従来GRカローラとの乗り比べ

まず実感したのは、操舵した際の手応えが明らかに豊潤だということ。情報の密度が濃く、いいクルマに乗っている!という感覚がグンと増している。



これこそ締結剛性向上ボルトを採用した成果だろう。いや、それだけではない。間違いなくアーシングも効果を発揮しているはずだ。

そもそもGRカローラはリアに搭載するバッテリーからボディへのアースを2本取るなど、そこには十分配慮されていた。今回はさらに、アースとボディが接触する部分の塗装を削る…実際にはマスキングをした上で塗装を行い、組立工程でマスキングを剥がしている…ことで、アース性能を高めている。



その効果は至るところに表れる。今のクルマは全身、電装部品の塊。パワーステアリングもスロットルも何もかもが電気仕掛けだ。それは、つまり電気の流れがよくなれば、これらの動きもよくなる。そう、ステアリングの手応えが向上している、具体的には分解能が高まり饒舌なフィーリングを返してくるようになったのは、このアーシングの効果でもあるのだ。

まさかと思われる方もいるかもしれないが、私自身も昔、自分のクルマでアースの引き直しを行ったことがあり、このときにはエンジン音が明らかに変わり、オーディオも気持ちよく聞こえるようになって驚いたものだった。なので、アーシングと聞いてすぐに、その狙いが理解できた。

あるいはスロットルの反応のよさの方が、多くの人にとって気づきやすいポイントかもしれない。アクセルを踏むとすっと力が出る。従来型だってそこに不満などなかったのに、一部改良版になるとその差は明確である。

何しろ加速してシフトアップしていくときのリズムが一層良くなっているし、同時に試乗した柿崎編集長は「エンストしにくくなった」と言っていて、実際に坂本チーフエンジニアも頷いていた。トルクが増した云々というより、右足の繊細な操作に対する追従性がさらに高まったおかげだ。

■スペックに表れるものではないが

そして、そのまま速度を高めていくと、大げさに言うと車体を左右からギュッと押さえつけられたかのようにピタッと直進方向に導かれていくのを感じる。フロントバンパーダクトの形状変更による効果はもちろん、アルミテープもこれにひと役買っているに違いない。テープは車体四隅のバンパー裏に貼られていて、表面を通る空気の剥離を抑えて後方にきれいに流すのに貢献している。

細かく書いてきたが、ハッキリ言ってこれらの変化は大きいものではない。それこそ計測データやスペック数値には表れない程度のものだが、特に従来のGRカローラを知っている人であれば、何かしらの差は感じられると思う。人間の感覚はそれぐらい鋭敏であり、開発陣としてもデータに頼るのではなく、まさにヒト中心で今回の改良を進めたという。


●アルミテープは前後バンパー四隅に


●アルミテープは表面積を増やすべくギザギザの模様が入った最新版

スペックに表れていなくても、きっとユーザーはこれを実際に体感して、喜んでくれるはず。そういう作り手と乗り手の信頼関係が、GRを取り巻く世界にはすでに出来つつあるということが、今回の進化からはよく伝わってくる。

さらに朗報。今回の改良箇所は、すでにGRカローラを手に入れているユーザーも後付けでアップデートできるよう検討が進められているそうだ。自分のクルマで進化を実感するという経験はそう出来るものではないだけに、貴重な機会となるに違いない。

購入希望者のWebでの抽選申込みは8月23日13時30分からすでに始まっており、受付の締め切りは9月11日8時59分となっている。冒頭で販売台数は550台と書いたが、半導体不足が緩和の傾向にあることから、さらに販売台数を増やす可能性もあるそうだ。ちらりと聞いた話では、すでに申し込みは殺到中とのことだが、一部改良を受けたGRカローラ、チャンスに賭ける価値はある。

〈文=島下泰久 写真=山内潤也〉

ドライバーWeb編集部

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