2022/07/04 コラム

電気自動車(BEV)への不満は、バッテリーを大容量化しても解決しない

実際の解決策は、充電速度を上げること?

この仕事にもいわゆる電動化の波はひたひたと押し寄せてきていて、最近では国内だけでも日産のアリアにサクラ、トヨタbZ4X&スバル ソルテラと多くのモデルに乗る機会がありました。これらについてのアウトプットに対する反応で感じたのは、いまだに「そんな航続距離じゃ足りない」という声が多いということでした。

例えばサクラはバッテリー容量20kWhで一充電走行距離は180km(WLTCモード)。それに対して少ない、もっと容量がないと不安で乗れないというわけですが、そろそろBEVの使い方については認識を改めていいころかなと私は思っています。

大容量バッテリーで航続距離500kmを実現していれば、まず不足ナシと思うかもしれませんが、そんなクルマも600km先に行こうとした場合には当然、途中で充電が必要です。このとき、急速充電器の速度が遅いタイプだったら、30分の充電では30kmぶんしか充電できないかもしれません。その場合にはあと3回、計90分の充電が必要に。いや、あまり急速充電を繰り返しているとバッテリーの温度が上がって充電速度が遅くなるので、実際にはもっと…。

ではその解決策は、バッテリー容量を増やして航続距離を700kmに伸ばすことでしょうか? でも800km先まで行くときには、それじゃ足りません。そう、この話はキリがないんですよね。

実際の解決策は、まず充電速度を上げることでしょう。実際、CHAdeMOは従来の出力50kWから150kWまで規格を拡大して、超・高速充電器への対応を図っています。設置・運営コストなどの問題はありますが、ひとつの方向とは言えます。ポルシェの専用急速充電器、ターボチャージャーは10分で100km走行分の充電が可能ですから、これなら確かにツカエそうという感じです。

クルマの側も、そこに焦点を当ててきています。サクラはバッテリー冷却機能を持っていて、急速充電を効率よく行えるようにしています。リーフのバッテリーが空冷式で、熱によって充電速度が低下してしまった教訓ですね。

いずれにせよ、気にするべきはバッテリー容量だけではないのです。さらに言えば、もし自宅に充電器が設置できず長距離移動が多いという方は、今はまだBEVに無理して乗らなくていいんです。だからって否定するのではなく適材適所、使い方に応じてBEVやハイブリッド、PHEVにディーゼルなどからそれぞれが乗るのにふさわしいものを選ぶ。それが今の時代のクルマ選びでは?

エラそうなことを言いましたが、bZ4X&ソルテラのメディア向け試乗会では、コースが長距離だったこともあり、充電には難儀しました。充電中に正確な航続可能距離が表示されないおかげで「もう十分だろう」と思って走り出したら、まだ充電量が足りなくて再度充電するハメになり、それでも足りずにゴール時の残り航続可能距離「5km」と出ていたという…。

じつはbZ4X&ソルテラって、ふだんも残り充電量のパーセント表示はできず、確認できるのは残り航続距離だけなんです。BEVは特に走らせ方やエアコンの使用状況などに電費が左右されがちですし、とりわけ今、BEVに乗ろうという人は、そういうもろもろを計算したり自分で考えて工夫したりしたいんだと思うんですよね。残り5kmしか走らないと表示されたとき、バッテリーはあと何%残っているのか。エアコンを切れば何%増えるのか、知りたいと思うんですよ。

要するにBEVはやっぱりまだ、使う側のわれわれも作る側のメーカーも、わかっていないこと、手探りなこと、新たな発見がいっぱいあるわけです。簡単にダメ出ししたりせず、この時代に生まれた者の義務そして喜びとして皆で育てていく感覚でつき合っていくのがいいのではないでしょうか。いつか自分にとってしっくりくるものになったと感じたら、そのときが乗るべきタイミングだってことですよね、きっと。

〈文=島下泰久〉

※初出:「driver」2022年8月号

ドライバーWeb編集部

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