2022/08/24 コラム

ホンダの電動化は、クルマやバイクだけじゃない!カーボンニュートラルへの道筋とは

発電機や耕うん機、芝刈機、除雪機、船外機など、クルマとバイクのほかにも「Honda」はたくさんある。そして、「Honda」の動力源を使用したOEM製品も数多い。そんな身近な生活のなかにある「Honda」をフォーカスする。

「燃費」、「耐久性」、「信頼性」が世界中のユーザーから高い評価

陸・海・空あらゆるシーンで躍動するホンダパワー。ほとんどの人がイメージするホンダ製品はバイク(二輪)とクルマ(四輪)だが、日々の生活や仕事、社会を支える「縁の下の力持ち」として世界中のユーザーに愛されている「Powered by Honda」がパワープロダクツ(以下PPと略す)。

暮らしの身近にあるPP製品としてなじみ深いのが、発電機や除雪機、耕うん機、芝刈機など、土色の田畑や白銀の世界で、ハッと目を引く鮮やかな「ホンダレッド」をまとったPP製品が力強く働いている姿を見ると頼もしく感じる。



ロボット芝刈機「ミーモ」

赤色のイメージが強いPP製品だが、例外もある。船外機はシルバーで塗られているのだ。これはさまざまなボートにマッチしやすい色であるのと同時に、船外機は洋上で強烈な直射日光や潮風にさらされるために、耐候性と耐久性を考慮した色に施されている。

硬い土を掘り起こしたり、積雪を砕いて吹き飛ばしたり、推進力を生み出したり、電気を作ったりするPP製品の動力源になるのがエンジン(内燃機)やモーター。これらのパワーユニットを搭載したPP製品を「完成機」と呼ぶのに対し、PPのコア事業になっているのが「汎用エンジン」だ。

汎用エンジンとは読んで字のごとく「幅広く使えるエンジン」のことで、1953(昭和28)年にホンダ初の汎用エンジン、H型を発売したところからPP事業がスタートしている。

昨今、四輪と二輪は脱炭素、電動化、コネクティッド、シェアリングがキーワードになっているが、PP製品とて例外ではない。パワーユニットを含めたハードとソフト両面で大きく変わろうとしている「100年に一度の変革期」にどう挑むのか。 二輪・パワープロダクツ事業本部 パワープロダクツ事業統括部のトップを務める加藤 稔氏にうかがった。


●本田技研工業株式会社 執行職 二輪・パワープロダクツ事業本部 パワープロダクツ事業統括部 統括部長 加藤稔氏。1988年入社。狭山工場生産管理課、国内二輪営業部を経て、2001年にタイ、05年インドネシアに駐在。07年ホンダ・モーターサイクルジャパン、10年本社二輪事業企画室、11年ホンダモーターヨーロッパ(イギリス)、14年にホンダベトナムの拠点長、17年にインドの二輪生産販売拠点の責任者を務め、20年より現職

長らく二輪畑を歩んできた加藤氏にとっては“畑違い”となるPP事業。「二輪とPPという、歴史も文化も異なる事業本部が合体するのはかなりチャレンジングなことなんです」と口を開いた加藤氏。二輪もPPも電動化、カーボンニュートラルを目指すなか、排気量帯が近い商品もあることからオールホンダで英知を結集して電動化を推進するのが狙いだ。「あらゆる領域のオペレーションを一体化して、新しい価値をホンダらしい発想で提供できるようなモノづくりを目指します」と、加藤氏はシナジー効果に期待を寄せる。

PP事業の柱である汎用エンジンは建設機械や産業機械、農機具などの完成機メーカーにOEM供給され、さまざまな業務用作業機の動力源に使われている。ホンダの汎用エンジンを搭載したモデルを「より低燃費で低排出ガス、メンテナンス性に優れたフラッグシップ機種」と位置付け、セールスポイントにする完成機メーカーもある。汎用エンジンの世界において「Powered by Honda」は優れた信頼性と耐久性、燃費のよさを武器にして圧倒的なシェアを築いている。

「賢く」、「きれいに」作業する電動化ソリューションを提供

ホンダ汎用エンジンの現状について、加藤氏は「排気量25㏄から800㏄までさまざまなエンジンを中国、アメリカ、タイ、フランスなどで年間約600万台造っていて、全体の7割にあたる約400万台を1000社以上にOEM供給しています」と力を込める。

ヨーロッパの小型建機市場においてホンダ汎用エンジンのシェアは高いが、日本以上に欧米での電動化の流れは速い。

「アメリカのカリフォルニア州ではエミッションゼロへの取り組みとして、2024年から芝刈機や高圧洗浄機などの小型のポータブルエンジン機器内燃機関の販売が禁止されます(建機や農機、発電機などには猶予期間が設けられる)。そうした背景もあり、すでに欧州で販売を開始している電動製品などを先行してアメリカに本格導入する準備を進めています」と、加藤氏は待ったなしの電動化に危機感を示す。

ホンダは2050年にすべての製品と企業活動を通じてカーボンニュートラルを目指すと宣言している。

「二輪はB to Bの分野からバッテリーをシェアする電動二輪車と電動三輪スクーターの導入を進めています。その動力源となるのがMPP(モバイルパワーパック)です」。

着脱式可搬バッテリー「ホンダ モバイルパワーパックe:」

●ホンダは2050年にすべての製品と企業活動を通じてカーボンニュートラルを目指している。実現の切り札となるのが、持ち運びできる電力。電力を着脱式可搬バッテリーに“小分け”して、暮らしのなかでいつでもどこでも便利に使えるようにしたのがモバイルパワーパックe:

電動三輪スクーター「ジャイロキャノピーe:」

●電動三輪スクーターのジャイロキャノピーe:など小型モビリティを含めたさまざまな電動機器の動力源となる1.3kWh以上の大容量リチウム電池で、内蔵制御ユニットに記録したデータをバッテリーシェアリング運用や二次利用などに活用できる

PP領域では既存の汎用エンジン、GXシリーズとフランジ取り付け穴やシャフトの寸法を同一にして互換性を持たせた電動パワーユニット「eGX」の供給を開始しているが、建設機械メーカーのコマツと共同でMPPをエネルギー源、eGXを動力源とする電動マイクロショベル、PC01Eを開発し、小型建機の電動化を提案した。

電動パワーユニット「eGX」

●圧倒的な耐久性と信頼性、低燃費で各種作業機械用動力源の世界標準になっているGXシリーズ。そのノウハウが注がれた電動パワーユニットがeGX。2019年にプロトタイプが公開され、21年から日本を皮切りに欧米への供給を開始。発電機開発で培った巻線技術を生かした高効率・高出力の三相ブラシレスDCモーターを採用。GXシリーズとの相互互換性を考慮し、フランジ取り付け穴とシャフト寸法をGX(R)100/120と同一化した

コマツマイクロショベル「PC01E-1」


●ホンダの汎用エンジン、GXシリーズは小型の建設機械にも搭載され活躍している。そのひとつ、軽トラックに搭載可能なコマツのPC01-1マイクロショベルを電動化したのが、コマツとホンダが共同開発したPC01E-1

エネルギー源は着脱式可搬バッテリーのモバイルパワーパックで、電動パワーユニットのeGXが動力源。騒音・廃熱を大幅に低減でき、エンジンで必要なメンテナンスや燃料補給が不要になるなど、建機を電動化するメリットは多い。

「一気にすべての商品を電動に置き換えるのは不可能ですが、まずは電動化に対応した商品を用意して現場で試験的に使ってもらい『お客様と一緒に進化させていく』というスタンスで取り組みます。すでに多くの問い合わせが来ています」と、加藤氏は電動化の第一歩に手応えを感じている。

排ガスにオイルが混ざる2ストロークエンジン主流の時代に、他社に先駆けクリーンな4ストロークエンジンを船外機に採用。創業者の本田宗一郎氏が説いた「水上を走るもの、水を汚すべからず」の信念は電動化時代にも受け継がれている。

「昨年、浜名湖畔にある細江船外機工場の開設20周年とホンダ船外機が世界累計生産台数200万台達成を記念したイベントで、小型電動推進機のコンセプトモデルをお披露目しました。問い合わせがとても多く寄せられており、近い将来の製品化を目指して開発を進めています」

電動推進機コンセプトモデル(搭載例)

●創業者、本田宗一郎氏の「水上を走るもの、水を汚すべからず」という信念のもと、2ストロークが主流だった1960年代に環境負荷の低い4ストローク船外機を投入したホンダ。2050年のカーボンニュートラル実現に向けたコンセプトモデルが小型電動推進機。低騒音、低振動、発進時からの高トルクといった特徴を備え、モバイルパワーパックをエネルギー源にしている

ところで、ホンダのGXエンジンが全世界で高く評価される理由について、加藤氏はOEM先のオーダーに合わせて細かくチューニングを行っていることも大きいと語る。

「エンジン単体での耐久性や信頼性、燃費はもちろん重要ですが、完成機 側とのマッチングがキモになります。型式こそ同じGXエンジンでもOEM先によって少しずつ仕様が違って、OEM完成機の性能が最大・最適になるようにアプリケーションエンジニアがセッティングを施しています。OEM供給先にホンダのエンジンを選んでもらうための、いわば『技術営業活動』のです」

長年の汎用エンジン供給で培ってきた、搭載機器へのマッチング技術は将来の電動化時代にも生かされる。

「モーターは部品点数が少なく、オイルも要らないのでメンテナンスが楽な半面、完成機としての性能を最大限に引き出すための、モーターやバッテリーの最適な制御技術が腕の見せどころになると考えています」

電動パワーユニットは自動化や知能化との相性も抜群だ。加藤氏は「労働人口の減少や自然災害の増加といった社会に共通する課題解決の一助になるようなソリューションを提供していきたい」と締めくくった。

リチウムイオンバッテリー「DP3660XA」

電動ブロワ「HHB36AXB」

歩行型電動芝刈機「HRG466XB」

電動刈払機「HHT36AXB」

●使い勝手のよさで、個人ユースから業務用まで幅広く使われる歩行型芝刈機、刈払機、ブロワを電動化。この3モデルに共通のリチウムイオンバッテリーを採用することで、作業機間でのバッテリーの共用が可能となり、さまざまな作業を要する公園などの緑地管理における利便性を高めている。電動化の利点は、モーター駆動で作業の低騒音・低振動化が図られ、作業者の負担が軽減されること。メンテナンスも楽で、稼働中の排出ガスもゼロになる

〈文=湯目由明 写真=茂田羽生 photo by Hao Moda/本田技研工業株式会社〉

ドライバーWeb編集部

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