2019/03/08 ニュース

[新型マツダ3]スカイアクティブX搭載車の発売は秋ごろ? “X”をキーマンが語る※再掲載[前編]

 新型マツダ3は、すでに販売ディーラーで見積り作成が始まっている。ただ注目エンジン、スカイアクティブX搭載車の価格は“暫定”であり、発売はどうやら秋ごろまでずれ込むとのことだ。新型マツダ3の価格は、下記よりhttps://driver-web.jp/articles/detail/14990/スカイアクティブXとは、マツダ独自の燃焼方法「SPCCI(Spark Controlled Compression Ignition:火花点火制御圧縮着火)」を実現した夢のエンジン。ガソリンエンジンにおいて、圧縮着火を制御する技術の実用化に世界で初めてめどを付けたのだ。
●新型マツダ3が初搭載となるスカイアクティブX。排気量は2リットルで、スーパーチャージャー(マツダは「高応答エアサプライ」と呼ぶ)と、マイルドハイブリッド技術「M Hybrid」を組み合わせる
燃費向上に効果的なのが、薄い混合気で爆発させること。これを可能にするのが、ガソリンエンジンでの圧縮着火だ。ディーゼルは圧縮着火だが、ガソリンは燃えにくく、ちょっとした温度変化で異常燃焼や騒音が発生。実用化は難しいと考えられていた。しかしマツダはスパークプラグから発生する火球を「第2のピストン」として圧縮の調整に活用し、圧縮着火の成立範囲を大幅に広げることに成功。これが、“X”に使われるSPCCIである。
 
SPCCIを使った“X”は、単に燃費がいいだけではない。ディーゼルのように豊かなトルクと鋭いレスポンスを持ち、しかもガソリンのように高回転まで伸びる。つまり、ガソリンとディーゼルのいいとこ取りなのだ。また、燃費のいい回転数とトルクの範囲が広いため、ギヤ比の設定に自由度がある。つまり、燃費を落とさずにより走りが楽しいギヤ比設定が可能だという。事実、新型マツダ3の“X”搭載車は、他のエンジンモデルよりもギヤ比を下げた設定とし、キビキビとしたレスポンスのいい走りが楽しめるという。燃費だけでなく、走りの楽しさも追求するマツダらしいエンジンだ。というわけで、さらにスカイアクティブXの魅力を知るために、driver 2018年7月号に掲載したインタビュー記事を再掲載する。当時、直撃したのは、もちろんスカイアクティブエンジンの生みの親、人見光夫 常務執行役員 シニア技術開発フェロー 技術研究所・統合制御システム開発担当だ。氏が語る、エンジンの理想と現実にじっくりと耳を傾けてみよう。
●岡山県出身、1954年生まれ。東京大学大学院で航空科学を学ぶ。1979年、東洋工業(現マツダ)に入社。パワートレーンの先行技術開発に従事。2011年、スカイアクティブエンジンを市販化し、世界を驚かせた。好きなものは、カープと愛犬とビール
 ※下記からは、2018年5月20日時点での情報です。年代なども修正せず、そのまま再掲載しています。インタビュワーは、本誌レポーターの戸田治宏氏 

世界一のエンジンへの挑戦

―― マツダは「世界一のエンジンを目指し続ける」と言っていますが、具体的にどういうことでしょうか。人見 「これが世界一」と言って「バカか」と思われないものを世界一と言え、ということですよ。「燃費で世界一」でもいいですよね。―― 燃費なら燃費、動力性能なら動力性能で世界一ならいいと?人見 排気量あたりの出力世界一と、熱効率世界一を両立させるのは不可能ではないですが、とてつもない値段になる。もしやったら。それは正しい道じゃないと思いますから。効率も(燃焼のある)一点で「世界一」と言う人がいますが、一点だけ使って運転するわけじゃないんで。―― マツダは2011年に高圧縮比ガソリンのスカイアクティブG、12年に低圧縮比クリーンディーゼルのスカイアクティブDを実用化以降、将来に向けた次世代技術の段階的目標をロードマップとして示してきました。進捗は計画どおり?
●2019年以降、一気に加速するマツダの次世代技術。デザインも含めて、それらを詰め込んだのが新型マツダ3である
人見 現状はそのとおりに来ています。スカイアクティブXもそのようにやっています。―― 当初、“X”は遠い未来の話だと思っていましたが、昨年ついに19年の市場導入が公表されました。気がつけば来年ですね。人見 らしいですね(笑)―― メディアに実験車の試乗までさせましたが、その後の開発は順調?
人見 あそこまで飛んだヤツが順風満帆とはいきませんよ。でも、できませんとも言えない。頑張りますとしか言えません。―― しかも、XはスカイアクティブGの第2世代で、人見さんは第3世代にも言及しています。「断熱」というようなウワサも……。
●縦軸がBSFC=正味燃料消費率で、下に来るほど高効率。横軸がトルクだ。第3世代は、第1世代よりも全域で圧倒的に効率がよくなるという。第3世代とは、“X”の次。「遮熱」技術でさらに効率を高めたエンジンだ。第3世代はシリンダー内のコーティングや材料の開発で冷却損失を減らし、実用燃費を25%以上も改善。これにより、液化天然ガス発電で走るEVよりも環境に優しいエンジンになるという
 人見 開発は始めています。断熱と言ったら間違いと言われる。遮熱です。燃焼室内で熱が冷却水に出て行きにくくするものを入れていく。エンジンは燃えていたら高温高圧だから、熱がどんどん逃げていくわけです。それを減らすために世間は今、ロングストローク(化)をやっている。そうすれば(シリンダーの)容積に対する面積の比率が下がる。(熱効率が)よくなるのは確かです。そういうものではなく、熱そのものが伝わりにくくする表面処理を入れて、さらに薄く燃える領域を広げるのが次のステップです。―― 狙いは熱損失を減らすこと?人見 燃費をよくするには、すべてそう。冷却損失と言っているやつです。燃費は圧縮比を上げた分だけよくはなりません。熱が逃げていくんです、高温高圧になるから。温度が上がったら、熱は伝わって逃げていくのが当然。仕事は圧力でする。冷えたら圧力は下がる。せっかく仕事をするエネルギーを持っていたのが、冷えて縮まってしまうということ。逃げていったら、その損失はすごく大きいんですよ。リーンで圧縮着火なんてしようとしたら、高圧縮、吸気加熱、いろいろな手段で温度や圧力を上げないと自己着火なんてしません。上げたら熱が外に出て行って、よくしているのに悪くなる要素もかなりあって。その悪くさせない「遮熱」を次のステップでやります。―― スカイアクティブXのSPCCIに、遮熱をプラスすると。人見 そうです。SPCCIもあるし、(点火を使わない)純粋な圧縮着火、つまりHCCI領域もあるかもしれない。まぁ全域というのは無理ですが。―― 遮熱できれば、圧縮比はもっと上げられますか?人見 そうですね。現状は圧縮比をどんどん上げても、結局は冷却損失で食われて上げただけのゲインは得られません。遮熱をやれば、上げれば上げただけの効果が出てくる。それでも、(アクセル)全開の出力性能も満たさないといけない、そのあたりで圧縮比(の設定)は選んでいきますが、今よりは上げる方向です。―― ガソリンのオクタン価との相関関係は? ハイオクタンだと高圧縮比でもノッキングしにくく、エンジンの環境性能向上に有利なため、アメリカでは95に引き上げて統一という動きもあるようです。人見 関係はもちろんあります。オクタン価が高いと軽負荷で圧縮着火しにくい。オクタン価が高い地域には高い圧縮比、低いオクタン価には低い圧縮比でベストマッチさせていく。アメリカなんかはターボエンジンでノッキングを防ぎたいから、オクタン価を上げたいのでしょう。―― そうか、HCCIになるとオクタン価は今のように高ければいいというものではないですね。人見 圧縮着火をやるには、オクタン価70なんてめちゃくちゃ低いほうが、熱効率がいい場合もある。でも、出力も出そうと思ったら難しい。―― 第三世代の実用化のめどは?人見 それを言わせないために、広報(担当)がそこにいる(笑)。ステップとしては示しているが、年代は言っていません。しかし、こういうものは規制に併せて導入しなければ意味がない。それを考えれば、だいたいわかるでしょう。

ディーゼルは死なない

―― クリーンディーゼルは今後どういう進化をたどるのでしょうか。人見 ガソリンエンジンでNOxを下げていい燃費を出そうと思ったら、空燃比を30以上にすればいい。ディーゼルはもっと薄い。でも、ディーゼルは薄いと言いながら、じつはそんなに薄くない。平均で見れば薄くても、軽油は吹いたところから火がついてしまう。広がる前に濃いところから燃えてしまうんです。ディーゼルの空燃比は、濃いところから薄いところまでバラバラ。もっとよく混ぜてから燃える状況を作れば、(燃費は)さらによくなる。―― 世界的に電動化へシフトしているように見えますが。人見 いや、欧州もディーゼルを開発しているに決まっている。日本はディーゼルやめようなんて言っているメーカーもありますが、そんなことしていたらまた出し抜かれますよ。今は(15年に発覚したディーゼル不正問題で)怒られているからおとなしくしているが、じつは開発している。欧州だって、最新の(排ガス)規制に適合したものだけなら、今みたいな都市の排ガス問題は起きていないはずです。みんなそう思っているけど、今は言えない。どの口が言うんだと言われるから(笑)。―― HCCIに実現の可能性があると知るまでは、技術的にやり尽くした感のあるガソリンよりもディーゼルのほうが進化する余地があると思っていました。人見 いや、今はディーゼルのほうが(燃費が)いいんだから、行く先が同じだと思えば、改善の余地はガソリンのほうがあると言えます。でも、最初ディーゼル(の開発)は大変でしたけど、圧縮着火の世界に入ったらガソリンのほうが手段的には難しい。ディーゼルのほうがやりやすいんです。ディーゼルは死なない。(燃料を)吹いておけば火がつく。ガソリンは上手にやらないと、突然死か大爆発かという領域に入る。これを手なずけるのは圧倒的に難しい。 ※以下後編に続く。ロータリーエンジンの話もあったり……。近日アップ予定、お楽しみに!

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