2019/02/26 ニュース

〈試乗記〉その心臓に宿るは「情熱」/アバルト124スパイダー

イタリアのスポーツ魂が込められたアバルトのクルマたち。なかでも特異な出生秘話を持つのが124スパイダーだ。イタリアと日本の職人が作り上げたスポーツカーは、デザインも走りもラテン気質に仕上げられていた。

サソリの毒が操縦性を刺激


フィアット124スパイダーは、フィアットグループとマツダの技術提携によって誕生した2シーターのスポーツカーだ。このカテゴリーは市場規模が小さくメーカー単独での開発が難しいだけに、こうしたコラボなら大歓迎である。ボディ骨格やサスペンションの構成はロードスターがベースだが、デザインはフロントとリヤビューを大変更。醸し出す雰囲気は、完全にラテン系。詳しくない人なら、小粋な欧州のスポーツカーだと思うだろう。エンジンはフィアットグループの1.4リッター直4ターボを搭載している。日本には、さらにホットに仕上げられたアバルト124スパイダーだけが投入される。最高出力は10馬力アップの170馬力を発揮。最大トルクは250Nmと、1130kgの車重には十分すぎるほどだ。走り始めるとすぐに低回転域からトルクの充実ぶりが確かめられる。それに、力強いだけではなく中回転域にかけてトルク感がモリモリッと立ち上がってくる。吸気バルブを油圧制御し開閉タイミングとリフト量に加え開閉回数(吸気行程で2度開閉するといったスゴ技も可能)も可変できるマルチエアの威力により、アクセル操作に対して超リアルな応答性も実現している。こうした特性が、交差点からの発進加速とか先行車との車間調整とか日常的な場面でも楽しめるあたりがウレシイ。さらに、アクセルを踏み込めば中回転域からはパワーが炸裂し、ヴァオーンというエンジン音とともに鋭い加速が6000回転オーバーまで持続。吹き上がりの勢いに任せれば、低いギアならレブリミットの6500回転まで瞬時に達する。さらに、6速MTの各ギア比が低めなので2速でフル加速しても90㎞/h以内。つまり、高速道路の本線合流などでこの刺激を実感する機会があるわけだ。次の瞬間に3速へシフトアップしても、エンジン回転数が落ちすぎず4500回転でつながる。なので、情熱的な加速がまだまだ持続しそうな期待感もアリ。サスペンションは、アバルトによる“お見事”と絶賛したくなる設定だ。かなり引き締まっているため目に見えない路面の小さな起伏を体に伝えるのに、衝撃の角が取れているので少しも不快ではない。ステアリング操作に対しては、素早く切り込めば長い鼻先がズバッと向きを変えるダイレクトな応答性を示す。この、チョッと昔っぽい特性がスポーツカー好きのハートをグサリと刺す。最近ハヤリのスッキリ系の応答性も魅力的だけれど、イタリアの伝統あるブランドのアバルトだからこそサソリの毒を感じさせるこうした刺激が似合う。でも、刺激が強すぎて性能を持て余しそう……といった心配はご無用。アクセルを穏やかに操作するだけで、充実したトルクが力強さの余裕になる。操舵性も同様で、コーナーに合わせて素直に切り込めばリニアに応答する。そんな、フルオープンにして風を感じながら都会を駆けぬける場面がふさわしい特性もアバルト124スパイダーならでは。これは、走りもデザインも正真正銘のイタリアン・オープンスポーツだ。
●フィアットグループの1.4リッター直4「マルチエア」ターボを搭載。アバルト仕様は170馬力/250nm。踏み込めばかなりスポーティな加速でドライバーを魅了


●インテリアはロードスターよりもスポーティさを強調。レッドのメーター盤面も気分を上げてくれる。MT仕様でもスポーツモードを選択可能だ

●標準シートはアルカンターラ/レザー仕様。ロードスターより背面はソフトな印象だ。滑りにくく、スポーティな走りでも身体を保持しやすい

●ブリヂストン ポテンザRE050Aのサイズは205/45R17。赤いブレンボキャリパーが、サソリの毒をいっそう強いものにしている

〈アバルトとは?〉


●イタリアの名エンジニアでありレーサーでもあったカルロ・アバルトによって1949年に創業。レースシーンでの輝かしい活躍や高性能なチューニングキットが話題を呼び、アバルトの名はクルマファンの心に速さの代名詞として刻み込まれた。現在、日本でサソリの紋章をまとうのは、フィアット500ベースの「595」と、マツダ ロードスターの兄弟車「124スパイダー」の2モデルだ
              ●バリエーション&価格駆動方式:FRエンジン:1.4リッター直4ターボ変速機:6速AT/6速MT価格:409万3000円/398万6000円●主要諸元■124スパイダー(FR・6速MT) 主要諸元 【寸法mm・重量kg】 全長×全幅×全高:4060×1740×1240 ホイールベース:2310 車両重量:1130 乗車定員:2人 【エンジン・性能】種類:直4DOHCターボ 総排気量:1368cc ボア×ストローク:72.0mm×84.0mm 圧縮比:9.8 最高出力:125kW(170ps)/5500rpm 最大トルク:250Nm(25.5㎏m)/2500rpm 使用燃料・タンク容量:プレミアム・45リッター JC08モード燃費:13.8㎞/リッター 【諸装置】サスペンション:前ダブルウイッシュボーン/後マルチリンク ブレーキ:前Vディスク/後ディスク タイヤ:前後205/45R17www.abarth.jp〈文=萩原秀輝 写真=真弓悟史〉

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