2022/06/04 コラム

2022年はスポーツカーの大きな転換期? 厳しくなる騒音規制…EVシフトとの関係性

マツダ ロードスターも今後の電動化が避けられない状況に

NA(自然吸気)スポーツカーの存続が危うい。そんな話を最近、よく聞くようになった。自動車メーカーのスポーツカー開発関係者の多くが「騒音規制の影響がかなり大きい」と漏らす。

この騒音規制とは、いったいどんなことなのか?

日本での新車に関する騒音規制が始まったのは、今(2022年)から70年前の1952年。時速35kmでの定常走行で音量を規制したのが始まりだ。その後、90年代末から2000年代初頭にかけて、定常走行の試験基準の見直しが行われた。

また、アクセルを大きく踏み込んでエンジン回転数が上がる際の騒音規制として、加速走行規制が1971年から始まっている。この加速走行騒音規制も、80年代から2000年代にかけて試験法が変わり、規制内容が段階的に厳しくなっていった。

こうした日本での騒音規制は日本固有のモノであるべきではない。80年代以降、日本車の世界各国への輸出台数が増加し、また海外現地での新車製造への転換も進んだからだ。これは日系メーカーのみならず、世界の自動車メーカー各社にとって同じこと。
 
そんな状況下で、騒音規制だけではなく、自動車の技術性能全般について、国や地域が全体論を議論し、世界共通の規制・基準を作るべきだという声が高まった。さらに、交通に関する法律についても国際的な協議が必要との認識も高まった。

そうした議論の場として、国連欧州経済委員会を舞台として、様々なワーキング(小委員会のような位置付け)での活動が活発になっていく。

このワーキングの中で、WP29がある。日本語での正式名称は、自動車基準調和世界フォーラムという。開催場所は、国連関連機関が数多く所在している、スイスのジュネーブであることが多い。

日本からは、国土交通省や同省が所管する研究機関などが参加しており、筆者はそうした関係者と、定期的に意見交換しているが、WP29での日本の存在感はとても大きいと感じている。

特に、最近では自動運転や、先進運転支援システム(ADAS)について、日本が会議の議長を務めるなど、国際社会に向けた日本の発言力は大きく、協議の参加国との調整役として日本に対する国際社会での評価は高い。

話を騒音規制に戻そう。こうしたWP29で日本を含めた議論の末、国際基準「R51-03」が規定された。2016年からフェーズ1(第一段階)として始めて、2020年からフェーズ2(第二段階)、2022年からはさらに厳しいフェーズ3(第三段階)と進んでいる。

このR51-03は、マフラーを介しての排気音や、タイヤを介しての走行音などについて、許容限度目標値という音量を、dB(デジベル)を使って示している。

具体的なdB値は、クルマのカテゴリーによって違う。

そのカテゴリーは、M1、M2,M3、N1、N2、N3の合計6つ。このうち、小型乗用車はM1に属し、エンジン出力と車両重量の関係から4つのdB値が規定されている。フェーズ3における、M1カテゴリーでの最大値は72dBだ。フェーズ3以降の今後については、これからWP29での議論が進むことになるが、当然ながら規制はさらに厳しくなるだろう。

そうなると、エンジン回転数を抑えて、低回転域でのトルクを重視する、電動モーターによるアシストを行うハイブリッド車やプラグインハイブリッド車が必然となり、また完全なEV(電気自動車)へのシフトが必要不可欠、ということになる。

欧州では、国連とは別に、欧州委員会という欧州連合(EU)加盟国による執務機関があり、「2035年までの欧州での新車100%はEV(または燃料電池車)」という目標を掲げている。ここにはハイブリッド車とプラグインハイブリッド車が含まれない。

こうした行政の動きがあり、欧州では騒音規制を含めたNAスポーツカーのモデル廃止が進んでいるといえる。

日本でも、スポーツカーの電動化が一気に進むことは間違いなさそうだ。

〈文=桃田健史〉

ドライバーWeb編集部

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