2023/06/27 新車

これがホントの最適解。スバル クロストレック試乗インプレッション

ツーリングワゴンからアウトバック、さらにインプレッサからフォレスターへの展開と、自慢のハードウェアを武器にジャンルを超えた“クロスオーバー”を得意としてきたスバル。現在、その中核に位置するのがクロストレックだ。気づけば周囲は強者だらけ。SUV最激戦区で発揮できるか、真骨頂。


一縷(いちる)の迷いなく
 
2023年4月中旬現在、XV改めクロストレックは5カ月で約1万2000台を受注。直近の1カ月でもさらに約3000台の注文があったという。国内月販計画は2600台だから、出足はまずまずといったところだ。
 
インプレッサとボディやメカニズムを共用する、ハッチバックベースのクロスオーバーSUV。競争が熾烈なコンパクトSUVのなかでも、依然オンリーワンの存在である。
 
商品コンセプトは明快な継承路線だ。先代のボディサイズをきっちり守りながら、「ラギッドかつスポーティなデザイン」をモノにしたパッケージとスタイリングは、非常に好感が持てる。
 
内装も全体的にはスバルらしく手堅い印象だ。目を引くのはアウトバックやレヴォーグと同じ縦型11.6インチのセンターディスプレイ。2022年の世界初公開に合わせて取材したプロトタイプは樹脂パーツの見栄えがいまひとつだったが、量産型では質感もしっかり仕上げてきた印象だ。
 
商品性で先代と変わったところがあるとすれば、ラインアップだろう。エンジンは動力性能・燃費とも中途半端だった1.6Lを廃止し、2Lハイブリッド(HV)のeボクサーに一本化。一方、スバル伝統のフルタイム4WD「アクティブトルクスプリットAWD」のみだった駆動方式には新たにFFが加わっている。
 
前述した受注分の販売比率は4WDが72%、FFは28%。グレードはリミテッド75%、ツーリング25%と上位が7割超を占める。いずれもスバルの見込みどおりのようだ。
 
ボディカラーは訴求色でもある新色のオフショアブルーメタリックが36.9%で一番人気。そのあと先代にも設定のクリスタルホワイトパール(22.5%)、同じくマグネタイトグレーメタリック(11.3%)が続く。もう1つの新色、オアシスブルーは鮮やかでこれも魅力的だが、なぜか3.8%でブービー。
 
CROSSTREK

スペックは同じでも
 
試乗会でステアリングを握ったのはリミテッドの4WDだ。走りの印象をひと言で表せば、動的な質感が先代のXVと比べものにならないほど向上している。日本車のCセグメントSUVでトップをうかがうレベルと言っていい。
 
eボクサーは加速時に気になったエンジンのゴロゴロ、ガサガサした振動・ノイズが大幅に低減している。前出のインプレッサと同じく、クランクのたわみを抑えたパワートレーンの剛性強化が効いているようだ。静粛性向上には高剛性のアルミハウジング液体封入式エンジンマウント採用、リニアトロニックのチェーン音改善などもあげられる。
 
スバル独自のHVシステムもEV走行からエンジン走行に切り換わる際のギクシャク感がかなり軽減している。アクセルオフでEV走行に切り換わるタイミングが早くなると、さらにいい。XVではアクセルレスポンスが演出過剰だったSモードのモーターアシストも、違和感のない特性に見直されている。
 
エンジンやモーターなど動力関係のスペックは先代とまったく同じ。だが、パワートレーンの動きが全体的にとてもスムーズになり、振動・ノイズもグッと低減したことで、体感的な加速はXVよりも軽快だ。
 
ボディのフルインナーフレーム構造採用や構造用接着剤の塗布範囲拡大、ウェルドナット形状の見直しによるサスペンション取り付け剛性の向上、2ピニオン電動パワーステアリングの採用など、ボディ&シャシーには国内ではレヴォーグから始まった技術アイテムが投入されている。
 
ひとつだけ……ブレーキフィールが気になる
 
そのフィーリングはパワーユニット以上に洗練の度合いを増している。200mmのロードクリアランスを持つサスペンションが、強固なボディの下でとにかくよく動く。伸びやかかつ精緻なストロークで路面を捉え続け、不快な突き上げやショックをバネ下で吸収。細かい振動も十分に抑えられている。
 
ステアリングもフリクション感がなくスッキリ。切り込んでいくとクイックになる可変ギヤ比を継続採用するが、中立付近のレスポンス向上で従来の段付き感が解消している。
 
ワインディングではボディが車高なりにロールするものの素早く収束し、姿勢はフラット感が高く安定している。コーナーの進入から脱出まで、一連の操舵感やクルマの動きがとにかく滑らかにつながる。腰まわりのホールド性が格段に向上した新設計のフロントシートも、走りの一体感が向上した一因だ。
 
別の機会に試乗したリミテッドのFFも好印象。ストローク感たっぷりの懐の深い4WDのサスフィールをそのままに、さらに軽快なハンドリングを味わわせる。車重は4WDより50kg軽く、もちろん燃費もFFのほうがいい。
 
4WD/FFともにひとつだけ残念なのは、ブレーキフィールだ。例えば信号が赤に変わってペダルを踏み込み、停止直前で一瞬緩める際、思った以上に制動力が抜けてしまう。電動ブースターとHVの組み合わせはスバル初だが、微妙なブレーキ操作では回生協調に違和感が残る。さらなるチューニングをお願いしたい。
 
その点を除けば、最新世代のコンパクトSUVとしてクロストレックに求めるものはすべてかなえられている。“進化”と言うより“深化”。たくましさと優しさを併せ持つ、懐深く洗練された走り味。「小さなアウトバック」と言ってもいい出来栄えだ。
 
欲を言えば、北米向けに発表された「ウィルダネス」の日本導入もぜひ検討願いたい。新世代アイサイトに単眼カメラを国内初導入したついでに、渋滞時ハンズオフなどが可能なアイサイトXの設定も。
 
それがかなえば、クロストレックの唯一無二の存在は決定的になる。
 

よりアウトバック似に深化
 
CROSSTREK
ボディカラーは「広がる波間」のような静かな力強さをイメージしたというオフショアブルー・メタリック(3万3000円高)。目下一番人気色だ。

CROSSTREK
ボディは、インプレッサと同じくフルインナーフレーム構造とし、構造用接着剤の適用範囲を拡大したSGP(スバルグローバルプラットフォーム)。ルーフパネルとブレースの間に高減衰マスチック(弾性接着剤)を採用することで、ルーフの振動による騒音(音圧)を低減。車内音の収束性も向上させた。シートの考え方も前者と共通。

CROSSTREK
タイヤはツーリングが17インチのヨコハマ ジオランダーG91、リミテッドは18インチのファルケン ジークスZE001A A/S。
 
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リミテッド。ルーフレールは全車オプション(5万5000円)で、電動チルト&スライド式サンルーフはリミテッドのみに設定。

CROSSTREK
山柄のテクスチャーが施されたサイドシルプレートは、ルーフに荷物を載せる際のステップとしても使える。
 
CROSSTREK
ツーリングのインパネ。オーディオレス仕様が標準で、センターインフォメーションディスプレイも7インチサイズに。シート地はトリコットでシートの調整機構も手動となる(リミテッドはファブリック、運転席10ウエイ/助手席8ウエイの電動)。
 
CROSSTREK
フロント、両サイド、リヤの4つのカメラ映像を合成して車両周囲360度を映し出す3Dビュー/トップビュー機能付きのマルチビューモニター。8つの視点切り替えが可能だ。リミテッドに標準装備。
 
CROSSTREK
Xモードも進化。後退時にもモーターアシストが働くよう制御を変更したほか、従来型では40km/h以上で自動解除されたXモードの働きが、新型ではスタンバイ状態となり35km/h以下で自動復帰する。
 


CROSSTREK
57兆超のアドレス検索
 
ナビゲーション機能は全車メーカーオプション設定。その純正ナビの新たな目的地設定方式としてクロストレックに搭載されたのが『what3words(ワットスリーワーズ)』だ。これは世界を3m四方の正方形に区切り、それぞれにランダムな3つの単語アドレスを割り当て。それを入力することで、例えばショッピングモールの駐車場の一区画や住所がない場所の目的地設定も可能となる。ちなみにSUBARU恵比寿本社ビルの入り口は「///せんもん。せけん。いっしき」。日本語音声入力対応はクロストレックが世界初だ。
 
CROSSTREK



■ツーリング(4WD・7速CVT)主要諸元 [ ]内はリミテッド(4WD・7速CVT)
 
【寸法・重量】
全長:4480mm
全幅:1800mm
全高:1575mm
ホイールベース:2670mm
トレッド:前1560mm/後1570mm
最低地上高:200mm
乗車定員:5人
車両重量:1590[1610]kg
 
【パワートレーン・性能】
エンジン型式・種類:FB20・水平対向4DOHC
総排気量:1995cc
ボア×ストローク:84.0mm×90.0mm
圧縮比:12.5
最高出力:107kW(145ps)/6000rpm
最大トルク:188Nm(19.2kgm)/4000rpm
使用燃料・タンク容量:レギュラー・48L
モーター型式・種類:MA1・交流同期電動機
最高出力:10kW(13.6ps)
最大トルク:65Nm(6.6kgm)
駆動用主電池種類・容量:リチウムイオン電池・4.8Ah
WLTCモード燃費:15.8km/L
最小回転半径:5.4m
 
【諸装置】
サスペンション:前ストラット/後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後Vディスク
タイヤ:225/60R17[225/55R18]
 
【価格】
288万2000円[328万9000円]
 
 
〈文=戸田治宏 写真=岡 拓/山内潤也〉

ドライバーWeb編集部

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