2022/08/29 コラム

新たな可搬式(移動式)オービスの写真を発見。日本無線のオービスはどんな見た目?

日本に配備されている移動式(可搬式)オービスの例。左はスウェーデン、センシスの「MSSS」、右は日本の東京航空計器「LSM-300」※警察庁のWebサイトより

「可搬式速度違反自動取締装置」、それが正式な名称だ。私は可搬式オービスと呼ぶ。ネットでは「移動式」と読み替えることが多い。じつは可搬式オービスは非常に困った状況にあるようだ。根拠とか省いて簡単にまとめると…。

1、2013年6月、警察庁は可搬式を全国に配備するべく表立って動き始めた。
2、2014年10~12月、警察庁は埼玉県で、可搬式を含む新型のオービス3種を用いて「施行運用」を実施。このときの可搬式は、スウェーデンを本社とする世界的企業(以下、SGG)の装置だった。従来の日本の固定式オービスに比べて超高性能だった。
3、進展がないまま2016年4~6月、警察庁は埼玉県と岐阜県で、今度は「モデル事業」を実施。このときの可搬式もSGG製だった。
4、直後、警察庁は全国の警察に対し、東京航空計器(TKK。日本の固定式オービスの老舗企業)の可搬式を、「交通指導だより」を通じて宣伝した。測定方法は初めて聞く「スキャンレーザー式」だった。
5、各地の警察がTKK製をぽつぽつ購入し始めた。当時の入札関係書類などからは、TKKへのあからさまなひいきが見てとれた。
6、そしてなんと、TKK製は取り締まりに向かないことが明らかになってきた。

スキャンレーザー式に問題があるのだろうか。超高性能に生まれ変わらせる新部品の登場を警察庁は夢見ているのか。だが夢の新部品は何年たっても現れない。なのに警察庁は退かず、TKKはスキャンレーザー式の新製品を次々に出す。SGG製は超高性能でTKK製より安いのに、購入する警察は少ない。いったいどうするんだ。泥船は沈みますぞ。



などと心配していた2022年7月、まさかの仰天事態が起こった。なんと、SGGでもTKKでもなく日本無線(JRC)の可搬式が、新潟県の入札文書に登場したのである! 日本無線は光電式、レーダー式などネズミ捕り用の測定機を製造販売する、やはり老舗企業だ。私は7月15日付けで「新たな可搬式(移動式)オービスを新潟が落札! TKKでもSGGでもない、日本無線のオービスとは」という記事を書かせてもらった。

さあ、それでだ、JRCの可搬式の写真を私は2021年6月にゲットしていたんだね。当時、大喜びでTwitterに書き、申し訳ない、それきり忘れていた。ボケが進んだ? いやあ、誰も知らない貴重な文書が次々と手に入り、整理が追いつかずあっぷあっぷなのだ、と言い訳しておこう、ほんと申し訳ないです。

写真は、私の長年の愛読誌『月刊交通』(東京法令出版)の2021年6月号に載っていた。表紙以外モノクロ、A5サイズでたった104ページなのに税込み900円というマニア雑誌だ。6月号は6月の終わり頃に届く。

その6月号に、警察庁の官僚氏による「第11次交通安全基本計画等における交通指導取締り」という8ページちょいの記事がある。「ウ 可搬式速度違反自動取締装置の全国的な整備拡充」としてこう書かれている。

「取締り場所の確保が困難な生活道路等や警察官の配置が困難な時間帯においても取締りが行えるよう、可搬式速度違反自動取締装置の全国的な整備、拡充を図っている」

その記事に問題の写真が載っているのだ。TKKとSGGの可搬式に挟まれ、JRCの可搬式がある。横長の筐体の下に、正方形っぽいものが付いている。「前後の速度測定可能な高性能レーダーパトカーが登場…北海道、日本無線の「JMA-401A」を採用」という私の記事に出てくる、パトカーの屋根にあるやつ、あれと酷似している。「検出部」、レーダーアンテナなのだろう。

興味深いのは、今回の3つの写真の下の説明書きだ。右側、SGG(沖電気は代理店)の可搬式には「可搬式速度違反自動取締装置」とある。真ん中、JRCの説明書きは「レーダー式可搬速度測定記録装置」だ。オービスは「取締装置」と呼ばれたり「監視装置」と呼ばれたりする。今回は「記録装置」。うーん、ま、許容範囲かな。

問題は左側、TKKの可搬式だ。「車両速度計測装置」となっている。ん? それって…。私の手元にJRCのネズミ捕り用測定機の文書がたくさんある。どれも「車両走行速度測定装置」となっている。TKKの可搬式は「車両速度計測装置」。「走行」の2文字がないだけ。つまり、TKK製はオービスというよりネズミ捕り用の装置と、遅くとも2021年6月には警察庁もはっきり認識していた?

ところで、新潟県の可搬式の入札に、SGG(沖電気)の名がない。なぜ? 新潟県の入札仕様書を見ると、「現場取り締まり機能」つまりネズミ捕り用としても使えることが条件となっている。そこか? SGGに聞いてみた。入札不参加の理由とは別に、こんな話を聞けた。

「SGGのトラッキングレーダー式測定は、取り締まりのための測定と撮影を終えてからも、違反車両が電波の照射範囲にいるうちは測定とチェックを0.047秒毎にくり返す。それをしない装置に比べて、違反認定が若干だが遅れる。定置式として運用した場合、停止係の警察官が停止棒を持って道路へ飛び出すのが、若干だが遅れる。危険が増す。そういうこともあり、定置式としての運用は好ましくないと考えている」

速度70キロの車両は1秒に19.44メートル、0.5秒で10メートル近く進む。SGGは世界で商売する企業だ。日本で定置式として運用させ、警察官が違反車両にはねられ死亡した、ということになるのを懸念するのか。いやわからないけれども、とにかく可搬式が今後どうなっていくのか、非常に心配であり、マニアとしてはドキドキわくわくする。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を好評発行中。

ドライバーWeb編集部

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