2020/06/05 コラム

将来、街の整備工場が存続の危機に…フロントガラス交換が簡単にできなくなるワケ

■整備に関する新制度が4月からスタート

新型コロナウイルスの感染対策で混乱している2020年4月、自動車整備に関する新制度がスタートしたのをご存じだろうか。自動車整備制度は、クルマの安全な運行のために設けられているもので、これまでのエンジンやブレーキなどを取り外して行う「分解整備」は一般にもよく知られている。

新制度は、こうした取り外しを伴わなくても電子制御装置の作動に影響を及ぼす整備、または改造などまで整備制度の対象に含めるというものだ。ここでいう電子制御装置は、先進安全装備の緊急ブレーキやレーンキープなど、いわゆるADASのこと。また、市販まで秒読み段階の自動運転レベル3以上の自動運転を行うクルマに搭載される「自動運行装置」が追加され、その名称を「自動車特定整備」に改め、新たな自動車整備制度としてスタートした。

これによりどんな事態が予想されるか。街の小さな整備工場が大変な目に遭いそうなのだ。この自動車特定整備制度は、自動ブレーキなどに使用される前方を監視するカメラやレーダーなどの調整や自動運行装置の整備に関係してくる。高度なカメラシステムやミリ波レーダーなどは、クルマの事故などで修理のためにセンサーの脱着などを行ったとき、きちんと作動するか確認しなければならない。これらが「電子制御装置整備」と位置づけられ、新制度では整備に必要な事業場(電子制御装置点検整備作業場)や整備用スキャンツールなどの要件が定められている。


●新ガラス整備基準(1ページ目)国交省HPより。

こうした電子制御装置点検整備作業場や整備用スキャンツールを整備するには、大きな投資が必要。小規模な整備事業者は電子制御装置整備に手を出せない。こうしたことから街の整備工場が将来なくなってしまうのではないかと、ウワサされているのだ。さらに整備士の資格も変更された。電子制御装置整備の整備主任者に選任されるためには、各地方運輸支局長が行う「電子制御装置整備の整備主任者等資格取得講習」を修了することが必要になった。一級小型自動車整備士の有資格者であれば受講が免除されるが、これもハードルになりかねない。


●新ガラス整備基準(2ページ目)国交省HPより

以前から整備業界では導入予定が告知されていたため現在大きな混乱はないようだが、自動運転レベル3以上の自動運転を行うクルマが増えると自動運行装置の自動車特定整備ができなくて困る業者が出ることが予想される。もちろん自動車メーカー系の正規ディーラーは、こうした自動車特定整備ができる整備拠点センターを持っているため、各ディーラーがすべての整備装置を導入する必要はないだろう。

■フロントガラス交換も大変になるかも

ドライバーにもっとも身近な整備、というか故障で困るのが、フロントガラスの交換だろう。ご存じのように最近のクルマのフロントガラスには、ステレオカメラやレーザーレーダーなどのセンサーが搭載されていることが多いからだ。道路を走っていると飛び石などでガラスにヒビが入ることがあり、ヒビが大きければ車検(継続検査)に合格しないため交換になる。ガラス交換は、ディーラーはもちろん街の自動車ガラス交換工場で行う人も多いはず。だが、今回の改正で衝突被害軽減ブレーキなどのカメラやレーダーがガラスに付いていると、ガラスの交換作業には国の許可(自動車特定整備事業の認証)が必要となった。重要なセンサーなのでこうした規制強化は仕方ないことではあるが…。


●新ガラス整備基準(3ページ目)国交省HPより。

今までガラス交換をしていた業者は救済措置があって、4年間の経過措置がとられている。この期間中に電子制御装置整備の認証を取得すればよく、整備士資格がなくてガラス交換していた人でエーミング(正しく作動させるための校正)作業を行っていた経験があれば「自動車電気装置整備士」の実務経験として認められ、資格の習得がしやすくなっている。整備施設や資格は業者側の課題だが、ユーザーはこうした新整備制度によって愛車のADASの性能が維持され、安全にドライブできるというわけだ。ただし、今後はガラス交換のためにセンサーなどの脱着やエーミング作業をすると費用が高くなることが予想される。


●新ガラス整備基準(4ページ目)国交省HPより。

街の整備工場は、今後こうしたADASを装備していない旧車の整備に特化する業者も多くなるかもしれない。現在の整備工場のメカニックのなかにはキャブレター(気化器)を分解整備、調整が苦手という人もいるようだ。特にスカイラインGT-RのPGC10型やKPGC10型、2代目のKPGC110型が搭載した2L直6のS20エンジンは、ソレックスのキャブレターを3基備えていたため調整が難しいことで知られている。こうしたエンジンのキャブ調整ができるのは、整備士というより“職人”で、今でも整備の依頼が絶えないという。こうした街の整備業者は、今後も生き残っていけるだろう。

〈文=丸山 誠〉

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