2023/02/21 コラム

あおり運転でバスの前に割り込み、そして事故! どんな罪に問われるのか 

どんなに厳罰化されても妨害運転はなくならない?

■当然、罰金ではすまない

バスにあおり運転 5人けが スポーツカー運転の59歳男を逮捕」と2月13日、FNNニュースが報じた。 熊本市内の九州自動車道で、高速バスの前へ強引に割り込んで危険な加減速をし、ついには急停止、高速バスが追突、というシーンがバスのドライブレコーダーにばっちり録画されている。

録画映像からは、妨害目的が十分にうかがえる。「道路交通法」では、高速道路において妨害目的で他車を停止させる行為は、酒酔い運転と同じ扱いだ。刑罰は5年以下の懲役または100万円以下の罰金。違反点数は35点。それだけで欠格3年の免許取消処分だ。重い。

九州道の今回の件は、単なる妨害にとどまらない。急停止により負傷者が出た。なので「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」のほうの扱いになる。その第2条がまずこう定めている。

(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。

続けて、アルコール影響や赤信号無視、制御困難な高速度運転など8つの行為を掲げている。その6つめ、第6号はこうだ。長いので一部省略する。

六 高速自動車国道…(中略)…において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行…(中略)…をさせる行為

その行為をやって人を負傷させると、もう罰金じゃすまない。15年以下の懲役に処される。んもぉ、今回の九州道の件のためにできた規定じゃないかってくらい、ずばり当てはまる。「スポーツカー運転の59歳男」はどうなってしまうのだろう。

じつは私は東京高裁で、似たような「危険運転致傷」の控訴審判決を傍聴したことがある。ちらっとご報告しよう。

■似たような裁判を傍聴…判決は?

法廷の中央、証言台のところに被告人(40代ぐらいの男性)を立たせ、裁判長が声を張った。

裁判長「主文っ、本件控訴を棄却するっ。もう一度言います。本件控訴を棄却するっ」

一審の有罪判決には事実誤認があるから逆転無罪にしてくれと被告人は控訴した。その控訴を高裁は棄却したのだ。被告人を座らせ、裁判長は棄却の理由を述べ始めた。

ある日の午後4時過ぎ、片側2車線の道路でのこと。左車線を被告人の自動二輪が、右車線を路線バスが、どちらも33キロぐらいの速度で走っていた。被告人はバスの前、約3.06mの位置へ、ウインカーを点けずにひょいと車線変更。バスは警音器を鳴らした。すると被告人は減速。バスとの距離は約2.32mに縮まった。バスのドライブレコーダーにそんな状況がしっかり録画されているのだという。

バスは衝突の危険を回避しようと急制動。結果、乗客6人が転倒し、口唇挫創等の軽傷を負った。顔面をのけぞり角度にし、腕組みをして聞いていた被告人は、途中でドンッと証言台を叩いた。ええっ!

裁判長「どうしました?」
被告人「どうもしてません」

裁判長は朗読を続けた。妨害目的については、事故直後の被告人の発言から、バスの警音器に「悪感情」を抱いたことは明らかであり、ドラレコ映像からも「妨害目的が推認される」とした。

裁判長「原判決の判断はおおむね正当として是認できる」

刑事裁判の控訴審は、最初から審理をやり直すわけじゃない。一審の認定判断に著しい誤りがあるかどうかチェックするのだ。

被告人の側はこう主張していた。バスが左車線へはみ出してきた。前方にバス停があり車線変更するのだと思い、自分は右車線へ。前方の青いクルマがブレーキをかけたので自分は減速した。バスはすでに左車線へ移ったと思っていた。すぐ後ろにバスがいるのに自動二輪で減速するのは自殺行為だ。そんなことをするはずがない…。

言い渡しの途中、被告人は何度も「若干?」「え? そこ確定なんすか?」などと口を挟んだ。不規則発言は許されない。退廷を命じられることもある。けれど裁判長は、被告人が発言するたびに「裁判所の判断を述べてますから聞いてください」と応じ、先を続けた。

最後に上訴権(最高裁へ上告する権利)を告げ、言い渡しを終えた。普通なら、裁判長と左右陪席裁判官はさっと立ち上がり、奥のドアへ消える。ところが今回の裁判長は被告人に対し言った。

裁判長「はい、何ですか?」

さっき遮った被告人の話を、いま聞こうというのだ。ほ~、遮るときの口調がぜんぜん高圧的じゃなかったし、なんちゅうか懐の深い裁判長だな、と傍聴席で思う私。でっかい声で被告人はあれこれ言い始めた。こんなやりとりがあった。

■執行猶予、ではなく実刑だった

被告人「私が言ってることが信用できないと…私が嘘八百、デタラメを言ってるってことですか!」
裁判長「嘘かどうかは別にして、供述は採用していない…不服があれば上告していただくしかない」
被告人「10%に賭けて控訴した。90%負けるのわかってて控訴したんです。納得できる話をしてください! 私が言ってることが信用できないという根拠は何ですか!」

くり返しのやり取りが続き、5分が過ぎた。裁判長は「さっき述べたとおりです」とだけ言い、左右陪席裁判官とともに退廷した。傍聴席で私はいろいろ想像した。被告人はカッとなりやすく、何かにムカついてバスに軽く嫌がらせをしたのかも。危ねえな(怒)、 ざまあみろ(笑)、それで終わるはずだった。しかし乗客が転倒、ケガをしてしまい、事件になった…いや、真実はわからない。

一審の判決は何だったのか、調べてみた。なんと「懲役1年6月」、実刑だった。「15年以下の懲役」なのに軽い? いやいや、私が傍聴してきた限り、アルコール影響でも赤信号無視でも、よっぽど悪質でなければ執行猶予が基本だ。軽傷の事件で実刑は滅多にない。懲役1年6月とはいえ実刑はすごく重い。

もしかしたら、被告人には前科があったのかもしれない。あったとしても、否認せず、負傷者らに数万円ずつでも被害弁償すれば、執行猶予だったのではないか。いや、それもわからない話だ。

まとめ的なことを言わせてもらえば、どんなに厳罰化されようと妨害運転はなくらないだろう。カッとなったら止まらないとか、キレてやんちゃをやるのが格好いいと評価する界隈で育ったとか、そんなふうな人が世の中には1%か2%かいるのだなと、1万事件以上の裁判を傍聴してきてつくづく感じる。気をつけましょう。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。

ドライバーWeb編集部

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