2020/11/24 コラム

トンデモ逆転裁判!公務員が80キロのスピード違反…失職逃れて罰金刑に!


公務員は失職するはずなのだが…



控訴審の第1回公判は2020年9月23日だった。被告人は黒スーツに暗色ネクタイの中年男性だ。人定質問で職業を「地方公務員です」と答えた。勤続26年だという。上掲報道のとおり、犯罪事実は首都高速(自動車専用道路)での80キロ超過。原判決は「懲役3月、執行猶予2年」だった。
 
速度違反の罰則は「6月以下の懲役又は10万円以下の罰金」だ。当サイトの別記事、「首都高は速度超過80km/hが運命の分かれ目。スピード違反を罰金で解決できない職業とは?」(https://driver-web.jp/articles/detail/32115 )で詳述したとおり、超過速度が80キロを超えると懲役刑(通常は執行猶予付き)が普通なのだ。

執行猶予は、猶予期間が終わったら刑務所へ、ということではない。猶予期間をおとなしくしていれば、判決は効力を失う。もう刑務所へ行くことはなくなる。執行猶予の期間はほとんどが3年だ。次に多いのが4年。2年はかなり軽い。執行猶予2年なら普通は文句がないはず。ところが本件被告人は控訴した。なぜ?

地方公務員法第16条により、禁錮以上の刑罰を受けた事実は「欠格条項」に当たり、失職する。刑罰は重いほうから順に、死刑>懲役>禁錮>罰金>拘留及び科料とされている(刑法第9条)。懲役刑は禁錮以上に当たる。罰金刑なら失職しない。だから罰金刑を求めて控訴したのである。

執行猶予付きでも懲役刑だと大ダメージになるのは地方公務員だけじゃない。国家公務員も自衛隊員もだ。医師は医業停止になるし、不動産業者はさまざまな免許、資格を失う。起訴されて初めてそのことを知り「どうか罰金刑に!」と懇願する、そういう裁判を私はさんざん傍聴してきた。

残念ながらその懇願はとおらない。簡単に言えば、速度違反の裁判は何より超過速度を重視する。あとは普通車か二輪車か、前科はあるか、そんなところだ。検察官が懲役相当と考えて公判請求(正式な裁判への起訴)をしたなら裁判官はそれに従うのが決まりだ。「どうか罰金刑に!」という懇願が無残に蹴られる裁判を、私はさんざん傍聴してきた。

さて、2020年9月23日の第1回公判では被告人質問がおこなわれた。こんなシーンがあった。

弁護人「執行猶予付きでも懲役刑だと失職…退職金はどうなりますか?」
被告人「全部か一部…受給できません」
弁護人「もし失職したら」
被告人「手に職もないし、免許証はこの手で自主返納しました…コロナ禍で再就職は…」
弁護人「裁判所に何か言いたいことはありますか?」
被告人「(原判決のままだと)自分は失職します…一審の裁判官から更生してくださいと言われましたが、再就職が困難な中で、更生はとても…」

「更生してください」は儀礼的な接尾語みたいなものにすぎない。実質的意味はないと、私なんかはヘラヘラ笑える。しかし40代後半で失職、路頭に迷う者には、残酷な言葉に聞こえるのだ。

被告人「最後のチャンスを下さい、お願いします!」

ああ、可哀想に。2020年10月16日、無残な判決を見届けてやろうと私は出かけた。傍聴人は、被告人の関係者と思しき男性のほかに私1人だった。たかが「道路交通法違反」の控訴審判決など一般傍聴人は興味を持たないのだ。硬く緊張する被告人を証言台のところに立たせ、裁判長が控訴審の判決を言い渡した。

ドライバーWeb編集部

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