2020/10/27 コラム

Honda×BBS「軽さのその先へ」|シビック タイプR リミテッドエディション専用ホイール開発秘話|

●本田技研工業 四輪事業本部 ものづくりセンター 完成車開発統括部 車両開発一部 開発管理課の竹内 治(たけうち・おさむ)さん。「リミテッドのコンセプトは『速さと軽さを研ぎ澄ます』。それを叶えるにはBBSさんしかない!ということで、二人三脚でマイナス10kgに挑みました」

世界で約1000台、日本で200台限定のリミテッドエディション。シビック タイプRがみずからを超えるには”軽さ”が必要だった。パートナーは、鍛造を極めたホイールブランド「BBSジャパン」。この化学反応が生み出した、驚異の鍛造ホイールに迫る。


鍛造以外の選択肢はない


ホンダを象徴する存在であるシビック タイプR。今回の改良で追加されたリミテッドエディションのトピックは「軽量化」。タイプRの原点ともいえる軽さに徹底してこだわった結果、リミテッドエディションは鈴鹿サーキットで「FFモデル最速」の称号を獲得。その原動力となったのが、ホンダとBBSジャパンが共同開発したタイプR専用設計の20インチ鍛造アルミホイールだ。



目標数値は、スタンダードの鋳造ホイールに対してマイナス10kg(1台分4本)。それを達成しつつ、強大なトラクションを受け止める剛性と軽さを両立するには鍛造以外の選択肢はなかった。



鍛造を行うホイールブランドのなかからBBSジャパンをパートナーに選んだ経緯について、シャシー設計を担当したホンダの竹内 治さんは「開発メンバーの総意でした」と振り返る。ホンダでは過去にも初代NSXタイプSやS2000(AP1)の純正オプションにBBSの鍛造ホイールを採用してきたが、量産モデルにBBSの鍛造ホイールを採用するのは、じつに20年ぶり。当時ホイールに求められた要件は「デザインがカッコよくて壊れないこと」だったが、今では乗り味や操舵感を左右するものと理解されており、要求値はケタ違いに高い。

BBSの鍛造への期待も込めて、ホンダのデザイナーが描いたのは「ひねり」の入った細身のスポーク。これをベースに開発が進んでいった。


●意匠として譲れない部分と軽さ・強度など性能とのバランスを取るのが難しかったのが、リムエンドに向かってひねりを利かせたスポーク。強度や応力分散に考慮しながら、タイプRらしい躍動感あふれる形状を実現

「はたしてこのカタチで鍛造として強度が成立するのか否かという知見を持ち合わせていなかったので、BBSさんのノウハウに頼って仕様を構築してもらいました」と竹内さん。

案の定!? 最初は強度検証でNGを連発したそうだが、そこはホンダのデザイナーも譲れない。単に細い線を描くのは効率的だけど、シンプルすぎてがない。わざわざ車種専用ホイールを新規で造るからには鍛造ならではの付加価値が欲しい。

ちなみに、5つのツインスポークがナットホールに向かって形を成す五角形のモチーフは、レース用のセンターロックをイメージしている。

そしてハイライトとなるスポークの「ひねり」は、見る角度や光の加減によってディテールに深みと抑揚を付与。スポークを極限まで細くできる鍛造ならではのデザイン表現だ。

ところが、このひねりが強度的にはやっかい。本来はスポーク全体に応力を分散させるのが理想的だが、ねじりを強くするとスポークの先端に応力が集中してしまう。

試行錯誤の結果、スポークの表面は細さを保ったまま、裏面に少しボリュームを持たせることで解決した。

タイヤから伝わる入力を受け止めるためには、ホイールナット周りの肉の盛り方も重要。できるかぎり円の中心に寄せて肉付けすることで、軽さと強度、回転バランスを両立した。

ぶっつけ本番、ニュルで試走


前述のプロセスまではモノは作らずに、すべて解析=机上で行なったとのこと。しかし、実際にクルマに装着して乗って確かめてみないと、タイヤからホイール→サス→ステアリングと入力がドライバーに伝わるまでの動的なバランスがわからない。

そこで、BBSが造った試作品を、ドイツのニュルブルクリンク北コースに持ち込んだ。

「いざニュルで走らせてみると頼りない部分が出てきました。コーナーで、もっとステアリングを切りたいけど、切って大丈夫なのか?と迷いが出てしまって、曲がっていけない。ドライバーがクルマを信頼しきれなかったんです」と竹内さん。

起伏に富んだコースを全開で走り、剛性が不足する部分に金属パテを盛るという作業を繰り返した。その結果、抜群の効果を発揮したのが、ボルトナット付け根への肉盛りだ。

「ステアリングを切り込んだときのフィーリングが向上しました。スポークからリムにつながるアールも、現場で肉を盛ったり減らしたりしながらベストなボリュームを見いだしました。ニュルのコーナーでも、これなら安心して切っていける。テストでもはっきり違いましたね」

ただ肉を盛った分、どこかを減らさないと10kgの軽量化には届かない。そこで頼りになるのがBBSのアルミ鍛造技術。鍛造工程を経ることで材料強度が増し、より軽く薄くできるのがBBSの真骨頂だ。結局、リムはホンダ最薄の2.6mmを実現。


●写真はリムとスポークのカットモデル。ローラーの延圧加工でインナーリムを成形する絞り加工により、鍛造組織を壊さず2.6mmの薄さを実現。軽さを追求する反面、スポークとリムの接続部やホイールナット周りには肉を盛った

軽量化が走りに及ぼす効果は想像以上。その効果を最大限に生かすため、リミテッドエディションはアクティブ・ダンパー・システムとEPS、VSAの設定をホイールとタイヤに合わせて見直し、ダイレクト感あふれる乗り味を実現した。

ホンダとBBS、両社のスタッフが口にしたのは「やり切る」というワード。妥協なきモノづくりが、最速のタイプRとして実を結んだ。


●ナットとハブの締結面に彫られた小さな溝に注目。ナットを締め込んでいくと面どうしがピッタリと密着し、タイヤからの入力がダイレクトにホイールのスポークに伝えられる。操舵感を高めるBBSホイールのこだわりだ



●マットブラックのリムに光り輝く「BBS」と「FORGED」のロゴ。塗装後にラインから外され切削加工で文字を彫り、表面保護のクリア塗装を施した。目標のマイナス10㎏(1台分)を達成したBBSホイールに対するリスペクトが込められる

鍛造と鋳造は何が違う?〈鍛造は日本刀である〉


鍛造の代表例が日本刀。熱した鉄をハンマーで打って、たたいて、延ばして、折り曲げてといった具合に、何度も同じ工程を経るうちに金属の層が重なり、強靭な刃に鍛え上げる。 

ホイールの鍛造工程もこれと同じで、原料となる鋳造のアルミビレットからホイールの形になるまでに基本的に3回鍛造を繰り返し、圧力と温度をかけて狙った形に変化させる。

あえて小径ビレットを潰し込んで、理想の鍛錬比(4以上)を狙う理由は、鋳造ビレットとしての性質から鍛造のアルミ材としての性質に変化させ、材料強度を増すため。鋳造に比べて、より薄く、軽く作れる。

〈文=湯目由明 写真=澤田和久〉

ドライバーWeb編集部

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