2022/08/23 コラム

意外に多い「あおり運転から逃げたらオービスに!」との主張…裁判官はどう退ける?

東京航空計器のループコイル式オービス

「後続車が急接近してきた。追突しそうなほど車間をつめ、左右に蛇行したりパッシングしたり。隣の車線はクルマがつらなっていて逃れられない。怖くてついアクセルを踏んでしまった。直後、オービスの赤いフラッシュが光った。出したくて出したスピードじゃない!」

首都高速における速度違反の刑事裁判で、被告人と弁護人がそのように主張するのを私は傍聴席からさんざん見てきた。

いわゆる飛ばし屋はオービスの設置場所を熟知している。一般車両に恐怖の“あおり運転”を仕掛け、オービスの餌食にさせて楽しむ、仲間たちと“撃墜数”を競う、そんな連中がどうもいるようだ。以前、それらしきネット投稿を私は見たことがある。

なぜスピードを出したかをオービスはまったく気にしない。そもそもオービスは、通過車両の速度を自動的に測定し、設定速度を超えていたら自動的に撮影する、それだけの機械なのだ。

警察は、写真に写ったナンバーから違反車両の持ち主をつきとめ、違反者を出頭させる。違反者は「恐怖の暴走車にあおられ…」と説明する。しかし警察官は聞き流し、淡々と違反切符を切る、それが普通だ。たいていの運転者は、切符を切られる前はあれこれ文句を言うけれども、切られたらあきらめ、泣き寝入りする。警察官はよく承知だろう。

その先どうなるか。細かなところは省略し、「恐怖の暴走車におあられ…」という主張がどう扱われるか、という点についてだけ述べよう。

違反者の説明によっぽど信憑性があり、かつ超過速度があんまり高くなく、特段の違反歴もなければ、検察官が不起訴とすることはある。「あおり運転のせいにしてゴネたらチャラになったよ」とかSNSに書かれては困る。そのへんも検察官は考慮するだろう。

検察官が不起訴とせず、公判請求(正式な裁判への起訴)をしたらどうなるか。そうなったらもうアウトだ。必ず有罪、相場どおりの刑を言い渡される。「恐怖の暴走車にあおられ…」という主張を退ける理由は2段仕立て。1段目はこうだ。

裁判官「本件オービスが被告人車両の次に撮影した違反車両は×時間後であった。また、本件オービスの写真では、運転席の被告人に恐怖の表情等は見受けられない。よって、そのような後続車があったという被告人の供述は信用できない」

撃墜数を競う連中は当然、オービスの手前で自分は減速する。恐怖のあおりをされたら普通は表情が固まる。「そんなことも分からないのか。裁判官はバカか!」という考えはしかし間違っていると私は思う。

事件数で1万件近く裁判傍聴をしてきた私からすれば、こういう事件は、裁判が始まった時点で、判決は相場どおりの刑と決まっているのである。けど「決まりなので」とは言えない。有罪の理由をとりあえずあれこれ拾う、裁判とはそういうものなのだ。裁判官はけしてバカではない。

2段仕立ての2段目はこうだ。

裁判官「被告人が言うような後続車が仮にあったとしても(静かな法廷で冷静に考えれば)速度を上げる以外に取り得る方法はあった。速度違反は重大事故に結びつきやすく危険な行為である」

2段仕立てでしっかり有罪とされる裁判を、私はもう飽きるほど傍聴してきた。あおって撃墜数を競う連中が傍聴席にいたら「裁判官、ごくろうさん、グッジョブ」と笑うんだろうか。

とにかくね、あおりの連中&警察・検察・裁判官の“チーム”に対向するには、後方も撮影するドライブレコーダーが必須だ。ドラレコの録画が被告人側の証拠になる交通違反裁判を、私は傍聴したことがない。そういうのはすべて検察官が不起訴で終わらせているのだろう。

ドラレコは裁判の証拠になるのかって? んもぉ、なに言ってんですか。交通事故の裁判では、検察側の証拠としてドラレコ録画が当たり前にばんばん出てきてますよ。ぐずぐずしないでドラレコ、つけましょう!
※私はドラレコ会社さんから1円ももらってないです。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を好評発行中。

ドライバーWeb編集部

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