2023/08/17 コラム

奈良県警が案山子(カカシ)オービスを考案していた!

●写真はカカシ、ではないオービス(LSM-300)

交通警察官向けのマニア雑誌『月刊交通』(東京法令出版)を、もう30年ほどか私は定期購読している。A5サイズ100ページちょい、カラーは表紙のみ、税込み924円。めっちゃ高い。しかし、毎号楽しみな愛読誌なのである。

7月25日発行の2023年7月号に、マニア的に「おお!」な記事があった。「可搬式速度違反自動取締装置の効果的運用について」、書き手は奈良県警の交通部交通指導課の課長補佐氏だ。むさぼるように拝読しました。ありがとうございます! ※ネットでは可搬式は主に「移動式」と呼ばれる。

奈良県警は2019年に可搬式を1台導入、2021年に2台を追加配備。記事中に可搬式2台の写真がある。東京航空計器(TKK)のスキャンレーザー式LSM-300と、その新型LSM-310だ。追加配備の2台がLSM-310なのだろう。

本部の交通指導課、交通機動隊、高速道路交通警察隊に1台ずつ配備。交通指導課の管理のもと、各警察署に適宜(てきぎ)貸し出す形で運用しているという。

取り締まりの実施回数と「撮影枚数」が載っている。撮影枚数=取り締まり件数だと警察庁(全国警察の総元締め)は言う。以下、丸カッコ内は1回当たりの撮影枚数だ。私の計算による。

2019年 119回、185枚(1.55枚)
2020年 168回、636枚(3.79枚)
2021年 218回、643枚(2.95枚)
2022年 569回、1377枚(2.42枚)

他県の可搬式の報道では、1回1枚前後ってことがよくある。それに比べれば奈良は多い。ただ、全枚数がオービスとしての運用、つまり現場では測定&撮影を行い、あとで違反者を呼び出して違反切符を切るという運用なのかどうか。

2021年7月号の『月刊交通』によれば、福岡県警はTKKの可搬式を、ネズミ捕りの装置としても運用しているという。奈良県警も可搬式でネズミ捕りをやっている、かもしれない。

参考記事:可搬式オービスの取り締まり件数、福岡が突出して多い理由とは

ま、それはそれとして、2023年7月号の記事には、非常に興味深い部分がある。こうだ。

「若手交通課員が中心となって積極的に意見を出し合い、メーカーの了解も得た上で『模擬』可搬式オービスを試作しました。当然、取締りはできませんが、交通街頭活動時(交通監視)において、警察官とともに配置することで通行車両の速度抑制効果に期待し、交通事故防止につなげようと計画…」

その画像が載っている。普通のカメラ用と思われる細い三脚の上に、縦長で白く大きな“箱”が。なんと、LSM-300にそっくりじゃーん!

そういえば、と私は思いだした。だいぶ昔、バイクであちこち旅したとき、片側1車線で街灯などほどんどない国道を夜間に走行中、道端にいきなり警察官が現れ、ぎょっとなることがあった。近づき通り過ぎるとき、それは蛍光塗料をうまく使った立て看板だとわかった。「なんだよぉ~」となったもんだ。

今、ネットで調べてみた。「ナイトポリス標識(警官看板)」として、しっかり販売されてるんだね。へえ~、である。奈良県警の「『模擬』可搬式オービス」も同じ発想なわけだ。そういう工夫、私は好きだ。「いいね」を差し上げたい。

ただ、ちょっと、なんというか、なんとも言い難いものを感じる。TKKの可搬式はどうも取り締まりに向かないようで、「見せる取り締まりで速度抑止を」と、つまり“カカシ効果”をアピールしている。1台1000~1200万円のカカシだ。そこにおいて「『模擬』可搬式オービス」は本物のカカシといえる。なんだか哀しいような…うまく言えないです。すみません。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通違反以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。

ドライバーWeb編集部

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