2022/03/14 コラム

新型は何を目指した?「敵は己だ!」 開発責任者が語ったシビックタイプR

●大きなリヤウイングはタイプR必須のアイテム



■ニュルで何秒、鈴鹿で何秒という目標ではないのですか?

「それは結果です。進化した結果、鈴鹿で走ると何秒速くなっていましたと。鈴鹿で何秒上げると言ってしまうと、上げるためだけが目標でゴールになってしまうので。先ほども言ったように、タイムがタイプRの一番大切な目標ではなくて、究極のスポーツ性能、意のままにどれだけ操れるか、そこを大事にした目標で進化させたというところですね。

自分の思いどおりに操れるようになったら、そのぶんサーキットを走るとタイムでいったら速くなるんですよね。でも、タイムだけを追ってしまうと、エンジン馬力を上げればそれだけ速いし、タイヤのグリップを上げればそれだけ速くなるんですけれども、そういうことをやっていると、どんどんクルマが大きく、重くなるだけで、効率的じゃないですね」

■そうすると必ずしもパワーアップしているとは限らない?

「まあ、先代と同じなわけはないでしょうね(笑)。ただ、そこの詳細は、この後、これから段階を踏んでお伝えしていこうと思います」

■2Lターボの性能は磨き上げた?

「まあ、2Lターボとはまだ言っていないんですけれども(笑)。ガソリンエンジンですから、ガソリンエンジンをさらに磨き上げるということで開発しています。

新型は“究極の意のままのスポーツ”ですから、エンジンのレスポンス、スロットルに呼応するようなレスポンスというのも、普通のモデルよりも究極でなければいけません。だから、スペックだけがスゴいエンジンをポンと乗っけておけばいいというわけじゃなくて、本当に操作したときに、本当に意のままに呼応するような性能を持っていないと、タイプRのエンジンにはならない。今回はそういうところも、より磨き上げて、進化させていますので、乗っていただいたらビックリすると思います」

■今回注力したのはパワーよりフィーリングのほうですか?

「そうですね。先代の“FK8“も私が担当して、私がやるんだったら、今までのタイプRの延長線上だけじゃない、今の時代に即したクルマにしたいと思いました。つまり、ただ速いだけじゃなくて、だれがいつどこで乗っても、味わいが感じられるようなクルマです。私の中ではこの先代を「第二世代タイプR」と言っていまして、新型もその思いは何ら変わりません。だから、ただ単にニュルのタイムだけとかね、速さだけ、スペックだけのクルマというよりも乗った時に一番感動を味わえる、数値では表せないような、自分とクルマの一体感とか信頼感。そこを開発で一番大事にしました」

■ホンダは”人”中心にこだわりますよね

「とにかく(クルマは)人のためのものであるというのは、初代シビックを含めてずっと根底にあるところです。だから、機械として優秀なものを作るのではなくて、人にとって優秀なものを作るというのが、ホンダのフィロソフィ、思想です。

それで、コンセプトが“アルティメット・スポーツ”です。だから、いつもどんなクルマを作るときでも、目標性能を立てるじゃないですか。要はゴール。何をゴールにしてクルマを作るのか。もちろん、ゴールやターゲットがないと、そこに必要な要求も定まらない。ただ、ゴールを置いてしまうと、これでいいや、これで十分、みたいな話になってしまいます。これを達成できたから、もうこれ以上やらないよみたいな。そういうマインドで作っていると、やっぱり一番になれないというか、飛び抜けた進化はできないと思っているんですよね。やりきれるだけやり切るみたいな(笑)。そこが“究極”という言葉に込められているんですね。てっぺんがなくても、やり切る究極の姿を作り上げるんだという思いが一番大切で、そこをコンセプトワードとしてしっかり定めて作っています。

先代のタイプRも、やっぱり同じ思いで作って、その結果、自分たちが思っていた以上の性能を持つ商品ができたんですね。だから、中途半端なゴールなんか置かないで、やり切るんだぞと。『敵はいない、敵は自分たちだぞ』と。自分たちが進化しきれるだけ進化させるんだ、という思いで作った結果が、そういう姿・価値が作り上げられたので、今回もまったく同じ思想で作っています。『敵は己だ』と。

敵がいると、敵を超えたら、もういいじゃんということになってしまいます。でも性能って、これまでのクルマの文化からすると、別にどこにもゴールはなくて、年々クルマはよくなっていくじゃないですか。ということは目標を置いてしまうと、そこがゴールになってしまうから、本当はもっとよくできたかもしれないのに、そこで動きをやめてしまいますよね。開発だって、あーゴールを達成できたから、開発終了! そういうマインドでやっていると、他に越されちゃうかもしれないですし。まあ、モータースポーツと同じですよね。進化を止めたら、絶対にすぐに負けるじゃないですか。(シビックタイプRは)そういうホンダのレーシングスピリットみたいなものを四輪の商品として背負っているモデルだと思っているので、やりきれるだけやり切ります」

〈文=ドライバーWeb編集部〉

ドライバーWeb編集部

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