ホンダの屋台骨を支えるフィットが、ホンダ電動化のコア技術「2モーターハイブリッドシステム」を引っさげ、鮮やかに刷新した。乗る人みんなに優しいクルマって一体どんなもの? 新型フィットで押さえるべきポイントを“簡単”まるわかり解説します。
歴代の設計思想を受け継ぎ、数値には表せない「心地よさ」をテーマに登場した4代目。顔つきはコワモテだった先代から一変、どこか笑みを浮かべたような優しい印象に。それこそが新型の性格の象徴。モデルラインアップからもそれがわかる。
これまでのような装備の違いによるグレード表記をやめ、ユーザーのライフスタイルに合わせたモデル選びができるようになった。
まずシンプルな「ベーシック」、デザインと快適性を備え、販売の中核を成すだろう「ホーム」、アクティブさを発散する「ネス」、上質な仕立ての「リュクス」、そしてSUVルックの「クロスター」だ。
パワートレーンは1.3Lのガソリンと1.5Lハイブリッドの「e:HEV(イーエイチイーブイ)」をラインアップ。注目は後者だ。
エンジンで発電しモーターで走行する「ハイブリッドドライブ」を基本に、走行状況に応じて最適なモードを使い分ける2モーターシステムのe:HEVを採用。発電用と走行用、2つのモーターとエンジン直結クラッチを搭載した「2モーター内蔵電気式CVT」を筆頭に、「1.5Lエンジン」、バッテリー電圧を直流から交流に変換するパワードライブユニットなどを備えた「パワーユニットコントロールユニット」、リチウムイオン電池と制御用ECUなどを一体化し、後席下に配置した「インテリジェントパワーユニット」から構成。これらをコンパクトにワンモーションフォルム内へ収めた。
e:HEVに搭載されるエンジンは、1.5Lアトキンソンサイクルのi-VTEC。従来の2モーターHV用エンジンに対し、チェーンケースへの遮音材適用などにより、エンジン放射音を発生源から抑えた。アイドリングストップからの復帰もよりスムーズに。エンジンとパワーユニットコントロールもインサイトより小型化し、コンパクトカーへの搭載が実現した。
ボディも軽量化、高剛性化、高強度化が図られた。ハイテン材のなかでも特に強度の高い980MPa級以上の適用比率を従来型の10%から18%に拡大。ルーフサイドレールやセンターピラーの内部部材には、成形性を兼備するλ(ラムダ)型980MPa級を採用。強度を保ちながら薄板化を図り、軽量化を実現した。新型の特徴である極細のフロントピラーを実現するため、全面衝突時の荷重を1本後ろのサポートピラーへ伝えるよう設計。
新型のテーマのひとつである乗り心地のよさを実現すべく、フロントサスはダンパーへの横力最小化のほか、構成パーツの摺動(しゅうどう)&振動トルクを低減。これらにより、従来型比でフリクションを半分にまで低減。振動入力初期から素早く振幅することで、細かな凹凸の吸収性能を高めた。リヤサスも高剛性化とともにロードノイズ低減を実現している。
ここからはインテリアの注目ポイントを解説
歴代のワンモーションフォルムを形成し、すっきりとした前方視界のキモになるのが極細のフロントピラー。ほかにもワイパーを室内から見えないように配置し、インパネ上面をフラット&ブラック化するなど、視覚的なノイズを徹底的に減らした。メーターを小ぶりなバイザーレスとしたのもそのためだ。その7インチフルカラー液晶メーターも、見やすさ、わかりやすさを追求し、表示はごくシンプル。ステアリングのセンターパッドも驚きの小ささ!
フロントシートに、上級セダン用として開発した新世代フレームを採用。これに骨盤から腰椎までを支える樹脂製マットを組み合わせることで、体圧を面で受け止め体をしっかり支えるカタチにした。座面のパッドも従来型より30mm以上厚くし、併せてパッドの硬度を下げソフトな座り心地を実現した。
リヤシートも、同様に座面パッドの面積拡大と従来型比24mm厚型化。背もたれの角度の最適化が図られ、足元スペースも拡大。これらにより、上級セダン並みの乗り心地を実現したという。歴代踏襲する後席ダイブダウン&チップアップ機構は新型も継続採用する。
荷室は、従来型より開口幅を拡大することで、日常の使いやすさが向上。特に重視したのは、積み降ろしの際に荷物を通過させる頻度が高いテールゲート下部で、下端から50mm上の幅を60mm拡大(830mm)、200mm上を70mm(1020mm)、最大開口幅も10mm広げた1080mmとした。また、HV車の荷室は床下のIPU(バッテリー)の構造を見直し、使用頻度の高い後方の段差をなくしたことで床下収納の容量を3.5倍も拡大。
これまでミリ波レーダーで行ってきた対象物との距離測定を、新型は最新の高速画像処理チップにより単眼カメラのみで実現。カメラの有効水平画角約100度と広角化した。これにより、一般道で歩行者が横から車道へ進入した場合や、高速道路で他車が自車先方へ割り込んだ場合など、従来型よりも早く検知できる。車両前後に備えたソナーセンサーによる、前後の誤発進抑制機能を設定した。
新型フィットから、専用車載通信モジュール「ホンダコネクト」の搭載により新たなコネクティッドサービスが開始。「ホンダトータルケアプレミアム」は緊急サポートセンターにより24時間365日サービスを提供。また、スマートフォンからエアコンの始動やドアロック操作、クルマの検索も可能なホンダリモート操作やALSOK駆けつけサービスも利用できる。
当初、2019年10月の東京モーターショーでの正式発売を予定したフィット。くしくも最大のライバルとほぼ同じタイミングとなった。何か因縁めいたものを感じてしまうが、2台のキャラクターはおもしろいほど対照的だ。
ひと目でフィットとわかるワンモーションフォルムを受け継ぎシンプルモダンなフィットに対し、全身からみなぎる力を発散するヤリスはアグレッシブ。パッケージもそう。
基本5ナンバーサイズを堅持したフィット(クロスターが30mm幅広で1725mmの3ナンバー)に対し、ヤリスは全車が5ナンバー。また、わずかでも後席の空間を広げたフィットに対し、ヤリスは(先代型となる)ヴィッツと同等を確保、という名の実質縮小。前席を重視している。
ともに主力となる1.5Lハイブリッドは、フィットが2モーターe:HEVを搭載するも、燃費ではWLTCモードで29.4km/L(e:HEVベーシック・FF)と、ヤリスの36.0km/L(ハイブリッドX・FF)に及ばなかった。しかし、他車で定評あるシリーズHV走行ではヤリスを超えるEV感覚を味わわせてくれるはず。実燃費とともに、TNGAプラットフォームを採用するヤリスに、どこまで走りで迫るのかに注目だ。
先進安全・運転支援装備の充実度は互角。ただしACC(アダプティブクルーズコントロール)はフィットが全車速型なのに対しヤリスは約30km/h未満で解除されるのが残念。
<文=driver@web編集部>
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