2023/01/16 コラム

池袋暴走事故の「侮辱」裁判。執行猶予5年、「未決算入なし」は重いのか軽いのか

4~5カ月間も勾留しといて算入なし!?

秋葉原での殺人予告のツイッター投稿が「威力業務妨害」とされ、さらに別のひどい投稿が「侮辱」とされた刑事裁判、を私は傍聴して記事を書いた。1月9日付けの「ツイッターで侮辱…池袋暴走事故がらみのとんでも裁判、たぶん誰も知らない話」だ。

2023年1月11日(水)、その判決の言渡しがあった。前回と同様、傍聴券抽選。今回はもっと多くの人が押し寄せるだろう。前回、私は幸運にも当たったが、2度続けて当たる可能性はほぼゼロだ。なので行列に加わらず、別の法廷で「重過失傷害」(自転車事故)などを傍聴した。

夕方、裁判所を出る前に私は、威力業務妨害と侮辱の裁判を担当した刑事第16部へ行った。判決の主文を教えてもらいに。こういう言渡しだったそうだ。

「被告人を懲役1年及び拘留29日に処する。この裁判が確定した日から5年間その懲役刑の執行を猶予する」

求刑は懲役1年及び拘留29日だった。1月9日の記事で書いたとおり、威力業務妨害のぶんが懲役1年、侮辱のぶんが拘留29日だ。検察官は、仮に執行猶予とする場合は保護観察を付するよう求めた。しかし判決では、裁判官は保護観察を付さなかった。そのかわりというか、執行猶予を5年とした。

執行猶予5年とは、5年後に刑務所行きってことじゃない。5年間、まあ要するにおとなしくしていれば、今回の判決は効力を失う。刑務所へ行かすにすむ。しかし、5年のうちにまた犯罪をやると、ヤバイことになる。どうヤバイか、大ざっぱにはこうだ。

1、起訴されやすい
2、法定刑が罰金または懲役刑のとき、懲役刑を選択されやすい
3、刑が重くなる
4、よほどのことがない限りもう執行猶予は付かない
5、そうなると、前刑の執行猶予は取り消されてダブルで服役となる
めちゃくちゃヤバイでしょ。

執行猶予の期間は「1年以上5年以下」だ(刑法第25条)。本件被告人は、ヤバイ期間を上限の5年とされた。だからこれは、執行猶予とはいえ、かなり重い判決なのである。

次に、拘留。拘留は懲役、禁錮より軽い自由刑だ。拘留には法律上、執行猶予がつかない。だが本件の被告人は、報道によれば2022年8月13日に逮捕されたという。前回の期日は12月19日。そのときは勾留中の身だった。今回の判決は1月11日。引き続き勾留中だったか、私は傍聴してないのでわからない。メディア報道は身柄のことに触れない。

12月19日のあとに保釈されたとしても約4カ月間、判決までなら約5カ月間、勾留されたと思われる。途中で保釈され、再び勾留となることは滅多にない。勾留日数が長い場合、その一部を刑期に算入するのが普通だ。本件では、拘留29日について、満つるまでのぶんをその拘留刑に算入する、つまり拘留刑はもう執行し終えたことにするだろう、私はそう予想した。

ところが、刑事第16部で聞いたところでは、未決算入がない。4~5カ月間も勾留しといて算入なしって、ええっ? 聞き間違いか? どうにも気になって私は、裁判所を出て歩道から第16部へスマホで電話、確認した。やはり未決算入はなかった。

そうすると、このまま判決が確定した場合、拘留29日の刑が執行される。勾留も拘留も身柄拘束という意味では同じだが、拘留は刑罰の執行だ。タテマエ上は無罪推定の被告人ではなく、受刑者になる。29日間を受刑者として扱われるのだ。

執行猶予を上限の5年とし、拘留について未決算入をしなかった、裁判官は今回の事件をめっちゃ悪質ととらえたね、そうとうムカついたね、事件数で1万件以上を傍聴してきたマニアはそんなふうに見る。こういう話はテレビ新聞には出ない。出ない話をもっと知りたくて、どうにもたまらず裁判所へ通ってしまうのである。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称している。

ドライバーWeb編集部

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