ドライバー3月号(2020年1月20日発売号)からスタートした新連載「(じつは)動物カメラマン 三好秀昌の『ニッポン探訪』」。日本全国を最新SUVで駆けまわり、かわいい動物や最高の絶景を撮影してしまおう!という企画です。第7回は、生息数も減って最近はあまり人前にも姿を現さなくなった『イノシシ』。撮影テクニックやクルマのインプレッション、その地域のグルメやお土産情報など、取材ウラ話をいろいろと紹介します。
野生動物との出会いは本当に一期一会なんだと思う。1分どころか数秒タイミングが違えば見かけることもない。大きな動物も藪(やぶ)に簡単に身を隠す。そうなると人間では気配すら感じることもできない。
今回、イノシシを探していてそんなことを痛感した。
しかし、いろいろな状況が変わり、餌付け禁止の張り紙がそこかしこに……。当然イノシシは減り、人前にもあまり出てこなくなったようだ。
そこで情報収集。山を下りてくるハイキングの人に「イノシシ、見かけませんでしたか?」と聞いてまわる。
「最近見かけないね~」
「前はこのあたりによくいたんだけどね」
どうも芳しくない。
最後に、昼食を取ったお茶屋で聞いてみた。
「いますよ。今は出産のために山の奥にいるんじゃないかな。そのうちウリ坊を連れて出てくるよ」
「オオッ!」
すばらしく理詰めの答えだ。これに賭けるしかない! 春先に電話して状況を聞くことにした。
そして……思いのほかウリ坊どころかイノシシは出てこなかった。何度電話しても「まだだね~」との返事。
するとお茶屋さんから電話が!!
「ウリ坊、6匹生まれたよ!」
「やった! えーと、新幹線の予約をしなければ!」
翌日、早朝、まだ薄暗いのに足取りも軽く現場に向かうオイラ。
車止めから先は遊歩道。横には小さな滝から続く細い川が流れている。
そこに何か黒い塊が動いている。
大きなイノシシが川にいる!
やった!
暗くて撮影条件は悪いがとりあえず撮影。
そうだ! ウリ坊はどこだ!!
うーん、見まわしてもいない。単独のイノシシのようだ。
それでも前に比べれば幸先がいい。イノシシを目撃できたのだから。
少し山を登り、一番目撃率が高い砂防ダムへ。
しかし、ウリ坊たちはなかなか出現しない。ハイカー何人かに尋ねるうちに、少し上のほうにいましたよ!という人がいた。
急いで向かうが見当たらない。
さてさて、どーしたものか。
結局、この日は見つからなかった。
翌日も早朝から張り込む。坂のきつい山道のよく出るという場所と、昨日の目撃場所を行ったり来たりしながらは疲れるばかりだ。
この日、捜索5時間が過ぎようというころ、なんか茶色いものが動いているのを発見。
あれ? なんで下から来るの? 上から下りてくるものと思ってた。オイラ、上るときに見落としてたのかな~。
何はともあれ、辛抱強く待ってたかいがあり、ついにデカい母親と6匹のウリ坊が姿を現した!
母親はほとんどウリ坊をほったらかし。たまに近づいてくると鼻先で蹴散らして、餌を探すのに夢中である。
それなのに、何かの拍子にゴロンと横になり授乳を開始。そして、突然むっくり起き上がり、ウリ坊を追い払いエサ取りに復帰。
母性と粗暴さが同居している。
撮影であまり近づくとウリ坊は逃げてしまうが、母親はオイラなんか眼中にないらしく、どんどん近づいてくる。あの目で凝視されたら結構怖い。子供を蹴散らすくらいだから他人のオイラなんてひどい目に遭わされそうだし(笑)。
しかし、子供が6匹もいるとそれぞれに個性があるのに気が付く。それを頭の隅に置いて撮影すると、いろいろなアクションを先回りして撮れるからすごく楽しめる。
突然、1匹が走り出す。いつもその尻を追っかけている臆病なウリ坊も間違いなく同じ行動をとる。だから川の中を走ると予想してそこにレンズを向けると、ドンピシャ!
やっと出会ったイノシシ親子はいろいろなアクションでオイラを歓迎してくれた。
イノシシたちはある程度人慣れもしていて、マイペースで好き放題餌探しをしている。夢中になると人間の存在を忘れるようで、こっちが驚くほど近くに来ることもある。
遠くから近くまで自由自在にアングルを決められるズームレンズは便利だった。
望遠域で狙ってじっとしていると、なかには好奇心が旺盛な子は少しずつ近づいてくる。そんなときにレンズ交換のために動いてしまうと驚いて逃げてしまう。そういった意味でも、こういう場面ではズーム一択だ。
機材:SONY α9
レンズ:FE 24-240mm F3.5-6.3 OSS
撮影モード:マニュアル
シャッタースピード:1/320
絞り:f9.0
ISO:1600
露出補正:-0.7
FE 24-240mm F3.5-6.3 OSSは、これ1本というレンズとしては最適だ。軽量コンパクトなレンズとは言えないが、この独特の焦点距離がカバーする範囲を考えれば便利で性能もいい。
足場の悪いところや山道を行き来しながら撮影をした今回のような状況では、これだけで事足りるというのはうれしい。
レンズの付け替えの手間だけではなく、受光部へのゴミやホコリの混入も最大限防げるというメリットもある。
開放値はやや暗いが、撮影目的が山歩きみたいな重量が苦痛になるときには本当に助かるレンズだ。
手ごろなサイズで市街地での取りまわしもしやすいが、ドアミラーの下の部分からクルマのサイドが見える死角の少ない視界なので、駐車場や狭い山道でも乗りやすいのがすごくいい。
パワフルなエンジンではないのだがCVTの設定が絶妙で、発進から加速までレスポンスよくクルマが動き、軽快感が増幅される。クルマも軽く仕上げられていてキビキビ走るコンパクトSUVだ。
乗り心地はやや硬めだが、突き上げ感はないので印象は悪くない。そのサスペンションはワインディング路で適度なスピードを維持しながら、あまりロールを感じさせずに曲がってくれる。
アイドリングストップはクルマが停止する直前にストンとエンジンが停止する気の早さで、燃費に寄与するのだろう。ただ、ブレーキホールド機能がないので、ブレーキペダルから足を離すとエンジンがかかってしまうのがやや残念な気がした。
レジャーをはじめ、あらゆるシチュエーションでのお供として便利なコンパクトSUV。コストパフォーマンスに優れていると感じたロッキーだった。
ダイハツ ロッキー G(7速CVT/FF)
全長×全幅×全高:3995mm×1695mm×1620mm
ホイールベース:2525mm
最低地上高:185mm
車両重量:980kg
エンジン:直3DOHCターボ
総排気量:996cc
最高出力:72kW(98ps)/6000rpm
最大トルク:140Nm(14.3kgm)/2400~4000rpm
燃料/タンク容量:レギュラー/36L
WLTCモード燃費:18.6km/L
タイヤサイズ:195/60R17
価格:200万2000円
ダイハツ本社に併設されているいわゆるダイハツの歴史館的ミュージアム。毎週土曜日に見学できる。
ミュージアムには会社の歴史に合わせてヒストリカルなクルマが展示されている。
最初に出迎えてくれるのは受付横のDBC-1。何と49年前の1971年に誕生したキュートな3輪電気自動車である。早朝の牛乳配達用などに排気音がないクルマ、という要望からモーター駆動で生まれたクルマ。オイラは以前乗ったことがあるけど、モーターだけになかなか出足がいい。昔の電気自動車なので、クラッチ付きの3速MTで走らせるのが特徴でおもしろかった。
そして、当時の傑作3輪軽自動車のミゼットもバーハンドル、丸ハンドルの2タイプが昔の街並みとともに展示されている。
小さいミュージアムだがユニークで楽しいクルマたちがあるので、ぜひ一度足を運んで!
ヒューモビリティワールド
住所:大阪府池田市ダイハツ町1-1
TEL:072-754-3048
https://www.daihatsu.com/jp/facilities/hw/
開館時間:9:30〜12:00(最終入館11:00)、13:00〜17:00(最終入館16:00)
開館日:土曜日
入場料:無料
駐車場:あり
1回目のイノシシ探しが不発だったので、六甲山巡りをした。
この山は関東の人間からするとやや不思議で、富士山のように山頂を目指すたぐいの山ではないようなのだ。だいたい山頂がどこなのかわかりづらく人気もない。どうもいろいろな方向から、いろいろな方法で楽しむ山のように感じた。
もちろん、クルマでワインディングを攻める六甲山の楽しみ方もあり、走り屋の聖地でもある。
また、ケーブルカーやロープウェイが何カ所もあり気軽に景色を楽しむこともできる。
そして、オイラのように六甲山の外れのほうからハイキングコースでアプローチという方法もある。
オイラの通った高座の滝からロックガーデンと呼ばれるロッククライミング発祥の地を抜けていくのは、伝統的なハイキングコースらしいのだがなぜか人は少ない。
しかし、このコースは景色がどんどん変わっていってメチャクチャ楽しめる。
まるでオーストラリアのピナクルスみたいな、岩が風化して残ったような景色まであるのだ。
このときアテンドしてくれたのは、パリダカライダー&ドライバーでもある池町佳生クン。もともと神戸の山男なので、このあたりのことはすごく詳しく、ディープな六甲を案内してくれた。
ただ、彼が言う「すぐですよ」はオイラや一般人にとって「とてつもなくハードな行程」で、どうやっても理解しがたい解釈の違いなのである(笑)。
さすがパリダカをやる鉄人はひと味違う!
そして、オイラが何となく理解したのは、六甲山と呼ばれるエリアはとてつもなく広く、短時間では把握しきれない、ということであった。また、彼の案内で六甲山を下りたあとの有馬温泉やおいしい大阪メシも満喫。ありがとー。
このお茶屋さんのオバちゃんは地元中の地元ということもあり、イノシシのことはよーく知っていて、「そのうちウリ坊つれて出てくるよ」という言葉に励まされた。
高座の滝/芦屋ロックガーデンの入り口にある滝の茶屋の名物はおでん。
標高は低いとはいえ、曇り空とかでジーっといつ出てくるかわからない動物を待っていると思いのほか体は冷える。
そんな撮影の帰りにここのおでんやうどんが癒してくれる。
ここから駅までなぜか公共交通機関がなく、20分以上も歩かないといけないので、最後の活力をここでもらってひと頑張り、という感じだ。
滝の茶屋
住所:兵庫県芦屋市山芦屋町1
TEL:0797-34-1683
営業時間:8:00〜17:00
定休日:不定休
〈文と写真〉
三好秀昌 Hideaki Miyoshi
●東京都生まれ、日本大学芸術学部写真学科卒業。八重洲出版のカメラマンだったが、ラリーで頭角を現し、そのうち試乗記なども執筆することに。1995年、96年にはサファリラリー グループNで2年連続優勝。そのほか、国内外で数多くのラリーに参戦。写真家としては、ケニアでの豹の撮影など、動物をおもな題材としている
ドライバーWeb編集部
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