2023/10/13 コラム

データで見た「青切符の人の不起訴率は100%に近い」という事実【交通違反の基礎知識・その5】

では青切符で公判請求されやすいのはどんな人?(記事最後にて)

「違反が事実ならアウト」は大うそ。交通違反の不起訴の93%は「起訴猶予」【交通違反の基礎知識・その4】

との記事で、法務省の統計をご紹介した。2022年の1年間に「道路交通法違反」を検察はどう処理したか。こうだった。

略式起訴   8万8446人
公判請求     6275人
不起訴    9万4011人
(うち起訴猶予)8万7676人

略式は「とっとと罰金を払って終わりたい」という人のための特別な裁判手続きだ。本人の同意を必要とする。略式に応じない人は、公判請求か不起訴か、どっちかになる。略式に応じない人の不起訴率は約94%。けっこう高い。

だがしかし、じつは、法務省のその統計には、赤切符の違反も含まれる。もっと言えば、切符とは迅速処理のための共用書式だ。違反がかなり悪質だと、切符ではなく、一般犯罪と同様に通常書式で処理される。法務省の統計には、通常書式の違反も含まれている。

じゃあ、2022年の公判請求6275人の中に、もとが青切符の人は何人含まれるのか。ずばり推認できるデータが、じつはあるんだね。

■つまり「青切符の人の不起訴率は100%に近い」

反則金の制度がスタートしたのは1968年7月。法案が国会へ提出されたのは1966年。そのとき、反則金の額は「過去の科刑実績」を参考にすると報道された。制度スタート後、反則金を払わずに裁判で罰金刑になった場合、その罰金額は反則金と同額になった。もちろん、罰金額は裁判官が個々に判断するタテマエだ。通常は反則金と同額の判断を裁判官はするってことだ。

私は、もとが反則金の刑事裁判(正式な裁判)を東京簡裁だけで2件傍聴した。1件は自動二輪の26キロ超過。求刑も判決も、反則金と同額の罰金1万5000円だった。もう1件は原付の一時不停止。求刑も判決も、反則金と同額の罰金5000円だった。

そのことを頭に置いて、最高裁の統計、「令和4年 司法統計年報(刑事編)」を見てみる。これはWebサイト上にある。今どきは便利だ。

まずは「第 35 表 通常第一審事件の有罪(罰金)人員人員―罪名別罰金額区分別―全地方裁判所」だ。「通常第一審」とは、普通の裁判、いわゆる正式裁判のこと。「道路交通法違反」により、公判請求されて正式裁判になり地裁で罰金刑を受けたのは、2022年は215人だ。

罰金の金額帯別の人数が載っている。いちばん多いのは「30万円以上」(50万円未満)で131人。これは、ほぼすべて無免許運転、酒気帯び運転だろう。2番目に多いのは「5万円以上」(10万円未満)で35人。これはほぼすべて速度違反で赤切符を切られた人だろう。

反則金の最高額は、大型車の高速道路における超過35キロ以上40キロ未満と、やはり大型車の過積載5割以上10割未満で、4万円だ。第35表で、「3万円以上」(5万円未満)およびそれより小さい金額帯の人数、そこに、もとが青切符の人が含まれる。

3万円以上(5万円未満) 4人
2万円以上(3万円未満) 0人
1万円以上(2万円未満) 1人
1万円未満 2人

合計7人ぽっちだ。次に簡裁のデータも見ておこう。「第 37 表 通常第一審事件の有罪(罰金)人員―罪名別罰金額区分別―全簡易裁判所」。こっちの「道路交通法違反」の罰金の合計は38人。いちばん多いのは、やっぱり「30万円以上」(50万円未満)で19人。もとが青切符の人が含まれる金額帯はこうだ。

3万円以上(5万円未満) 1人
2万円以上(3万円未満) 0人
1万円以上(2万円未満) 2人
1万円未満 5人

合計8人ぽっち。地裁とあわせて、2022年の1年間にたった15人。そこに、もとが青切符で、反則金を払わず、いわゆる交通裁判所へ出頭し、略式を勧められても応じなかった人が、含まれるのだ。法律上は、自転車の信号無視(2022年は反則金の適用外)なんかも含まれるが、じっさいには15人すべて、もとが青切符の人かと思われる。

法務省の統計と最高裁の統計の違いはあるけれども、公判請求6275人中、もとが青切符は15人、約0.2%。「青切符の人の不起訴率は100%に近い」と私が言うのは、そういうわけなのだ。

私は40年以上にわたり、交通違反・取り締まりに熱中してきた。そこからの印象を述べるなら、近年はもう、検察官の取り調べさえなく、反則金不納付=不起訴という運用が定着しつつあるんじゃないか。警察はこう考えているのではないかと思われる。

「反則金を払わず、略式にも応じないなら、もういい。手間をかけてもしょーがない。捨ててしまえ。不起訴でも違反点数は絶対消さない。それでヨシにしとこう」

■青切符で公判請求されやすいのはどんな人?

ただ、そうはいっても2022年は15人が公判請求された。もとが青切符で公判請求されやすいのはどんな人か、私の印象では、たとえばこうだ。

・担当の検察官と感情的にモメる。検察官を激怒させる。
・道交法は悪法、警察は悪の組織と決めつけて反発。不起訴になったら、自信をもって同じ違反をくり返しそう。
・不起訴をゲットしてユーチューブでネタにするつもり。
・担当の検察官がだいぶ変わり者…。

以上、あなたはどう受け止めたろう。私の場合、捕まったら反則金を払わざるを得ないような違反、堂々と不服を主張できないような違反はしない。なので私の運転はおとなしいかも。ま、そんな変な“安全運転術”もあるということで。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。

RELATED

RANKING