2022/05/17 コラム

立候補するにもお金と忍耐が必要!? 参院選挙の事前説明会に迷い込んだ交通ジャーナリストの昔話

ちょうど30年前の潜入ルポ



やがて説明会が始まった。自治省や法務省のお役人が次々に出てきて、受付で配布の資料にしたがい、説明するのだ。資料が入った茶封筒は6つもあった。中身は「通常選挙における政党その他の政治団体の確認等に関する取扱要領」「名簿届出政党等のしおり」「政見放送のご案内」等々。さらに「様式甲」「様式乙」「第5号書式」といった各種届出用紙とその記載例がもう山ほど。

「続きまして××でございます。これにつきましては××により××できることになっておりますので××していただきたいと存じます。それから××でございますが…」

そんな感じの説明がなんと2時間半も続いた! とんでもないことがわかった。立候補するには1人400万円の供託金が必要で、一定の得票数がないと供託金は没収されるというのである!

ただでさえ家賃でひいひい言ってるのに、その数年分をイッパツ勝負に賭ける? てかそもそも賭け金がねーよっ。資力のない者の参政権を奪うのか。いやしかし、昭和の初めまでは納税額によっては投票さえできなかったのだ。アメリカに占領されるまで女性に参政権はなかったのだ。ううむ…。

けど眉間にしわを刻んだのは一瞬だった。じつはけっこうニコニコしてたのだ。なぜって、資料の中に3冊の本、『公職選挙法令集』と『参議院選挙の手引』と『政治活動の手引』があり、定価の合計が5200円だったから。売ったら大した金になるかも、うふふ。 ※結局売らなかった。

ただ、困ったことがあった。翌日からじゃんじゃん問い合わせの電話がきたのだ。

「××新聞の選挙本部ですが、政党名はお決まりになりましたでしょうか。名簿登載人数は何人になりましたでしょうか」

最初は「未定です」と逃げていたが、何度でも「もうお決まりでしょうか」と電話がかかってくる。ついに、こう答えることにした。

「協議の結果、残念ながら出馬を断念することとしました。当分は執筆活動をとおして政策に沿った活動をしてまいります」

もともとは野次馬だった、途中ちょっとその気になった、400万円と聞いてくじけた、とは言えなかった。申し訳ない、反省しております。

でもね、ふとした野次馬根性のおかげで、選挙公報や政見放送を「自分だったらこうやる」と真剣に見ることができるようになった。陣中見舞いに来た有権者に弁当とかふるまっている選挙事務所があったら、さんざん食ってから「公職選挙法第139条違反だあ!」とわめいてやろう、なんて智恵も身についた。大きな収穫だ。中央選挙管理会も喜んでくれるに違いない。

ドライバーWeb編集部

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