2018/05/30 ニュース

これでタイヤが劇的に軽くなる!? ブリヂストンが世界初の新ポリマー開発に成功

5月17日、ブリヂストンは世界で初となる新たなポリマー開発に成功したと発表した。そのポリマーとは、ゴムと樹脂を分子レベルで結びつけたもの。一般的な合成ゴムより耐破壊特性が高いとされる天然ゴムと比較して、耐亀裂性が5倍以上、耐摩耗性が2.5倍以上、引張強度が1.5倍以上という画期的な性能を持つ。その名も「High Strength Rubber(HSR)」。これは、ブタジエンやイソプレンなどの合成ゴム成分とエチレンなどの樹脂成分を、ブリヂストン独自の改良型Gd触媒を用いて分子レベルで結びつける(共重合、2種類以上の成分を1つの化合物として結びつける反応のこと)ことにより開発したハイブリッド材料だ。この材料は、ゴムのしなやかさと樹脂の強靭さを兼ね備えた次世代材料であり、2016年12月にブリヂストンが発表した新規ポリイソプレンゴムの合成に用いたGd触媒技術をさらに進化させた成果である。HSRは、天然ゴムを凌駕する強度と耐摩耗性を持つことから、例えばタイヤの次世代材料として有望であり、より少ない材料使用量でタイヤに求められるさまざまな性能を達成できる可能性がある。これまでの常識をくつがえす新素材「HSR」
ここからは、もう少し詳しく、そして噛み砕いてお伝えする。そもそもタイヤの半分はゴムからできている。そのゴムの種類の割合は、天然ゴム:合成ゴム=約6:4。天然ゴム(NR)は、おもにパラゴムノキの樹液から作られる天然資源。強度、耐久性、補強材との接着性能など、合成ゴムよりも優れた特徴を持つ。一方の合成ゴムは、下降性、反発弾性、動的発熱性に優れた特徴を付与できる(また、品質安定性が優れる)。タイヤは、耐久性がとても大事。その点では天然ゴムが優れているのだが、天然であるがゆえに生産性に不安を抱えている(作物だから、害虫や天候などにも左右される)。そんなリスクを避けるために、メーカーは天然ゴムの代替、超越するポリマーの研究開発に取り組んでいる。そこでブリヂストンが今回開発に成功したHSRは、天然ゴムよりも強い性能を持つという点で画期的な素材なわけだ。
ただ、ことなる素材を掛け合わせる高分子ポリマーの世界では、今回のHSRのような新しい素材を生み出すことはできないのではないかと言われてきた。それをやってのけたブリヂストンは、さすがと言わざるを得ない。ゴム製品を多く作り出してきたトップランナーの意地を感じる今回の発表だった。
話をHSRにもどそう。画期的なのは、強さだけではない。HSRを作り出す素材が、世の中に“ありふれている”、すなわち汎用性のある素材から生み出すという点がすばらしい。HSRは、ブタジエンやイソプレンなど、現在も使用されている合成ゴムの成分と、エチレン(コンビニなどのビニール袋の素材)などの樹脂成分を、改良型Gd触媒(触媒の作用については難しいので割愛)によって掛け合わせ、結びつけている。また、ゴム成分と樹脂成分それぞれの割合を変えてやれば、下の写真のようにざまざまな特徴のHSRを作ることができる。
●膜状のものから、サラサラのものまで……

HSRを電子顕微鏡で見てみると、ポリエチレンが層状、すなわちゴム成分と樹脂成分が強くつながっていることがわかる。一方でGd触媒を介さない通常のブレンドでは、それぞれが分離したままとどまっている。HSRの性能を下記にまとめてみる。
〈耐亀裂性(引張疲労特性)〉

●あまりにも破断しないため、最終的にテストをやめたらしい
 
〈亀裂進展速度の比較〉

●写真ではよくわからないが、HSRは一般的なゴムよりも亀裂が入ってもその進展が明らかに遅かった
 
〈加硫ゴムによる耐摩耗試験〉

●加硫とは、ゴムを加工する際に弾性限界を大きくするために硫黄などを加える課程のこと。タイヤももちろん加硫されている
 
〈加硫ゴムによる引張強度試験〉

●天然ゴムよりも、よほど強いことがわかる
 
〈耐候性:静的オゾン劣化試験〉

●オゾンによるゴムの劣化具合を比較。天然ゴムや合成ゴムにはラックが入っており、劣化していることがわかる
 このHSRをタイヤに使えば、より少ない材料で現在タイヤに求められる性能を確保できるであろう、すなわちグッと軽量化が進み、かつ環境への負荷も低減できるであろうとしている。ただこの世界初のポリマー「HSR」の使い方は、「みんなで考えていきたい」とブリヂストンは語っている。何度も伸ばしても切れにくい……例えばクルマのボディカバーを作るとか?ホコリや砂も入らず、なんど装着&取り外ししても壊れない……?? 想像力が貧弱で恐縮である。みなさんも、いっしょに考えてみてください! 最後に……左がHSRで、右が普通の輪ゴム。
●いずれも加硫していない状態。よって、輪ゴムは加硫することで、あの伸び縮みする性能を得るわけで、加硫していない状態だと引っ張ると溶けるように切れてしまう。一方でHSRは強く引っ張っても切れようともしない
 

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