インパネの水平基調に合わせた2本スポークのステアリングは、取り回しで舵角の向きが一瞬わかりにくかったり、シフトレバーは操作感がプラスチック然として少々オモチャっぽかったり、といった点はある。しかし、基本的には鷹栖テストコースの事前試乗で得たのと同じ、かなりの好印象である。
↓↓ホンダの鷹栖テストコースでの記事はこちらより
https://driver-web.jp/articles/detail/25293/
鷹栖では新開発のe:HEVを搭載したハイブリッド車(HV)の走りに目を奪われたが、待ちに待った公道試乗で目からウロコが落ちたのはガソリン車の実力だ。
試乗車は最量販グレードと思しき「ホーム」。会場のホテルは敷地内が開発泣かせの石畳だが、走り出すと不快な突き上げや振動をまるで感じさせない乗り心地にまず感心した。路面の凹凸に対するサスペンションの追従性がとてもいい。ただ、そのせいもあってか、一般道に出ると金属製の継ぎ目など路面段差を乗り越えた際、特にリヤのショックが目立つ。タイヤはオプションの185/55R16で、空気圧は前220/後210kPaと標準的。ロードノイズは路面の変化に左右されず、うまく抑えられている。
熟成の1.3LエンジンとアップデートされたCVTの組み合わせは、低回転域で出足の力強さこそないものの、ふだん使いの動力性能はもちろん不足なし。そして、エンジンノイズがこれまた十分に抑え込まれ、クラストップレベルを思わせる静粛性を実現している。高速道路での急加速でさえ耳に軽く、頼もしいパワーと同調。アクセル全開では新たに採用されたステップ変速制御で、AT同様のリズミカルな加速を味わわせる。
ステアリングはロック・トゥ・ロック2.8回転で、標準的なギヤ比。フリクションが徹底的に取り除かれたサスは、しなやかなストロークで路面をとらえ続ける。先代より低くなったボディの重心高と相まって、ハンドリングは軽快そのものだ。ほぼすべての要素が高次元、そして好バランス。
e:HEVの試乗車は最上級の「リュクス」。ガソリン車から乗り換えると石畳でバネ下からボディへの入力が強く、突き上げが少々目立つ。タイヤサイズは同じ185/55R16が標準だが、空気圧は前240/後230kPaと高めだ。
さらに燃費を稼ぐためか?と勘繰ったが、開発担当者いわく、HVユニットでガソリン車より100㎏前後かさむ車重への対応。サスチューンも同様に合わせ込んでいるが、基本的なバネレートや減衰力はガソリン車と同じという。一般道に出ても乗り心地の印象に変化はない。不快では当然ないが、硬めではある。また、ロードノイズはエンジン稼働中もガソリン車より耳につく。これも車重増の影響で、タイヤにかかる面圧がガソリン車より増すためとか。
Bセグメントに初めて搭載された2モーター方式のスポーツハイブリッドi-MMD改めe:HEVは、ほとんど文句のない出来映えと言っていい。一般道ではエンジンで発電し、モーターのみで駆動するシリーズHV走行がメイン。モーターが瞬時に発揮する2.5Lガソリン並のトルクは、先代の7速DCTを使った1モーター式i-DCD(システム値137馬力・17.3kgm)より明らかに力強く、頻繁な変速から解放された滑らかさだ。エンジンノイズはガソリンより若干大きく感じられるが、それさえも急加速ではステップ変速制御によって加速の一体感を演出している。低負荷時やアクセルオフでエンジンを停止させるEV走行は作動領域が拡大し、EV感覚が大幅に向上。高速巡行でモーター走行より効率のいいエンジン走行モードに移行する点も、従来のi-MMDと同じだ。
HVのFF・16インチ車は、ロック・トゥ・ロック2.2回転の可変ステアリングギヤレシオを採用。基本的にはガソリンよりかさむフロント重量を補う目的のようだが、大きな舵角でクイックになるギヤ比設定によって、ワインディングではガソリンより舵角の少ないスポーティなハンドリングを楽しませる。走り味はガソリンよりドッシリ重厚。だが、リチウムイオンバッテリーユニットやパワーコントロールユニットの小型・軽量化なども奏功し、先代HVのような腰高感やリヤの重ったるさはもはや気にならない。
チョイ乗りだが「クロスター」の感触も試せた。試乗車はe:HEVで、路面からの突き上げはリュクスよりマイルドだ。足まわりで30㎜アップした車高のためかと思ったが、タイヤ空気圧はガソリン車と同じ指定でリュクスより低い。理由はタイヤサイズにある。クロスターは同じ185幅の16インチでもやや大径の60偏平で、55偏平よりエアボリュームがある分、e:HEVの車重にもガソリン車と同じ空気圧で対応できるという。半面、車高アップによるボディの“揺れ”がいくぶん認められるが、快適性を損ねるレベルではない。前方視界の限界をブレークスルーした驚きのワイドビューに目線の高さが加わり、気分はまさにクロスオーバー。新型フィットの魅力を際立たせるユニークな存在だ。
HVシステムがi-DCDからe:HEVに刷新された最大の理由は、燃費のさらなる改善にある。新型フィットは実勢に近づいたWLTCモードで27.2~29.4㎞/L(FF)を確保し、その目的は確実に達成されている。しかし、奇しくも同時期デビューとなった新型ヤリスは量販グレードでも35㎞/L台をマークし、少なからず差をつけられたかたちだ。
何でも一番にこだわって開発された先代と違い、新型で目指されたのは「心地よさ」。ただ、インサイト対プリウスについても感じたことだが、これまで燃費でも突っ張ってきたホンダがここまで水を開けられると、勝負を降りたみたいで一抹の寂しさは否めない。
「開発資源の配分については、ものすごく議論しました。お客様には何が最善なのか。燃費で一番にこだわりコストを注ぎ込むよりも、車両価格を抑えて装備を充実させたほうがフィットのお客様に喜んでいただける。それが今回の結論です。燃費で一番になる研究や開発は、もちろん続けていますよ」(開発担当者)
そうなのだ。売れ筋のe:HEVホームは206.8万円(FF)で、電動パーキングブレーキ、フルLEDヘッドライト、本革巻きステアリング、インパネのソフトパッドまで標準装備。価格が比較的安いだけでなく、コストパフォーマンスが非常に高い。そのうえ車両の基本性能もクラストップレベルとくれば、Bセグメントで一二を争う商品力は言うまでもない。歴代モデルの伝統を守りながら、今にふさわしいコンパクトカーの理想像を愚直に見つめ直した新型フィット。ベストセラー争いへの返り咲きは間違いない。
↓↓新型フィットのラインアップ解説はこちらより
https://driver-web.jp/articles/detail/28674/
〈文=戸田治宏 写真=山内潤也〉
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