【進化か退化か】ブリヂストンの最新スタッドレス「ブリザックVRX3」の雪上性能を試す

■氷上性能が先代比20％アップの衝撃

ブリヂストンのスタッドレスタイヤ、ブリザックVRX3最大の特徴は氷上性能120％（※）という飛び抜けた性能。もともと氷上性能に定評のある先代VRX2と比べての話だからにわかには信じがたいほど。ところが試乗してみればブレーキ性能や、発進時のトラクション、旋回時のグリップや手応えに、どれもその違いを体感できる。

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高性能の理由は、第一にコンパウンド。ブリヂストンは発泡ゴムを用いた独自のコンパウンドを採用しているが、進化を重ねVRX3は、水路と呼ばれる長く大きな気泡の断面を縦長に設計。これによって、積極的に水を吸い込む毛細管現象が現れて強い吸水性能発揮するようになったのだという。

またトレッドデザインは、水の流れを徹底して解析して、横溝やトレッドブロック表面に水が回り込まないように設計している。また氷上性能を高めるために接地面積を最大限広げている。その結果、唸るほど氷上性能を体験したわけだ。

■一般的に、氷上性能と雪上性能は相反する

それで心配になるのが雪上性能だ。一般的に氷上グリップと雪上グリップはトレードオフの関係にあるといわれている。それは氷上グリップ性能が主に接地面積に影響され、雪上グリップの要となる雪柱せん断力は接地面圧に大きく左右されるからだ。

しかもトレッドデザインを見れば、まるでサマータイヤのようなシンプルなリブ（縦溝主体の）デザイン。とても雪をがっちりつかみそうには見えない。性能を示すレーダーチャートを見ても雪上性能は現状維持といったところで、性能は落ちてはいないものの、高くもなっていないように見える。

というわけであまり期待せずに走り出したのだが、明らかに圧雪路面を強くグリップしているし、トラクションもしっかりかかっている。特に踏み固められ表面が溶けてツルツルになった圧雪路面には、ヒタッとタイヤが密着してグリップしている感触がある。一般的な圧雪路面でも不思議なことにタイヤが路面をとらえるエッジを効かせてクルマを前にけり出していくトラクション感があるのだ。



走ってもなお納得できないので、構造設計のエンジニアに話を聞いた。VRX3では、氷上性能を上げるために極限まで接地面積を増やしたのだそう。とはいっても雪の性能を落とすわけにはいかないので、最新のシミュレーションのほか、手彫りで溝の太さを何度も変えてテスト。雪のトラクションを落とさないギリギリを攻めたのがこの横溝なのだという。

■ドライ性能は大丈夫なのか？

もうひとつ気になるのがドライ性能だ。コンパウンドを爪で押してみるとかなりソフト。コンパウンドがソフトだとブロックの変形が大きくなりやすく、操縦性の面では応答の遅れとなって表れやすい。平たく言ってしまえば、ドライ路面でグニャつくヨレ感が大きくなりやすいということだ。



これまた期待せずに試してみると、ネガティブな印象はまったくといっていいほどなかった。リブ（縦のブロック列）の太さを周到に設計しているのだろう。また接地面の接地圧分布を広く均一にすることで、タイヤにかかる荷重を上手に分散しているおかげのようだ。

ハンドルを切り足してみても、ブロックがヨレる感触は最小限。それでいて直進付近からの微舵応答が得られるようにチューニングされている。

荒れた路面を走らせてみると、コンパウンドのソフトさが荒れた路面の凹凸をきれいに吸収してスムーズでマイルドな乗り心地を作り出している。さらに転がり抵抗も少なく感じ、きれいに転がってくれる印象。その理由を開発陣に聞くと、「一新したトレッドパターンと、ケース剛性バランスのマッチングによって『転動感』がよくなったと考えています」とのこと。また、スタッドレスタイヤ特有の「シャー」といった高周波ノイズもほとんど聞こえてこないのもトピックだ。

■鈍感なタイヤ…つまり過敏ではダメだから

タイヤの味付けはシャープというよりはやや穏やかなものになっている。ブリヂストンでは「ロバスト性≒鈍感さ」と言っている。どんなドライバーが運転しても、緊張させないようにそれでいてステアリング応答性やインフォメーション性が得られるように作り込んだのだという。



走れば走るほど、聞けば聞くほど周到に考えられ、そしてテストして作られたタイヤであることがわかった。レーダーチャートでは特に性能アップしたようには見えない雪上グリップも、コンパウンドの吸水効果と、周到に計算されて作られた横溝によって、グリップのありかが明瞭に感じ取れるし、ドライ路面でも滑らかに走らせられる。

ブリヂストンの新作スタッドレスタイヤ、ブリザックVRX3は、誰が乗っても安心感を持って冬道を走ることができる、頼もしいスタッドレスタイヤに仕上がっていた。



〈文＝斎藤 聡　写真＝山内潤也〉

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