2021/05/21 コラム

ガス欠で路側帯に停止…積荷を落下させた…法律上はアウトかセーフか【道交法を深堀り】

●道交法の「じつは」

「高速にまさかの落とし物 『ブタがいる』通報相次ぐ 熊本」と2021年5月13日のFNNプライムオンラインが報じた。ブタ100頭を載せた10トントラックが南九州西回り自動車道を走行中、何らかの原因でケージが開き、ブタ4頭が落下したのだという。

同年5月17日にはHBC北海道放送が「危ない!走行中のトラックから落下物…砂ぼこりの中“間一髪”で回避 日高自動車道」と報じた。トラックの荷台からトラクターの部品が落下したのだという。

高速道路での積み荷の落下は重大事故につながりかねない。どんな罪になるのか、見ておこう。道路交通法は第75条の2の3から第75条の11まで、高速自動車国道等における自動車のルールを列挙している。高速自動車国道等とは「高速自動車国道又は自動車専用道路」をいう(同第75条の3)。それでだ、同第75条の10が「自動車の運転者の遵守事項」として次のように定めている。

◇◇◇引用始まり◇◇◇
自動車の運転者は、高速自動車国道等において自動車を運転しようとするときは、あらかじめ、燃料、冷却水若しくは原動機のオイルの量又は貨物の積載の状態を点検し、必要がある場合においては、高速自動車国道等において燃料、冷却水若しくは原動機のオイルの量の不足のため当該自動車を運転することができなくなること又は積載している物を転落させ、若しくは飛散させることを防止するための措置を講じなければならない。
◇◇◇引用終わり◇◇◇

燃料切れや積み荷の転落などを「防止するための措置」を講じるよう義務づけている。以下これを「防止措置義務」と呼ぼう。罰則は同第119条にある。「次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する」として、その第1項第12号の3がこう定めている。
◇◇◇引用始まり◇◇◇
第七十五条の十(自動車の運転者の遵守事項)の規定に違反し、本線車道等において当該自動車を運転することができなくなつた者又は当該自動車に積載している物を当該高速自動車国道等に転落させ、若しくは飛散させた者 
◇◇◇引用終わり◇◇◇

つまり、防止措置義務の違反自体には罰則はないのである。しかし、防止措置義務に違反したうえで燃料切れや積み荷の転落をやらかすと罰則の対象になる。そういう組み立てなのだね。過失の場合は10万円以下の罰金とされている。

実際には懲役や罰金にはならず、反則金ですますことができる。「高速自動車国道等運転者遵守事項違反」という漢字17文字の違反名で、反則金の額は大型車=1万2千円、普通車=9千円、二輪車=7千円。違反点数は2点だ。

防止措置義務に違反したうえで、ということは、その違反がなければ、燃料切れで動かなくなっても、積み荷を転落させても罪に問われないのか? そのとおりだ。警察官諸氏の“虎の巻”でもある『執務資料道路交通法解説』(東京法令出版)の18訂版は903ページの下段で、要するにこう解説している。ちゃんと点検していたのに、予期できない大渋滞によりガソリンを消耗して動けなくなったとか、ちゃんと固定していたのに、後続車に追突されて積み荷が転落したとか、そういうケースは故意も過失もなく、したがって罰則は適用されない、反則金もない、と。

念のため注意しておきたいことが2つある。1つは「本線車道等において当該自動車を運転することができなくなつた者」という部分だ。「本車線道等」とは本車線、加速車線、減速車線、登坂車線をいう(同第75条の11第1項)。路側帯は含まれない。よって、燃料切れで路側帯に停止するぶんには、法律上はセーフなのだ。

もう1つは「積載している物を当該高速自動車国道等に転落させ」という部分。こっちは、路側帯はセーフとはいかない。登坂車線などはもちろん路側帯も含めての「高速自動車国道等」なのだ。

ちなみに私は昔、高速道路上でガス欠になったことがある。運転していたのは古い軽ワゴンだ。燃料計の針がE(empty)を少し過ぎても走れる、ということを何度も経験していた。その日、Eまで“2ミリ”ほどあった。楽勝、大丈夫。ところがぷすぷすっと速度が落ち、また動くけれどもまたぷすぷすっとなり、何度かくり返すうちぷすすーとなった。私はあわてて路側帯へハンドルを切り、停止した。近くの非常電話で救援を要請。それから私はガードレールの外へ出て、雑草や虫を観察して時間を過ごした。半分居眠り状態のクルマが突っ込んでくる可能性があるからだ。

ぷすすーの原因は、信じられないことにガス欠だった。ゆるい登り坂だったことが燃料計の針に影響したのか。いやそれにしても! 私は呆然となった。今の新しいクルマの燃料計はもっと優秀なのかもしれないが。とにかくガス欠や積み荷の転落にはほんとご注意ください。

〈文=今井亮一〉                             
交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から裁判傍聴にも熱中。2009年12月からメルマガ「今井亮一の裁判傍聴バカ一代(いちだい)」を発行。

ドライバーWeb編集部

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