2022/08/23 コラム

「パーキングメーターは60分までなら未納でもセーフ、パーキングチケットは即アウト!」は本当か

左がパーキングメーター、右がパーキングチケット

2022年7月30日、芸人のじゅんいちダビッドソン(以下、じゅんいち)氏がこうツイートした。

「パーキングチケット買ってないならわかるけど、ちゃんと買ってうっかり10分ほど超過して即駐禁貼る!? 1万5000くらいやろ、もうハイエナやん!」(https://twitter.com/JUNICH_DAVIDSON/status/1553244489388793857
貼られた黄色いステッカー(確認標章)とパーキングチケットの画像がついている。



翌31日にはスポニチが「じゅんいちダビッドソン 「もうハイエナやん!」パーキングチケットでの即駐禁への不満に賛否の声」と記事にしている。https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2022/07/31/kiji/20220731s00041000452000c.html

芸能人が交通取り締まりに対し正直な不満を述べると、「違反は違反だ」「違反しなきゃいいんだ」「違反して文句を言うとはけしからん」とか“正義のお叱り”が普通はどどっと寄せらる。本件もそんなことになったんだろうか。

だいぶ遅れてしまったが、以下の3点について私のほうで少しコメントしよう。

(1)駐車取り締まりは悪質性に関係ない
(2)「反則金」の手続きにしたら大損!
(3)パーキングメーターは60分までセーフ、パーキングチケットは即アウト?

(1)駐車取り締まりは悪質性に関係ない

昔の駐車取り締まりは、
・ミニパトの警察官が違反車両のタイヤと路面にチョークで印をつけ
・15分か20分かその辺をひとまわりしてから戻り
・チョークの印がそのままなら取り締まる
というスタイルが主流だった。少し待って、それなりに悪質なものを取り締まっていたのだ。

ところが2006年6月1日、駐車取り締まりの民間委託と放置違反金制度がスタートしてがらっと変わった。チョークはもう使わず、違反と見たら直ちに取り締まりを開始するようになった。

新登場の放置違反金は、反則金や罰金と違い、取り締まりを行った都道府県の収入になる。地方への補助金が減るなか、放置違反金は地方に与える「財源」と位置づけられた。実際そのように報道され、財政難に苦しむ地方にとって放置違反金は「天恵」(てんけい。天の恵み)だと喜ぶ報道もあった。

つまり、駐車取り締まりは2006年6月1日以降、個々の悪質性がどうこうは関係のない、地方の収益事業になったのである。そもそもパーキングチケットなど買わずに駐車し続けるのと、ちゃんとパーキングチケットを買ったけれども少し時間を超過したのと、悪質性は違うが、そんなことは一切気にしないのである。

(2)「反則金」の手続きにしたら大損!

じゅんいち氏の“追いTweet”にこんな部分がある。「違うの違反は違反わかってます、当然反則金もすぐ払う、以後気をつけなとも思ってる、その上で言うてるの」。悪質性はどうであれ違反は違反、ペナルティは払う、でもちょっと文句を言いたい、そういう方は多いようだ。新聞の投書欄でも見かける。

ただ、じゅんいち氏よ、「反則金」を払ったら、というか反則金がどうこういう手続きへ進んだら大損ですぞ! 理由は「駐車違反で出頭したら明らかに損!なのに…富山の巡査が家族を身代わりに出頭させた、なぜ?」(https://driver-web.jp/articles/detail/39630)という記事で詳しく説明した。

さらに言うとだ、違反切符を切られてもちゃんと不服を主張すれば、検察官がさくっと不起訴にするだろう。不起訴は違反者の勝利だ。ところがびっくり、不起訴でも放置違反金(反則金と同額)は徴収される! それは合法、オッケーという判例がとっくにある。法律上、不起訴は放置違反金を徴収しない理由にならないのだ。

悪質性は関係なし。黄色いステッカー(確認標章)を貼られたらアウト。駐車取り締まりとはそういうものなのである。そういう法律を、選挙で選ばれた国会議員たちがつくったのである。

(3)パーキングメーターは60分までセーフ、パーキングチケットは即アウト?

パーキングメーターは、300円なら300円の料金をメーターに投入しなくても、60分までセーフって話を聞いたことがあるでしょ。駐車監視員の資格を取るときのテキスト『駐車監視員資格者必携』(東京法令出版)にはっきりこう書かれている。

「パーキング・メーターを直ちに作動させない違反については、放置車両の確認の対象となる違反に含まれておらず、駐車監視員がこれに確認標章を取り付けることはできません」

駐車監視員は、パーキングメーターの料金未納違反を取り締まれないのだ。ただし、警察官は取り締まれる。また、料金未納のまま60分なら60分を過ぎれば、時間超過の違反として駐車監視員も取り締まれる。

パーキングチケットについては「60分までセーフ」はない。枠内に駐車したら「チケット発給設備によりパーキング・チケットの発給を直ちに受け」なければならない。駐車後、「小銭がなくて付近のコンビニへちょっと…」なんていうのは不発給の違反になる。警察官も駐車監視員も取り締まれる。

個々の駐車の悪質性は考慮しないとか、不起訴でも放置違反金を徴収するとか、そういう理不尽がある一方で、パーキングメーターは「60分までセーフ」という、悪質な運転者を喜ばせる理不尽”がある。そのへんでバランスをとりつつ、人の社会は転がっていくのかなと、達観を気取ってみたりして(笑)。

文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を好評発行中。

ドライバーWeb編集部

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