2020/04/28 Q&A

【意外と知らない!?】クルマも? 部品も?「MOPAR」なワケ

アメ車の話題にしばしば登場する「MOPAR」というコトバ。NASCARのワークスマシンのボディ上に大きく描かれたロゴをご覧になる機会も多いと思う。

「MOPAR」はクライスラー系の純正部品のブランド名である。しかし、このコラムを見てくださっている諸兄であれば、MOPARが単なるパーツのブランド名ではなく、「クライスラー系のクルマの総称がMOPARにして、その熱烈な愛好者をMOPAR FANと称す」こともご存知だろう。さて、今回はそもそもMOPARって何なの? という話をしたいと思う。


●1937年に販売されたラジエター用クーラント(不凍液)のレプリカ缶(左)と現在のオイルフィルターのパッケージ(右)

クライスラー系の純正部品のブランド名として使われている「MOPAR」。MOtor(モーター)とPARts(パーツ)を合わせたものが語源で、1937年に純正のラジエタークーラント(不凍液)に使用されたのが始まりだ。

クライスラーが60年代のNASCARで、独特な半円球の燃焼室を持つ「HEMI」V8エンジンの搭載やエアロボディなどで大活躍し、市販車でも他社よりも硬派なイメージのマッスルカーを送り出した。そして、それらのチューニングパーツとしてMOPARが装着され、大小さまざまなレースでのスポンサーシップのほか、ワークスチームにもMOPARが積極的に冠された。こうして、クライスラー系のハイパフォーマンスカー=MOPARという図式が定着したのだ。

しかし、北米の自動車メーカーで純正部品ブランドには、フォードの「MOTOR CRAFT」(旧AUTO LITE)、GMの「AC DELCO」や「GOODWRENCH」などもある。先に記したNASCARのワークスマシンのボディにも、「MotorCraft」「GoodWrench」などのロゴがメインスポンサーとしてデカデカと貼られている。日本で言えばトヨタのワークスマシンに「DENSO」のロゴが貼られているような感じだ。

MOPARがちょっと特別なのは、MOPAR以外の純正部品ブランドの名が、系列のクルマそのものの呼称として使われていないということだ。フォード系は単純に「フォード」で、ロゴの形状から「ブルーオーバル」などと呼ばれることもある。GMはブランドごとのキャラクターが強いことからか「シェビー」「キャデラック」「コルベット」など、系列内のブランドやモデル名で呼ばれるのが一般的だ。

クライスラー系にはハイパフォーマンスモデルに「SRT」も存在するのだが、今日でもMOPARのほうが圧倒的に通りのいい愛称だ。クライスラーがFCAグループになった現在、アメリカで販売されるフィアットやアルファロメオにもMOPARブランドの部品が付くが、これらのクルマがMOPARとは呼ばれることはない。MOPARはあくまでもクライスラー車限定の愛称なのだ。

なぜ、MOPARだけがクライスラーのクルマを表すような使われ方をするのだろう? ここにはクライスラーのメーカーとしての立ち位置が大きく影響している。


●純正部品はもとよりレース用エンジンやチューニングパーツとしても「MOPAR」の人気は高い

そもそも、北米ビッグ3のなかで、企業の歴史や販売台数において永遠の3番手であるクライスラー。企業もファンも、3番手の意地というか、上位陣への強烈な対抗意識のようなものがあり、オーナーたちの独自の矜持や結束力がずば抜けて高い。そんな土壌により、MOPARがクライスラーのマッスルカーを象徴する存在となり、ハリウッド映画では敵役やヒール役、アウトローのクルマの定番として登場するMOPARのキャラクターを形作っているというわけだ。

〈文&写真=ケニー中嶋〉

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