2020/03/28 旧車

マツダ車だけどマツダ車じゃない!? 激レアなロータリー車「ロードペーサーAP」

豪製ボディに13Bを載せた初の3ナンバー




●エンジンは13B(654cc)、最高出力135ps/6000rpm、最大トルク19.0kgm/4000rpm、最高速度165km/h

1960~70年代に高度経済成長の一翼を担った国産自動車メーカーだが、最上級車を自前でラインアップしていたのはトヨタと日産だけだった。そこで三菱といすゞは1972~73年にかけてショーファードリブン車の開発に取り組む。しかし特殊需要の少量産車であり、市場もすでにセンチュリーとプレジデントが占有していたため、新規モデルを開発するのは現実的ではない。そこで資本提携関係にある外国メーカーの大型車を輸入して、自らの販売網で売ることにした。


●オイルショック勃発以来、混迷を極めたのはマツダの財政だけではなく、RE用の公害対策システム「REAPS」もそうであった。次々に仕様変更が行われ、バージョン違いの混成も存在した。1975年3月のロードペーサー登場時の昭和50年規制適合はリープス3相当で、同年10月のマイチェンで51年規制適合のリープス5になっている

三菱はクライスラー・オーストラリアのバリアント/バリアントチャージャーをクライスラー318/チャージャー770として、いすゞはオーストラリアのホールデン・ステーツマンをいすゞステーツマン・デビルとして販売。いわば“右ハンドルのアメ車”である。

マツダもまた大型高級車の開発を目論んだ。といって三菱、いすゞのように海外メーカーとの提携関係はまだ浅く、成車を輸入するのは難しい。そこで外国メーカーからボディ、内装、足まわりを買って組み立て、自慢の13B型ロータリーを積むことにした。


●正式名称は「ロードペーサーAP」で排ガス対策車であることを強調。ベースとなったホールデンHJプレミアはインターミディエートの車格でホイールベースはセンチュリーより30㎝ほど短い。このクルマから現在も継続して使われるmazdaのロゴが採用された

素材となったのはホールデンのHJプレミアで、いすゞのステーツマン・デビルとは兄弟車になる。本国ならびに米国での車格はインターミディエートだが、日本では立派な大型セダン。センチュリーと比べ全長が短いものの全幅と全高はほぼ同じ。こうしてロードペーサーの生産・販売が1975年からスタートした。 


●ホールデンHJプレミアの部品を使って国内で組まれ、13Bを載せたマツダ初の3ナンバー車。車名の「ROADPACER」は「道路の王様」を意味する。最高速度は165km/hにとどまる

だが“ロータリーエンジンのアメ車”は期待ほど売れなかった。生産台数は1975~77年の3年間で800台(在庫販売は1979年まで)。低公害車としての優遇税制が適用され官公庁での公用車需要もあったが、センチュリー、プレジデントの牙城には遠く及ばなかった。


●このクルマの不思議な成り立ちを示すエンジンルーム。本来は3L前後の直列6気筒から5LのV8までが収まるこのスペースの半分も専有しない13B型ロータリーエンジン(654cc×2)。そのためエンジン本体は補機類に埋もれて見えなくなってしまった

理由はいくつかある。価格がセンチュリー、プレジデントより高価なうえ、マツダの販売網ではさばきづらかった。低速トルクの薄いロータリーエンジンが大柄な車体にマッチしていなかった。ベースとなったホールデンが日本人にとっての高級車のイメージに合致していなかったことも大きな要因だろう。1977年、ロードペーサーと入れ替わるように登場した3代目ルーチェーレガートは、ルーチェとロードペーサーの隙間を埋めるモデルでもあったが、むしろこちらのほうが重厚なデザインである。


●180km/hフルスケールの角形スピードメーターを中心とするやや切り立ったインパネは1970年代中期のアメ車そのもの。ミッションは日本自動変速機(現ジヤトコ)製3速オートマチックのコラムシフト。写真の5人乗り(フロントセパレートシート)のほかに6人乗り(フロントベンチシート)があった。シートはモケット張り

〈元はこんなクルマ〉
HOLDEN PREMIER


●オーストラリアのホールデンが生産していたHJシリーズの「プレミア」。この車体部品を輸入し、13Bロータリーと3速オートマチックを組み合わせて完成させたのがロードペーサーだ。当時いすゞが自社の最上級車として輸入したステーツマン・デビルの兄弟車でもある。米国GMシボレー・ノバのXボディと共通だが、リヤサスはリジッドながら4リンク/コイル。写真下のようにワゴンもあり、どことなく3代目ルーチェ(ベンツマスク)のバンに似ている


●ワゴンボディもあった。これのマツダロータリー版があったら面白かったのに…と夢想するも、間違いなくロードペーサー以上に売れなかっただろう

〈2020年3月30日発売:マツダ ロータリーの神々(八重洲出版)より〉

ドライバーWeb編集部

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