2022/07/28 コラム

自然と野生動物の神々しいまでの美しさにあらためて感動撮 「三好秀昌のニッポン探訪・取材ウラ話 第30回〜エゾシカ」

ドライバー2020年3月号からスタートした「(じつは)動物カメラマン 三好秀昌の『ニッポン探訪』」。これまで日本全国をSUVで駆けまわり、かわいい(恐ろしい!?)動物や最高の絶景を撮影してきました。そして、連載30回目の節目となる今回、最終回を迎えます。フィナーレは北海道で撮影にチャレンジした『エゾシカ』。撮影テクニックやクルマのインプレッション、その地域のグルメやお土産情報など、取材のウラ話を最後までお楽しみください!

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シカ注意の標識をシカトすると痛い目に遭う!

シカは日本全国、あらゆるところで生息している。人間が遭遇しやすい野生動物のひとつだ。奈良公園のシカもまわりに柵があるわけじゃないから、ある意味、野生なのかな? 
何にしても、人が関わることの多い動物だろう。

北海道のエゾシカは、冬場の餌がないときには昼間から堂々と市街地にやってきて、除雪されたところで草を食べている。野生の勘と知恵はなかなか侮れない。だが、これだけ町にやってくる機会が増えれば、人間とのトラブルも増えていく。

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見かけるだけならいいのだが、クルマで走行中、出合い頭に遭遇するとかなり危険で厄介だ。思いのほかデカく体重もあるので、ブツかればクルマは大ダメージを受ける。運が悪ければ自走できなくなってしまう。

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●かなりリアルな絵の標識だが大間違いで、実際に大人のシカには斑点はない

シカのマークの注意標識を見かけたら、シカが飛び出してくる可能性が高いことを肝に銘じ、スピードを少し抑えて走るほうがいい。クマの注意標識で実際にクマを見ることはまずないが、シカの標識ではかなりの確率で彼らと遭遇する。

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とはいえ、シカの子供はかわいい。斑点があって「バンビ(イタリア語で子供を意味する“バンビーノ”の省略形)」なんて愛称で呼ばれる。
そして、野生動物だけに、美しい背景のなかで出会えればすばらしい感動をわれわれに与えてくれる。

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●冬の厳しい自然のなかでの凛としたたたずまいは神々しささえ感じる


野生動物のオールスターキャストを楽しめる道東

北海道のなかでも帯広を中心とした道東はオイラの大好きな場所だ。
道東という表現のエリアは釧路から知床まで入るそうで、生き物から食べ物まで魅力にあふれている。

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大雪山系に抱かれたエリアでは景色の美しさもさることながら、多くの野生動物が生息している。

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街の公園に住むモモンガ、エゾリスは人々の目を楽しませ、キタキツネやエゾタヌキが郊外を闊歩(かっぽ)している。

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夜になればエゾフクロウも飛び、林道を分け入れば招かれざるヒグマ(!)もたまに登場する。


ラリーに鉄道にグルメ。帯広には大好きなものがいっぱい!

そして帯広と言えば、何と言っても日本で初開催されたWRC(世界ラリー選手権)を受け入れてくれたホストタウンだ。

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すっかり影が薄くなってしまったが(笑)、オイラのルーツはラリードライバーだから帯広は多くのラリーの思い出とともにもあるのだ。

WRCのルートだった街のひとつに新得(しんとく)がある。そばで有名な場所だが、鉄道ファンにとっては独特の響きを持つ。今は新線に切り替わってしまったが、JR根室本線の狩勝(かりかち)峠は、九州の矢岳(やたけ)越え、長野の姥捨(おばすて)駅とともに日本三大車窓と言われていた所なのである。

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その旧線の雄大な築堤やトンネル、信号所の跡地はまだ残っている。もうずいぶん前のことだが、一部はクルマでたどることができた。

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ヒグマが多く生息しているエリアだから歩いて入る気はしない。しかし、クルマでも無謀だったようだ。インプレッサが泥だらけになってオーナーにスゲー怒られた(泣)。

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国道からも築堤の痕跡はわずかに見え、かつて車窓から見えた雄大な景色を想像すると楽しい。峠の新得側には新内(にいない)駅跡地と旧線の一部を使用した旧狩勝線ミュージアムがあり、蒸気機関車と今や貴重な遺産となりつつある元祖ブルートレイン、20系寝台客車が展示されている。

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やや寂れた感がある所だが、それがまたひとつの趣で、オイラは好きな場所である。

内陸の帯広だが沿岸の町から新鮮な海産物が届き、ここにいながらにして海の幸を満喫できる。

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それだけでなく、以前に紹介したインデアンカレーや豚丼、焼き肉やジンギスカンとおいしい物があふれている街なのだ。

最後に帯広三菱自動車販売を紹介しておきたい。

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WRCジャパンのとき、また道東での動物撮影のときに試乗車を貸していただき、社長をはじめスタッフの方には大変お世話になった。
ここを訪れるたびに、WRC日本初開催のときの帯広駅前の熱狂を思い出す。


アサンテ・サーナ!

さて、SUVで野生動物を探す旅も今回でひとまず終了です。
この連載を始めたときには、日本にこれほどいろいろな動物が住んでいるとは思ってもいなかった。

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それが、小さい動物から大きな猛禽(もうきん)類、絶滅危惧種や天然記念物まで次から次へと運よく撮影できた。まだまだ日本には撮影できていない大物や珍獣がおり、個人的にはそれらを追っかけ、これからも野に山に分け入る予定だ。
これまで本誌およびウェブでオイラの連載を読んでくれた皆さんに感謝したい。

「アサンテ・サーナ(ありがとうございます)!」

なぜかスワヒリ語です(笑)。

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そして、本誌2022年10月号(8月20日発売)と次回のウェブでは装いも新たに、まったく違うジャンルでのクルマ話が始まりますので、そちらもよろしくお願いします。


もっと自由に写真を楽しもう

この企画が始まる少し前からカメラを一眼レフからミラーレスに変更した。
このころ、キレキレのスペックだったソニーαシリーズが愛機となった。

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小型軽量で驚くような高性能さが決め手となった。αミラーレスカメラは覚えきれないほどの機能が満載された高性能のカメラで、今もそれは変わらない。

ただ、ニコンやキヤノンのように使い勝手がいいのかというとそうとも言えず、エンジニア優先で盛り込んだような機能が少し使いづらい面もあった。ここ最近のバージョンアップで、使いづらさの半分ぐらいは解消されてきたように感じられる。

あとは耐久性や堅ろうさを追求してもらえると、ハードな自然フィールドでもさらに安心して撮影できるようになるだろう。

高性能なのは間違いなく、それが売りなので、そこと使いやすさのシンクロにはもうひと頑張りを期待している。

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とはいえ、最先端のカメラだからこそ撮れたシーンもあり、いいタイミングでα9やα1を投入できたと思っている。

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これは本誌2022年9月号でのメインカットである。
掲載するにあたってトリミングして、自分の意図とする写真の見え方にした。

ときどきノートリミングにこだわる人がいるが、かつてはプリントされた写真はすべて四方がわずかにトリミングされていた事実を知らない人が増えたのだろう。これは暗室作業で現像をしてプリントしたことのある人だとすぐに理解できる。

四隅ギリギリまですべての描写を出したくて、ネガキャリアをやすりで削って、真のノートリミングを目指した人も少なからずいるはずだ。写真に対する考え方は人それぞれだが、なにかノートリミングこそが偉いという考えにすごく違和感を覚えるので記してみた。

主体をどのように自分が意図する見せ方にするかは、デジタルの時代なら自由自在。

だからこそ、そのままのノートリミングと言いたくなるのもわかるが、明るさやコントラストを調整(これはかつて暗室で苦労していた作業だ)して、トリミングをどのようにするか、またはしないかを決めて写真を仕上げる作業過程こそが撮影後の楽しみのはず。

どこまでデジタルで変化させるかは自由だし、それはその人の裁量や感性で決めればいい。
ただ、写っている題材次第で限度はあるとは思うけど。

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これは横位置写真を縦にトリミングしてみた。その意図は背景の氷の結晶の光り方をより際立たせたいから、アップ気味に、そして動物をあまり切り取りたくないから縦を選択したのだ。

それよりも、写真をアップにする人には空に映り込んだゴミなどにもう少し気を遣い、取り除いてほしいとは思う。

レンズ交換式のデジタルカメラは受光部にゴミが簡単に付着する。それが背景だとボヤっと異物として写真に映り込んでしまう。カメラのメンテナンスも大事だし、デジタルなら簡単に消すことができる。

オイラが大学で写真を学んだとき、最初に提出したプリントに写り込んだゴミを先生に厳しく注意された。「人に見せる写真にゴミとは失礼でしょう」と。

あれから40年経つが今でも頭の片隅にこの言葉が残っている。

というわけで、「デジタルになって写真は表現の幅が広がったのだから、ノートリだとか堅苦しいことを言わずに楽しみましょう。だけどゴミは消してね」というのがオイラの持論です。


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「オススメのSUV……三菱 エクリプス クロス」
■P 主要諸元
(―/4WD)
全長×全幅×全高:4545mm×1805mm×1685mm
ホイールベース:2670mm
最低地上高:185mm
車両重量:1920kg
最小回転半径:5.4m
エンジン種類:直4DOHC
エンジン総排気量:2359cc
エンジン最高出力:94kW(128ps)/4500 rpm
エンジン最大トルク:199Nm(20.3kgm)/4500rpm
モーター種類:交流同期電動機
モーター最高出力:前60kW(82ps)/後70kW(95ps)
モーター最大トルク:前137Nm(14.0kgm)/後195Nm(19.9kgm)
燃料/タンク容量:レギュラー/43L
WLTCモード燃費:16.4km/L
タイヤサイズ:225/55R18
価格:451万円

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EV走行の静粛さが生み出した小さな奇跡

野山に分け入るのに最適なPHEVと4WDの組み合わせが魅力のクルマ。これだけでこのクルマのすべてを説明できていると思うのだが、少し補足していこう。

今まで三菱ではPHEV&4WDというとアウトランダーをイメージしたが、やや大きいサイズを気にして二の足を踏んでいた人もいるはず。そんな人はエクリプス クロスのこじんまりしたサイズ感に満足できると思う。

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SUVとしては小ぶりな1805mmの全幅により、住宅地や狭い林道でも使い勝手がとてもいい。その分、室内はやや狭くなり、リヤシートを畳んでの車中泊ではフルフラットにもなるアウトランダーに軍配が上がる。ただ、このあたりはクルマの性格の違いに起因するところもある。

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とはいえ、自分の手に余らない手ごろなサイズ感は重要で、このクルマの強みでもある。
背の高いSUVは運転席からの左右の死角が増えるが、エクリプス クロスはドアミラー越しの左右の視界は悪くない。

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PHEVのパワー感はトルクフルで、加速も軽快で気持ちがいい。発電のためのエンジン音はするが、100%モーターで走行しているので低速からトルクが充実しているのだ。

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エンジンで発電し電気で走るが、その電気(AC100V・AC1500W)で電化製品を使うこともできる。炊飯器でご飯を炊いて、電熱器でおかずを作り、お湯を沸かしてコーヒーをいれるという一連のアウトドアクッキングも難なくこなすのである。

走りに関しては、どこを目指したのだろう(笑)と思ってしまうほどスポーティな一面を持っている。ミニサーキットで全開走行をすると、リヤタイヤを滑らしながら、4WD独特のカウンターステアをほとんど当てずに旋回していけるコーナリング性能を秘めているのだ。

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ここまでの走りを求める必要があるのかと思ったのだが、雪道などの滑りやすい路面でも誰もが安心して安全に走れる性能の高さへとつながっているのだ。このあたりは4WD制御の肝になるS-AWDの性能の優秀さにも起因している。ハンドリングもしなやかだし乗り心地もいい。

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このようにドライバーズカーとして優れているが、移動のときに便利なACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)やレーンキープアシストといった先進運転支援機能はもう少し頑張ってほしい面も見受けられた。それは前走車追従時の減速、レーンキープでのステアリングアシストのギクシャク感など制御の円熟度がまだもの足りないのだ。

そして、悪路やオフロード走行のイメージを持つエクリプス クロスなのにスペアタイヤがない。オプションでいいので設定してほしいところだ。

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何はともあれ、エクリプス クロスで出かけた夜の林道の道端でヨタカの鳴き声を聞いた。残念ながら姿を発見することはできなかったが、このクルマならではのEV走行の静粛さがもたらした小さな奇跡だ。

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こういう出会いを引き寄せるクルマで野山に行こう!!


〈文と写真〉
三好秀昌 Hideaki Miyoshi
●東京都生まれ、日本大学芸術学部写真学科卒業。八重洲出版のカメラマンだったが、ラリーで頭角を現し、そのうち試乗記なども執筆することに。1995年、96年にはサファリラリー グループNで2年連続優勝。そのほか、国内外で数多くのラリーに参戦。写真家としては、ケニアでの豹の撮影など、動物をおもな題材としている
YouTube「Maddogチャンネル」


ドライバーWeb編集部

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