2021/09/27 コラム

日産GT-R「Tスペック」のボディカラーに込めた思い…R34 GT-R最終モデルをオマージュ

●GT-R 2022年モデル「Tスペック」のボディカラー、ミレニアムジェイド

2021年9月14日に発表された日産GT-Rの2022年モデルには、100台限定の特別仕様車「Tスペック」が設定された。Tスペックには6色のボディカラーが設定されているが、そのうちの2色は新色である。「ミッドナイトパープル」と「ミレニアムジェイド」は、いずれも第2世代GT-Rで使用してきた車体色のオマージュカラーだ。ミッドナイトパープルはR33型、R34型で使われ、ミレニアムジェイドはR34型の最終限定車「VスペックⅡニュル/Mスペックニュル」で設定されていた限定色がモチーフになっている。


●ミレニアムジェイド


●ミッドナイトパープル

この2色について、カラー開発に携わった日産自動車 グローバルデザイン本部 アドバンスドデザイン部 担当部長の山口 勉氏が秘話を語った。

■R33型で誕生したミッドナイトパープル・パール



ミッドナイトパープル(パール)は、R33のGT-R専用色として企画が生まれました。コンセプトは凄み、存在感の強さ、押し出しの強さ。最初のころはグレーやブルーなどをベースに開発を始めていたのですが、どうしても既視感が拭えなくて。私はGT-Rというクルマは憧れの存在で、他から真似されるようなところがないといけないと思っています。


●当時のカタログより

第1世代のハコスカとかケンメリのころには、オーバーフェンダーという特徴的なアイテムがあって、GT-Rに憧れたお客様がそれを付けて楽しんでいらっしゃいました。第2世代になってからはボディも専用になり、なかなかそういうことができなくなりました。R33では、専用色を持つというチャンスに、ぜひそのオーバーフェンダーのように真似されるようなアイテムになる色をつくりたいという気持ちがありました。

そんなこともあって、当時としてはタブーだとされていた紫にチャレンジしたんですね。やはり、それまでになかった色域なので、存在感は抜群でしたね。一方でパープルという色はややもすると、ケバケバしくなったり、品がなくなってしまったりするんですよ。ですので、ファッショナブルな魅力というのはGT-Rには絶対似合わないので、本物が持つ凄みを狙って、明度を下げて暗い中にも紫を感じられる色を作りました。暗い中にも紫を感じていただけるようなこの色がミッドナイトパープル(パール)のオリジナルの色です。

■R34のミッドナイトパープルⅡが300台限定になったワケ



ミッドナイトパープルは進化を続け、R34には「ミッドナイトパープルⅡ」が採用されました。R34の開発が終盤に差し掛かっていたころに、アメリカでマルチフレックス顔料という材料が開発されたという記事を読みました。これを見た瞬間に、もうどうしてもGT-Rに採用したいと思い、情報を集めました。やはり開発されたばかりで、数量も限られているし、値段もものすごく高かったのです。もし本当に量産を考えるんだったら、量産分をまとめて購入してほしいとのことでした。



開発はもう終盤だったこともあって、不確定な材料に手を出すのはやめようという声もあったのですが、300台限定という形で売り出したんですね。それは決してもったいをつけたのはなくて、材料が300台分しかなかったのですね。

このマルチフレックスカラーという新しい材料は、数が限られており、開発時の曝露(ばくろ)試験などでもあまり量が使えなかったので、非常に苦労しました。

■2022年モデルでミッドナイトパープルが採用された理由



2022年モデルのTスペックを開発するにあたって、商品企画の責任者である田村宏志チーフ・プロダクト・スペシャリスト(以下CPS)からリクエストされたのは2点。1つはGT方向の色、もう1つはR方向の色、この2つをぜひ作ってほしいと。


●GT-R 2022年モデルのミッドナイトパープル

そのR方向の色として開発されたのが、このミッドナイトパープルです。これはR34のときと同様にマルチフレックス顔料という、色が変わる材料を使って再現しています。今は当時のような材料の制限はなくなりましたから、デザイナーのイメージをいかに具現化するかに注力しました。

イメージソースは「オーロラ」です。白夜に輝くオーロラは、太陽風の影響を受けて空気自体が発光して光輝く現象なんですね。ただこの塗料の場合、光を受けた反射光が見えています。ですので、光輝くものを再現することに非常に苦労しました。塗料の塗膜はだいたい10ミクロンから20ミクロンぐらい。髪の毛の4分の1から5分の1くらいしかないんですよ。その薄さのなかで、発光色を再現するのには、非常に苦労しました。クルマのまわりをまわっていただくと、オーロラのようなドラマチックな色の変化を楽しんでいただけると思います。

■日本の伝統色にヒントを得たミレニアムジェイド



スポーツカーとしては、こういう落ち着いた色はなかなかないと思います。、R34のファイナルエディションが企画されたときに、Mスペックという非常に乗り心地を重視した田村CPS好みのクルマが企画されていて、当時、そのクルマの高品質な乗り心地にあった大人の色を作ってほしいと言われました。


●GT-R 2022年モデルのミレニアムジェイド

私はスポーツカーというのは赤、青といった色ばかりだと思っていましたが、この大人の色というリクエストに応えるために、やはり日本人としてすごくセンシティブで繊細なところで色を吟味して造り込んでいくということを考えようと思いました。

日本の色にまつわる古い言葉のなかに、四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)というものがあるんですけれども、これは茶色とかねずみ色、いまはグレーですよね、そういう色が非常にたくさんあるよというようなことを表している言葉なんです。昔の日本人は茶色といってもブラウンではなくて、本当のお茶の葉っぱとか、茶を入れたときのグリーンみたいな色、そういったものを繊細に区別して使い分けができていたんです。そういったことの伝統色を勉強しながら行き着いたのがこのグレイッシュグリーンの色域です。

今回のTスペックに関しては、進化版もいろいろ考えたんですけれども、完成度の高いオリジナルカラーそのままで行こうという判断をいただきました。

■同じに見えるが同じ色ではない(川口隆志チーフ・ビークル・エンジニア)



じつはミレニアムジェイドのほうが開発で苦労したんですよ。R34を開発した当時と今はクルマを取り巻く環境が大きく違っていまして、環境対策のためにクルマの造り方がどんどん変わっています。当時はもう少し揮発性のある溶剤を使っていたのですが、今は水性塗料というように塗料自体も全然違うんですね。塗装工程で焼き付ける温度や時間も変わっています。

そんななかで、昔塗っていた色だからいいのではということで、提案されたんですけれども、じつは新色の扱いで開発。さらにもっと言うと、元と同じ色にしてほしいというのが非常に難しくて、普通の新色の開発より余計に時間がかかったというのが正直なところです。

〈文=ドライバーWeb編集部〉

ドライバーWeb編集部

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